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第五十四話 中堅戦、クリフトン対ククリ②

 恋する二人は土俵上で組み合った。

 なんというか、二人とも頬が上気して相撲なのか愛の行為なのかがわからないぐらいではある。

 甘々の空気が漂うが、底には重低音のように殺気が流れているからラブシーンな感じはしないかな。

 不思議な戦いだわね。


 体重はアラクネ体型のククリさんの方が重いけれど、力はクリフトン親方の方が強いわね。

 想いは……、同じぐらいかしらね。

 ふたりとも気後れ無く、のびのびとお相撲しているわ。


 クリフトン親方は腰を落として、ククリさんの突進に耐えているけど、じりじりと押されて行くわ。

 やはり六本の足の馬力は強いわね。

 ぐいぐいと押されて白土俵にククリさんの足が踏み込んだ瞬間に止まった。

 敵の土俵に入るとデバフが凄いのよね。


 ククリさんは廻しを引きつけてクリフトン親方の体勢をくずし、右前足を掛けて下手投げ。

 足を掛けても残り五本の足で踏ん張れて安定が崩れないのがアラクネ族の良い所だわ。

 クリフトン親方は重心を落として耐えた。

 ああ、彼も稽古を積んで強くなっているわね。

 ククリさんはニコリと笑い、クリフトン親方も笑って返す。


「親方を必ず魔界に連れていきますっ!」

「君を王都に連れ帰り、大相撲にもう一度参加してもらうっ!」


 なんか、一途なのか、よこしまなのか、もうわからないわね。


 同門対決なので、相手の出方や技の癖を飲み込んでいて、反射的に対応していて動きが速い。

 くるくる回りながら、二人は低い姿勢でダンスのように相撲を取る。

 それはまるで、孔雀蜘蛛ピーコックスパイダーの求愛のダンスのようだわ。


 ふわりと光る糸が見えた。

 あぶないっ!


「風の相撲エア・スモウフォーム!」


 クリフトン親方が朗々(ろうろう)と技名を叫ぶと風が集まり甲胄と化して、ククリさんの糸を吹き払った。

 道中、クリフトン親方に教えておいて良かったわ。

 リジー王子はあの糸で負けましたからね。


 風の鎧をまとった事でクリフトン親方の速度が上がった。

 瞬間移動のような速度で右廻しをとり、ククリさんの左股を抱え、右内股に足をかけ、そして頭をつける。


 三所攻め!!

 そうよ、超電磁リニア三所攻めなら足が何本あっても関係が無いわ、光のレールには摩擦が無くなるのだからっ!


「甘いっ!!」


 ククリさんは発生した光のレールから横に飛び退いた。

 すかされた!

 リジー王子がウタさんを吹っ飛ばすの一度使ってますからね。

 読まれたわね。


 超電磁(リニアが掛からない三所責めではククリさんのバランスを崩す事はできなかった、逆に彼女の前左足と中左足がクリフトン親方の右足を刈る。

 クリフトン親方は持ち前のバランス感覚と金剛力で耐える、耐える、耐える。

 耐えている彼の背後に歯車が現れて高速回転しそのまま刈り足を外し、廻しを持って吊る!

 ククリさんの巨体が持ち上げられた。

 だが、ククリさんもクリフトン親方の廻しを取って吊る!

 彼女の背後にも糸車状の幻影が現れて、高速で回転する。


 なんという意地の張り合い。

 相撲カップルの花道だわ。


 力と技、そして魂のぶつかり合いだ。

 

「俺は君を王都につれて行くんだっ!!」

「私は魔界に親方を連れていくわっ!!」

「君を愛しているんだっ!!」

「私も愛してますっ!!」


 んもう、お熱いわねっ。

 見ているこっちが気恥ずかしいわ。


 お互いの廻しをつり合うその姿は、なんだか崇高で、愛の殉教者のようでもあるわ。

 平たく言うとバカップルに見えるけど。


 お互い、一歩も引かずに顔を真っ赤にして、力だけを頼りに相撲スピリッツのバフを頼りにつり合う。

 どちらかが力を抜けば、その瞬間に勝負が決まりそうね。

 これはもう、力や体力の勝負ではなく、気力の勝負よ。

 どちらが、どれだけ相手を想っているかの勝負だわ。


「がんばれー、クリフトン親方ーっ!!」

「がんばれーっ!! 王都に嫁を連れて来いっ!!」

「がんばりなさいっ!! クリフトンッ!!」


 みんなが声を掛ける。

 その力は相撲スピリッツに変換されて、ブーストしていく。

 目に見えないぐらいの高速回転。


「ククリちゃん~~!! 婿養子を魔界に連れてくるのよ~!!」

「頑張れ……!」

「ククリ~~!! 魔王軍で結婚式出してやっからよ~~!! 負けんな~~!!」


 魔王軍の声援も相撲力になって、ククリさんの糸車が高速回転する。

 なんという嫁取り婿取り!!

 エルフの観客も大喜びだ!


「がんばれー、蜘蛛のねえちゃんっ!! イケメンなんか倒せ~~!!」

「イケメンさん、がんばって~~!! 愛よ、愛!!」


 観客席も大盛り上がり。

 エルフ市民たちが一体になって、クリフトン親方とククリさんに声援を送っている。


 ククリさんが左手を外した。

 がくっと、クリフトン親方のバランスが崩れる。

 そして、さっと、左手を彼の右脇に差し込んでもろ差しになった。

 いけないっ、つり上げにはもろ差しが有利よ。


「勝った!!」

「まだだっ!!」


 もろ差しにされて不利になったクリフトン親方は右手でククリさんの首を巻き込んだ。


 ごうと暴風が巻き起こった。

 トルネード?

 ちがうわ、雨を含んでいる。


暴風雨サイクロン首投げ!!」


 新しい付与技!


 暴風雨は回転しながらククリさんの体を巻き込んで横回転させる。

 六本の足で踏ん張るけど轟風への表面積がアラクネ形態だと大きい。

 打ち付けるような暴風が彼女の体を巻き上げた。

 クリフトン親方は腰を入れ、体をひねり、ククリさんを投げ飛ばした。


 彼女の巨体が土俵にぶち当たり、転げて砂かぶりに落ちた。


「これが、俺の愛だっ!!」

「……はい」


 ククリさんは恥ずかしそうに小声で返事をした。


『勝者! クリフトン!!』


 わあっ!! と観客席が沸騰した。

 座布団が舞い散る。

 おめでとう、おめでとうと、クリフトンにエルフ市民から賛辞の歓声が送られる。


 あー、クリフトン親方。

 首投げって、お相撲の隠語で、性行の事なんだけど、きっと知らないわね。

 まあ、いいけど。

 お幸せにね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 後に求愛の一番として世に広まるんですね
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