表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/67

第五十五話 言祝(ことほぐ)武道館で王子は私に約束する

 ククリさんが魔王様の前に立ったわ。


「魔王様、私は今日で魔王軍を除隊いたします」


 魔王さんはそのお耽美な顔を歪ませ腕組みをしているわ。


「処刑しますか?」

「いや」

「私はクリフトン親方との誓いを掛けた相撲に負けました。彼の元に嫁ぎます。軍としてご不満なら処刑してください」

「いや」

「お許しください、お願いです」

「許さん。お前は魔王軍に必要な存在だ。長い間、俺の秘書官を立派に務めてくれた。お前に新しい命令を下す」


 ウタさんが見かねて、二人の間に割り込んだわ。


「なによー、おめでたい事なのにお祝いして送って上げないんですかーっ、魔王さまともあろう者が、尻の穴が小さいですよっ」

「いや」

「もー、アリマさまも、スラリンも、魔王様に意見してくださいよっ!」

「ウタ、いいから」

「よくないよ~~!! これは労働争議なんだからね~~!! 乙女が恋をぶちかまされてお嫁に行くんだよ!! 乙女の花道だよ~~!」


 アリマ関とスラリンも魔王さんに頭を下げた。


「了解……、してください……」

「ククリさんは負けたけど、立派だったリン。あんな初見の付与技は避けられないリン。ククリさんが弱かったんじゃなくて、クリフトン親方が偉大だっただけリン」

「いや」


 魔王さんがますます口をへの字に曲げたわ。


「ククリ、お前はアリアカ王都への転属を命じる。親はいなかったな、俺が媒酌人になるから結婚式に呼べ」

「魔王さま……」

「馬鹿め、敵国に有能な外交官を置くのは定石だ。これからアリアカとも相撲の交流が増えるだろうしな。頑張ってアリアカの情報を収集せよ」

「はいっ!! 頑張ります!!」


 ククリさんは顔を赤くして泣きながら返事をした。


「んもー、びっくりさせるんだから、魔王様はーっ、趣味が悪いよ~~」

「別に、最初から結婚に反対なんかしてねえよっ。本当はあの色男が魔界に来てくれたら一番良かったが、相撲の結果ならしょうがねえ」


 アリマ関も、スラリンもククリさんの元に駈け寄った。


「めでたい……、おめでとう」

「人と魔族の婚姻リン、昔は何回かあったらしいリンが、最近は滅多に無いりんっ! おめでとうリン」

「ありがとう、アリマさま、スラリン。それからウタ、ありがとうね、私の為に怒ってくれて」

「いーんだよっ! 相撲仲間じゃんかーっ、えへへ、結婚式には私も王都に行くねっ! アリアカ国技館を見たい~~!!」


 あらあら、結婚式には魔界の人達が沢山来そうね。

 精一杯おもてなししないとね。


 貴賓席から、妖精王がびょーんと跳んで降りてきた。


「クリフトン親方! 素晴らしい相撲であった、婚約おめでとうっ! ついては我が仲人となろう」

「よろしいのですか、妖精王」

「この世界樹武道館で結実した愛の絆だ、私が世界樹にかわり、二人の永遠の幸せを結ぼうではないかっ」


 クリフトン親方は深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。身に余る光栄です」


 私がリジー王子を見ると、彼は微笑んでうなずいた。

 うん、当然、アリアカ王家もクリフトン親方とククリさんの結婚式をバックアップするわね。

 やっぱり、式はアリアカ国技館が良いかしら。

 土俵で生まれた愛なのだから、土俵婚がふさわしいわね。


「フローチェ、僕はアリマ関に勝ったら君にプロポーズをするよ」


 リジー王子が私をまっすぐ見つめてそう言った。


「あら、負けたらどうなされますの? 私との結婚は諦めますの」

「そ、それはその……」


 リジー王子は目をそらした。


「勝っても負けてもプロポーズをしてくださいましな。私は待っていますから」

「勝ってプロポーズの方が格好いいよ」

「敵はアリマ関ですよ。リジー王子よりも、ずっと格上です。胸を借りる感じで戦ってらっしゃいまし」

「わかった……、僕は傲慢だった。彼はそんな甘い相手ではないね」


 リジー王子の顔が引き締まった。


「アリマ関の暗黒ブラインドそっ首落としに気を付けて、自分のお相撲を取ってらっしゃいませ」

「がんばってくる。この対戦が終わったら、僕は君にプロポーズをする」

「はい、約束ですよ」

「約束だ」


 アデラが土俵に立った。


「ひがぁぁしいぃぃぃ、リジィィィ、リジィィィ。にぃぃしぃい、アァリマァァァ、アァリマァァァ」


 彼女は独特の節回しで力士を呼び出した。


「行ってくる!」

「がんばって!!」


 リジー王子は土俵に上がっていった。

 アリマ関はのっそりと土俵に上がる。


 体格が違うわね。

 リジー王子はまだ育ち盛りだ。

 文字通り大人と子供ぐらいの体格差がある。

 アリマ関はうっすらと脂肪が乗ったソップ型だ。

 リジー王子は主役キャラの宿命として太れない。

 それでもトレーニングをつんで細マッチョな感じに成長している。

 いまだ、猫耳は取れず、彼の頭の上で誇らしげに生えていた。


 両者、塩を撒き、四股を踏む。

 リジー王子も、アリマ関も、どっしりと落ち着いた、良い四股だこと。


 今回の旅で、リジー王子は一回りも二回りも力士として成長したわ。

 業火トロールのアイキオに負け、アラウネのウタさんに勝ち、ククリさんに惜敗したわね。

 そして今回は格上のアリマ関が相手よ。

 頑張ってね。


 そして、出来たら勝って、プロポーズに来て下さい。

 お願いです、相撲の神様。

 はぁどすこいどすこい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] リジー王子がフローチェにプロポーズできますように。 はぁどすこいどすこい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ