第四十九話 素敵な世界樹武道館へみんなで向かう
「宮殿樹の隣に面妖な建物が、それでいいのですか世界樹」
(若人が運動をして競い合う、素晴らしい光景を間近で見られるのは嬉しいのですよ。最近はエルフの子供もあまり生まれませんしね)
うむ、世界樹さまにも相撲を見てエキサイトして頂きたいものだ。
私たちは西門をくぐり、世界樹の街へと歩き出した。
ミキャエル宰相が隙を見て逃げようとしたのだが、ウルバノさまにがっちり噛みつかれて止められた。
「どこに行くのだ、ミキャエルよ」
「わ、私は格闘技なぞ好かないっ! 魔界に亡命させて頂く」
「俺の所にくんなっ、迷惑だ」
「そ、そんなっ、魔王、約束がちがうっ」
「約束なんかしてねえしっ。だいたいお前が国盗りをするって言うから協力しただけで、駄目だったら仕方がないな」
「ま、魔王軍から持ちかけてきた話だろうがっ!」
「さあ、知らないなあ」
なんという見苦しい舌戦なのか。
魔王軍を引き入れて上手く行くと思ったミキャエル宰相が愚かだわよね。
諜報は騙される方が悪いのよ。
私たちが歩くと庶民のエルフさんたちが喜んで手を振ってくれたわ。
「リジー王子、お帰りなさいっ、ご無事だったのですね」
「ええ、ありがとう、妖精王と共に凱旋してきました」
「あ、妖精王! ご無事で!」
『うむ、ありがとう、皆は無事だったかい?』
「革命軍と魔王軍がウザかったですが、そんなには迫害はありませんでしたっ」
『それは良かった』
妖精王はチャラ男なのに、エルフの民衆に愛されているわね。
皆が歓声を上げる中、私たちは世界樹大通りを歩いて世界樹広場に向かった。
「妖精王さま、あの新しい建物はなんですか?」
『お相撲の興行をする場所だよ』
「客席はこの街のエルフ全員が入れるぐらいあるわ。皆さんといらしてくださいね」
「スモウ!! フローチェさまが西門でやっていた奴ですね、私見てました、すごくかっこ良かったですっ」
「ありがとう、もうすぐ始まるから早く来てね」
「はいっ!! 家族みんなで行きますっ!!」
若い感じのエルフさんが喜んで言った。
バルハラ相撲協会が関わってるでしょうから、物販とか、お弁当とかはあるのでしょうね。
そういえば、魔界相撲の方の協会もバルハラなのかしら。
「魔王さん、魔界相撲の協会は、バルハラの人達なのかしら」
「おう、そうだぜっ、俺が相撲を覚えて、アリアカに乗り込んでやろうと思ってたら、なんか半透明の東洋人が現れて協力してくれた。色々な風習や作法が魔界に入ってきたぜ」
あの方々は、この世界の相撲振興に頑張っているのかしらね。
いいえ違うわね。
相撲を真剣に志した人がいる場所には、彼らは必ず現れるのだわ。
そうよ、彼らは一群の相撲取りなのだから。
私たちは世界樹武道館の玄関に立った。
ツタが複雑に絡み合った不思議な建物だけれども、どこか温かみがあって良い場所ね。
せり上がった屋根の上には金色のタマネギが乗っているわ。
そこから視線を上げればどこまでも高く世界樹がそびえ立っているわ。
まるで、母が我が子を包み込むような雰囲気を感じるわね。
トコトントコトントンと軽快な太鼓のリズムがどこからか聞こえてきたわ。
これは寄せ太鼓ね。
(世界樹の街の市民よ……、あなたたちの心に直接、わたしは話しかけています。お相撲です。先日、西門でおこなわれた血湧き肉躍る格闘技の団体戦の決勝戦が本日、世界樹武道館でおこなわれます……。入場は無料です……。皆、お誘い合わせのうえ、見にくるのです……)
世界樹の精霊さまが、精神波で街全体にお相撲の興行をお知らせしてくれたわ。
ありがたい事です。
玄関先には、半透明のバルハラの人達が揃って、私たちに頭を下げてきた。
『これはフローチェ親方、魔王横綱もいらっしゃい』
「まあ、ここも、あなたたちが運営するの?」
『相撲の興行ですからな。やはり慣れた者でないと能率的ではありませんから』
式守家のおじいちゃんはそう言って笑った。
『黒白の太極図土俵はもう作ってありますよ。審判はこれまでと同じ、グレイ審判です』
「あの方は公平だから好きだわ」
「魔王軍としても文句はねえぜ」
『今日の勝敗で、東西、アリアカと魔界のどちらの横綱が強いのかが決まります。今からとても楽しみです』
そう言って式守家のお爺ちゃんはにっこりと笑ったわ。
バルハラの人に案内されて、わたしたちは魔王軍と別れて、東の支度部屋に通された。
「お、畳だっ! 本格的だなっ」
ファラリスがいつものように畳に飛びこんで転がった。
変わらないわねえ。
「さて、出場する力士を決めないとね」
アリアカ力士の顔に緊張が走った。
「確定しているのは、私が大将として魔王と戦うわ、あと、クリフトン親方は中堅」
「ククリは中堅で出るのか?」
「たぶん、違ってたら変更してあげるわ」
「そうか……。そうか」
クリフトン親方は感慨深そうにうなずいた。
二枠は確定だ。
さて、あと、三枠。
あとは、リジー王子、ファラリス、ユスチン親方、マウリリオ将軍ね。
「俺はまたアリマとやりたいっ」
「アリマ関は副将でしょうね。でも、別の力士と対戦してみたくない?」
「う、それは……、してえっ!! というか、魔王ともやりてえっ!」
「では、ファラリスは次鋒で」
「次鋒か、誰が出てくる?」
「たぶん、ウタ関ね」
「げー、あのビッチか、俺、苦手なんだよなあ、ああいうやつ」
「そうなの?」
「学校でもつっかかってくる、ああいう奴が居てさ、ウザイから怒鳴ったら泣きやがってもう、訳がわかんねえよ」
……。
ファラリス、それはね、あなたの事が好きな……。
リジー王子が、それ以上はいけないという感じに顔の前で手を横に振ったので、私は口をつぐんだ。
学校まわりでも色々と面白い事が起こってそうね。
見に行きたいわ。




