第五十話 団体戦最終決戦の開会を妖精王が告げる
「リジー王子、副将をやっていただけますか?」
「アリマ関とだね、解った、強敵だね」
大関のアリマ関相手だと、前頭のリジー王子にとって格上だけど今回の戦いはアリアカ対魔界の面もあるから、王子に出てもらうのが正しい気がするのよ。
これで対戦枠の残りは一つ、先鋒だけね。
残るアリアカ力士は、ユスチン親方とマウリリオ将軍だけど、どちらにしようかしら。
二人とも希望に満ちた顔で私を見ているわ。
そうね。
「先鋒はユスチン親方、お願いできるかしら」
「お任せください、フローチェ親方」
満面の笑顔でユスチン親方は笑った。
マウリリオ将軍はがっくりとした顔をしてるわね。
「ごめんなさいね、マウリリオ将軍」
「いえ、砂かぶりの席で応援しています」
「必ず私たちは勝ちますから」
「お願いします」
マウリリオ将軍はぎゅっと笑っていった。
せっかくエルフの森共和国で頑張ってレジスタンスしてきてくれてありがたいのだけれども、ここはユスチン親方が魔物に立ち向かう所を見たいのよ。
ごめんなさいね。
「では、先鋒ユスチン親方、次鋒ファラリス、中堅クリフトン親方、副将リジー王子、大将が私で団体戦に挑みます」
「血がたぎりますな」
「女と相撲かー」
「ククリを取り戻します」
「がんばろう、フローチェ」
「必勝しましょう。できれば全勝で」
「「「「おうっ!!」」」」
みなが声を揃えたわ。
団体戦も良い物ね。
気分が高揚するわ。
グレイ審判が支度部屋に来たので、紙に書いたメンバー表を渡した。
『ほう、これはこれは、なかなか楽しい取り組みになりそうですね』
「対戦相手は教えてくれませんの?」
『取り組みが始まる直前にお知らせします。やはり得手不得手の相手がありますので』
そうね、相手のメンバーを見てから力士を変更するのはいけないわね。
とりあえず、こちらは、大関二人が先鋒次鋒だわ。
ここで二勝しておきたい所ね。
早い内に勝利確定すると気が楽だし。
「さあ、着替えましょう」
私はコスチュームチェンジコーナーに入って、廻しをドレスに装着するわ。
外にでると、皆が廻しを締めていた。
うん、やっぱり力士は廻し姿が素敵ね。
ユスチン親方はまた太ったわね、うらやましい。
アンコユスチンだわ。
『アリアカ王国力士チーム、入場してください』
私たちは並んで入場する。
観客席はエルフでいっぱいね。
「フローチェ横綱!! がんばってーっ!」
あら、あれは西門の時にいた主婦エルフさんだわ。
「あれは、レジスタンスの長ですね」
マウリリオ将軍が教えてくれたわ。
美しい主婦にしか見えないけれども、レジスタンス組織の長なの?
エルフに常識は通用しないわね。
貴賓席にはフェンリル姿の妖精王と、アリアカ王アルヴィ王、そしてジョウミンさまが並んでいるわね。
魔王軍が入場してきた。
みな、廻し姿が勇ましいわね。
「ククリ……」
「クリフトン親方……」
西門に姿を見せなかったククリさんが現れたわね。
やっぱり中堅ね。
大将は魔王さんだし、副将はアリマ関だから、当然中堅はククリさんよ。
読みが当たったわ。
彼女は目を伏せてすこし悲しそうな顔をした。
「言葉はいらないわ、相撲で想いを伝えなさい」
「わかった、横綱……」
クリフトン親方はぐっと歯を食いしばって前を向いたわ。
そう、いつだって相撲取りは前進あるのみよ。
どんな困難で、どんな悲しい運命も、怒濤の突き押しで打ち砕き解決するのよ。
それが良い相撲取りってものよ。
貴賓席からフェンリル姿の妖精王が土俵に跳び降りてきた。
やっぱり惚れ惚れするほど美しい姿よね。
中身はチャラいけど。
『満場のエルフの諸君!! 妖精王が帰還したっ!! 善良なエルフの市民は愚かな革命軍と、魔王軍にさぞや難儀を掛けられたと思う!! 私の不徳のため、このような事態が起こった事を皆に謝罪しよう』
土俵の上で、妖精王は朗々と語った。
『そして、革命軍も魔王軍もまだ、このエルフの森共和国から追放することが出来ていない。よって、今回、友好国である、アリアカの皇太子妃候補であり、横綱でもあるフローチェさまから、提案があった。剣と魔法で戦いあうよりも、相撲で決着をつけようと!! 国家間の戦争状態をスポーツを競い合う事で解決しようというのだっ!!』
会場に集まった万を越えるエルフ市民達はしんと静まりかえり、だただた、帰還した妖精王を見ている。
『前代未聞だ、そんな事で戦争を終わらせる事ができるのか? 疑問を持つ者もいようっ、だが、我は問いかけたい!! 歴史上そんな方法で戦争を解決した例は無い、が、解決できたら、それはとても素敵な事だろう!! 私はエルフの森共和国の王として、横綱フローチェの提案を聞き入れ、ここにアリアカ王国と魔王軍の相撲での団体戦を開催するっ!!』
沈黙が会場を支配した。
あ、みんなドン引きなのか? と思ったとき。
パチパチと小さな拍手が起こった。
その小さな拍手は万雷が轟くような拍手に変わり、歓声が起こった。
「「「「「「「スモウ!! スモウ!! スモウ!! スモウ!!」」」」」
エルフ達が手を振り上げ、足踏みをして、一心不乱にスモウコールをした。
「そうだ、フローチェ横綱のスモウが無ければ世界樹は焼け落ちていたんだ」
「西門でスモウを見た。毒ガエルと業火トロールをあの華奢なフローチェ妃が豪快に倒してくれた」
「戦争になれば、敵も味方も沢山死ぬわ! ならばスモウに掛けてみるのも手よ」
「フローチェさまが妖精王をお助けくださったらしい」
「魔王軍は何回も追っ手を出したが、フローチェさまが全部倒してしまったそうだ。ハフトン村の親戚にきいたぜ」
ほっとした、相撲の取り組みはおおむね好評みたいね。
『それでは、団体戦を始める!!』
妖精王が宣言して、対抗相撲、世界樹武道館場所がはじまった。




