第五十三話 中堅戦、クリフトン対ククリ①
「どうしてあんな大技を使おうと思ったの」
「まえにフローチェにアレで負けてムカついたから、あの女にも食らわせてやろうかと思ったんだ」
ファラリスもまだまだ子供ね。
メテオール浴びせ倒しなんか、高度が出てないと自爆するわよねえ。
「もっと精進なさい」
「わ、わかった、次は高度を上げて仕掛ける」
そうじゃないのだけどねえ。
まあ、いいわ。
何回も負けて色々やってみて強くなっていくのだから。
なんでもそうよね。
「どんまい、ファラリス」
「リジーも気を付けろよ、あの赤いおっちゃんはマジで強いぞ」
「凄いよね、アリマ関。フローチェと良い勝負してたし」
「マジかよ、信じられねえ。魔王も凄く強いし、世界は広いよなあ」
「そうだね、また魔界の人達とお相撲したいね」
「次は絶対に負けねえからっ」
ふふっ、負けず嫌いは良い力士の証拠よね。
がんばりなさい、ファラリス。
「ひがあああぁぁしいいぃ、クリフトォォン、クリフトォォン。にいいぃぃぃしぃ、くぅくぅりぃぃぃ、くぅくぅりぃぃぃぃ」
「よし!」
クリフトン親方が立ち上がった。
思い詰めた目をしているわね。
「クリフトン親方。力を抜きなさい」
「え? あ、ああ、そうだな……」
「肩の力を抜いて、ククリさんとの稽古だと思って対戦しなさい。そうしないといつもの力が出せないわよ」
「……、ああっ、そうだな、確かにそうだ。ありがとうフローチェ」
ふうっ、と一息吐いてクリフトン親方は肩の力を抜いた。
ククリさんを取り戻そうと、気ばかり焦って力が入っていたみたいね。
それでは良いお相撲は取れないわ。
勝っても負けてもいい、結果は天が決める物だと割り切れば、逆に思いもよらない良い動きが出来るものよ。
相撲は魂で取るものなのだから。
クリフトン親方は気負いなく土俵へと上がった。
ククリさんも土俵に上がってきた。
クリフトン親方は曇りの無い目でククリさんを見るわ。
「見ないでください」
「どうして」
「わたしは……、みにくい魔物で、裏切り者ですから……。そんな澄んだ目で見ないで……」
「何を言うんだ、君は綺麗だし、裏切ってもいない」
「うそ……」
「うそじゃない、その姿は均整が取れて美しいし、重心が低い、アラクネさまが教えてくれた戦い方が一番生かせる姿形だ。なんの問題があろうか」
「魔物なのに嘘をついて、親方の部屋で相撲の技術を盗みました」
「技は誰の物でも無い、君はだれも裏切ってはいない」
「だって……」
「相撲に嘘はついていないだろう。ククリはいつだって真面目に稽古をして、誰よりも強くなるための努力を怠らなかった、君は相撲を裏切ってはいないよ」
「親方……」
クリフトン親方は憂い顔のククリさんに微笑んだ。
「相撲で勝負だ。僕が勝ったら、君は僕のお嫁さんになってくれ」
ククリさんの頬が一瞬で真っ赤になった。
「そ、そんなっ」
「そして君が勝ったら、僕を君のお婿さんにしてくれ」
「ど、どっちでも一緒じゃないですかっ」
「いやかい?」
「い……、いや、じゃないですけれども……」
もー、凄いプロポーズね、見ているこっちが恥ずかしくなっちゃうわ。
もー、もーっ。
「ククリが居なくなって初めて俺は自分の気持ちに気がついた。俺はククリが好きだ。ククリが必要だ。一緒にどこまでも相撲道に邁進してほしい」
「あ、うっ……」
ククリさんは真っ赤になって絶句してしまったわ。
想い人にここまで言われるのは女子の本懐よね。
夢のような土俵プロポーズよ。
「す、相撲をしましょうっ!」
「うむっ!」
「わ、私は口下手で、親方への気持ちを上手く喋る事ができません。でも、相撲でなら表現できますっ」
「うむっ!」
「だから、その、相撲です相撲!!」
「望む所だっ!」
『そ、そろそろ良いかね?』
グレイ審判が顔を少し赤くしてそう言った。
「あ、はいっ、ごめんなさいっ」
「本気の相撲をしよう。どちらが勝っても負けても、それは天が決める事だ。お互いの気持ちを技に込めて、立派な相撲を取ろう」
「はいっ! 親方!」
ククリさんは良い笑顔で笑った。
なにかふっきれたみたいね。
『見あって見あって』
恋する力士たちは仕切り線を挟んで向かい合う。
甘い視線のやりとりをしてるけど、じわじわと緊張感が張り詰めていく。
甘い雰囲気なのに、ビリビリとした殺気が伝わる。
さすがは種族を越えた相撲カップルね。
呼吸が、合う。
二人とも同時に土俵に拳を付けて立ち上がった。
クリフトン部屋特有の地を這うような蜘蛛の型だ。
ドカーーン!!
素晴らしい手加減無しの愛の激突!
どちらも引かない。
ガチンコの真剣勝負だ。
アラクネ体型のククリさんは、クリフトンを越える質量があり、六本の足はゆるぎない。
クリフトン親方も熟練の技能で廻しを取りにくるククリさんの手をさばく。
さてさて、どちらが勝つかしら。
どちらが勝っても負けても、きっと秋頃に挙式ね。
アリアカ国技館を貸し切りで盛大な式をしましょうか。
楽しみね。




