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第四十八話 世界樹武道館爆誕す

 ジョウミンさまが解せぬという顔をなさっているわ。

 しかたがないわね、私も勢いで言ってしまった所があるから。

 別の国の国民が、他国の都市を相撲の賞品にかけるのはいかがな物かと思うのですが、しかたがないのです。

 勢いなので。


『母上、フローチェ親方がいなかったら、私は森で息絶えておりました。そうなれば血で血をあらう大戦争が起こっていたはずです。なので、どうか、彼女が世界樹の街を賭けて戦う事をお許しください』


 ウルバノさまがフェンリル形態のまま頭を下げたわ。

 なかなか良い事を言うわね。


「だが息子よ、負ければ世界樹を取られてしまうのだぞ」

『我が眷属が世界樹の街に魔族を引き入れました、この愚行により、もはやエルフの手から世界樹は一度離れたと言っても過言ではありますまい。取られても元々ですよ』


 ジョウミンさまは目をつぶり腕を組んで考え込んだ。


 世界樹の街、ではなくて、取られて嫌なのは世界樹みたいね。

 どうしてなのかしら。


 遠くに見える世界樹がざわざわとうごめいた。


(我が子ジョウミンよ……、私はかまいません。先の戦いでフローチェさんが消火してくださらなかったら、私は焼け落ちていたでしょう。私は彼女を信じます)


 頭の中に直接に言葉が伝わってきた。

 綺麗な声だ。

 世界樹の声なのか。


「しかし、祖霊よ、我が民族の支柱よ、このまま戦えば、魔族なぞは私が一人で……」


 ああ、世界樹はエルフのご先祖なのだわね。

 この美しい民族は世界樹から生まれた生物なのか。


「そうかー、四股かあっ」


 魔王さんがこちらに聞かせるかのように、すっとんきょうな声をだした。


「だねだね、魔王様、四股にはアンチマジックの効果があるんだねっ」

「俺らはあんまり魔法使わないから忘れていたぜ。特殊能力は魔法じゃねえからなあ」

「これでハイエルフの魔法なんか怖くないよ。みんなで並んで四股を踏めば良いんだし」

「まったくだ、フローチェ親方に助けられたぜっ」


 むむっ、まずいっ。

 ジョウミンさまが苦虫を潰したかのような顔をしている。


「なんという、やっかいな格闘技か……。しかたがない、相撲の賞品に街を賭けるのを認めよう」

「ありがとうございますジョウミンさまっ」

「もちろん、必ず勝てる自信があるのだろうな」

「……、何を言ってるのですか? 勝つか負けるかは天が決める事で私たちは一生懸命やるだけですよ」

「そんな、理不尽なっ!」

「人生の先は誰にも解らないように、相撲の勝敗も誰にも解りません。神事なので」

「……」


 なぜ、ジョウミンさまは知らない珍獣を見る目で私を見るのだろうか。


「ヨシ! フローチェのお陰でしょっぱい結末にならなくて助かったぜっ、さあ、やろうかっ」


 やろうと言っても、なんだかぞんざいに作られた粗末な土俵しか無いわね。


「土俵をコールして呼ぶか? なに、どんな場所でも土俵の広さがあれば、力士の天国だぜ」

「せっかくエルフの森共和国の首都に来てるのに、こんな場所では盛りあがらないわ。一万人が入る観客席がある建物が欲しい」

「そんなもん、建築してたら何年かかるか」


 世界樹さま、世界樹さま、武道館をコールしてもよろしいですか?


(ふふ、そんな事ができるのですね。王宮樹の隣の広場が開いております。そこが良いかもしれませんね)


 世界樹さまのお力もお借りできますか?


(かまいませんよ。エルフの力と、人間の力、そして魔物の力、三つの姿がちがう存在が、お互いの理解を深める為に協力する。それはなんと素敵な事なんでしょうか)


「ヨシ、魔王さん、建物をコールするわよ」

「ああ、アリアカでも国技館を作ったんだっけな。俺もやるのか?」

「エルフの地で、人間と魔物が競技する場所を作るのよ、あなたの魔力が必要だわ」


 魔王さんはきゅっと笑った。

 この人は耽美感があふれる美貌の魔物なのだけれども、笑うと少年の顔を少し覗かせて良い感じよね。

 魔王さんは悪いのだけれども、純粋漆黒の闇というよりは、もうすこし複雑だわね。

 仲間に対しては気さくだし、優しいわ。

 魔王さまを長くやっているだけあって、あまり野望でギラギラはしてないわね。

 人間的な奥深さみたいな物を感じるわ。


 私は魔王さんの隣に立った。


「王宮樹の隣、広場を覆うような建物を立てるわ、観客数は一万人ぐらいで、スポーツだけじゃなくて、音楽や、見世物も出来るような、そんな皆の夢と希望を形にする神聖な場所。屋根のてっぺんにはタマネギのオブジェを置くのよ」

「なんでタマネギだ?」

「武道館とはそういうものなのよ」


 前世ではたしかタマネギがついていたはず。

 私はあまりコンサートとか行かない青春だったから、よく知らないけど。


「一緒に詠唱して、世界樹武道館召喚コール・ユドグラシルコロシアムよ」

「よし!」


 私と魔王さんは手を広場の方にむけ、握りあう。

 アリアカと魔界の両横綱が初めておこなう共同作業よ!


「「世界樹武道館召喚コール・ユドグラシルコロシアム」」


 大地から緑で透き通った魔力が私と魔王さんに流れ込む。

 世界樹の根元から、淡いパステルカラーのような緑色のツタと、闇に沈み込む感じの深い緑色のツタが現れ、複雑に組み上がって形をなしていく。


「おおっ! なんという大魔法かっ!」

「こんな速度で建物が建ち上がるとはっ!!」


 黒い太いツタはトゲを生やし、浅い緑のツタは葉を茂らせて組み上がっていく。


 しばらくすると、黄金色のツタ八方から現れ、屋根を登って絡み合い、黄金のタマネギを形作った。


 ヨシ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヨシ! [一言] 相撲は世界を結ぶ
[一言] 天辺の擬宝珠は大切 魔除けだけどな
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