第五十六話 副将戦、リジー対アリマ
リジー王子とアリマ関は仕切り線を挟んでにらみ合うわ。
お相撲の勝負の七割はこの立ち会いで決まると言うから二人とも闘気が満ちあふれているわね。
二人の気合いがどんどん高まるのを、武道館にあつまった庶民エルフの観客たちも固唾をのんで見守っている。
こうやって土俵も観客席も一体になって緊張感がどんどん上がる瞬間が好きだわ。
お相撲の醍醐味、という気がするわね。
気力が上がりきり、呼吸が合った。
二人はとんと拳を土俵に置き、立ち上がる。
ドカンとリジー王子とアリマ関が激突したわ。
大人と子供ぐらいの体重差があるから、リジー王子は吹き飛ばされそうなものだけど、そこは技術で衝撃をいなしたわ。
リジー王子は、まだ体は出来ていないけど、技はどんどん冴えていくわね。
メリハリがあってキレのある動きだわ。
アリマ関は実力が高いから動きがシンプルね。
動きまくるリジー王子に対して、動きがゆっくりに見えるけど、技が裏打ちされた動きだから無駄が無いのよ。
リジー王子はアリマ関の左廻しを取った。
続けて右廻しを取ろうとするけど、アリマ関は嫌がって持ち手を切るわね。
あ、あぶないっ!
「暗黒そっ首落とし……」
うまいっ、リジー王子は半身になって避けたわ。
付与技の動きをしれば逃げられるわね。
彼はそのまま左廻しを引きつけ腰投げ!
アリマ関はあぶなげなくそれを耐える。
なんという強靱な足腰なのかしら。
よほど技の拍子が合わないと動きの質で消されてしまうわね。
アリマ関が体を開いた。
なにか来る!
ぶわっとアリマ関の右腕と左腕に炎が現れた。
「火炎徳利投げ……」
彼は炎の手の平でリジー王子の頭を挟もうとしたわ。
「風の相撲!」
火炎を風の鎧が散らし、リジー王子はアリマ関の炎の腕をすり抜けた。
風の後方噴射を受けて、速度が二倍ぐらいになるわ。
彼は土俵を滑るように移動する。
やっぱり、体が赤いだけはあって彼は火属性なのね。
相撲魂の光背も溶岩ですし。
「伸縮二丁投げ!!」
リジー王子の足が少し伸びる。
ように見えた。
伸びた部分は気で出来た仮足ね。
それでもサイズは伸びるので、刈りやすくなるわ。
崩しも十分で、アリマ関は両足を刈られてバランスを崩したわ。
ヨシ!
……。
アリマ関の背中の小さな羽が羽ばたいてバランスが回復していくわ。
彼には羽があるんだったわ。
いろいろと人間相手のお相撲とちがって難しいわね。
「くっ!」
「むうっ……!」
お互い再び四つに組み合ったわ。
リジー王子の相手を見る目が、尊敬の色に変わった。
アリマ関の目も、感心したような色になった。
お互いがお互いを認めたのだ。
あの強敵のアリマ関とリジー王子が五分で戦っていた。
強くなったわねっ。
そこには、私が愛した仔猫のような愛しい王子はいなくて、若竹のようなたくましい若武者がいたわ。
なんというエモい存在か!
彼は強くなった。
そして、強くなりつづけている。
土俵の上で、お互い死力をつくして相手を押し、引き、技を掛け、いなして、リジー王子とアリマ関は複雑な動きを描く。
土俵に掘られた足跡が、まるで魔法陣のように複雑だ。
グレイ審判ののこったのこったという声だけが土俵に響く。
エルフの観客はみな真剣な目で一進一退の相撲を見ている。
リジー王子がアリマ関を押す。
瞬間、背後に歯車が現れ、高速回転した。
アリマ関は押しに耐える。
背後に溶岩の輪が現れ高速回転を始める。
ああ、良いわね。
同じ条件だわ。
楽な勝ちなぞない。
お互い譲れぬ気持ちを土俵に掛けているんだ。
バフにはバフを、デバフにはデバフを。
視界の隅でアデラが祈りを捧げていた。
ガコン!
花柄で小柄な歯車!
魔王戦で使われた相撲魂 Lv.2だわ!!
リジー王子の力がはね上がった。
アリマ関を押す、押す、押す!
彼は苦しそうな顔で、リジー王子の突き押しを耐える、耐える、耐える。
怒濤の突き押しでアリマ関は土俵際に追い込まれた。
土俵の端に太極図の黒い尻尾が出ていて、アリマ関がそこに乗ると体重が激増したように、ピタリと止まった。
ああ、突き押しは難しいわね、最後の最後で黒土俵に付いてしまう。
アリマ関はひゅうと息を吸うと、全身から火炎を出した。
そして、がっちりとリジー王子と組み合う。
「炎の魔界相撲」
炎の巨人と化したアリマ関は動きが変わった。
力強く、素早くなった。
一進一退だ。
力と技と精神が土俵の上でぶつかり合い、力士達は進化を続けていく。
ああ、良いわね。
神事だわ。
まるで人生のようだ。
相撲は人生なのね。
「がんばれー、リジー王子!!」
私の声援を聞いて、リジー王子は少し笑ったようだ。
そうだ、相撲に理屈などいらない。
相手力士と戦い、魂をぶつけ合い、そして成長していく。
友情、努力、勝利がお相撲の本質だわ。




