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第四十七話 世界樹の街で魔王さんが出迎える

 森の中を普通に歩いているだけなのに、もう世界樹が見えてきたわ。

 特にすごい速度で動いてるわけでもないのに、距離の移動が半端ない感じね。


「縮地みたいな効果なのかしらね」

「シュクチというのはなんなの?」

「距離を短縮して移動する方法ですね。空間魔法のたぐいかしら」

「なるほど、フローチェは物知りだね」

「まあ、嫌ですわ、リジー王子ったら」


 愛する王子に褒められて嬉しいわ。

 はぁどすこいどすこい。


「感知出来ないほどの細かさで時空間を詰めている。縮地とは良い得て妙だな」


 ジョウミンさまが解説をしてくださったわ。

 森の中限定ですけど、部隊の行軍に使うともの凄い勢いで進軍できそうね。

 恐ろしい魔導だわ。


 あっというまに世界樹の街の近くまで来たわ。

 いつ見ても雄大で、天を覆うかのような大樹ね。

 私たちを歓迎するかのようにざわざわと枝が揺れている。


 そして、街の前には魔王軍が集結していた。


「おおっ、来たなあ横綱」

「約束通り来たわよ。というか何それ?」


 私が目の前の物に突っ込むと魔王さんは渋い顔をした。


「決戦だからって、ミキャエルの奴に土俵を頼んだら、こんなぞんざいな土塁ドルメンを作ってきやがった。さすがにこれじゃあなあ、どっかに土俵をコールするか?」

「それも悲しいわねえ。お客さんも見にくいでしょうし」

「ちげえねえ」


 シャーンと音を立ててジョウミンさまがボロい土俵に錫杖を突き刺した。

 ぼろぼろと土が崩れていく。

 さすがにこの上でお相撲を取るのは無理ね。

 足場が悪くて戦いにならないわ。


「長老会を代表して魔王に告げる、今すぐエルフの森共和国から退散するがいい」

「ははは、出てきやがったな、ハイエルフの婆っ! お前達の頼みの綱の世界樹防衛結界はもう解析したっ、もうエルフなんか怖くもなんともねえぞっ」

「ほほう、言うな小僧。確かに世界樹の森結界は破損し停止しているな」


 ジョウミン様は低い声で詠唱を始めた。


「はは、あんな大規模魔法が一朝一夕に補修できるわけが……、えーっ!」

「発動……」


 錫杖がシャンシャンシャンと音を鳴らすと、世界樹の根元の方から白い衝撃波のような物が現れ、魔族を街から弾きとばした。

 世界樹の街に駐屯していた沢山の魔物たちが空からふってきて、地上に落下して悲鳴をあげる。

 魔物の雨だなんて酷い光景だけど、みなさん頑丈だから血は出るけど死んではいないみたいね。


「これで魔王軍は世界樹の森から追放された。はやく撤退し自らの魔界に帰れ」

「ちっきしょう、婆めっ! なんだあの障壁魔法は!!」

「大規模魔術結界には隠し要素があるに決まっておろうが。お主らが破ったのは五段ある結界のうち最初の一層目とわずかな二層目だ。お前達の仲間もなかなかの手練れではあるが、まだまだだな」


 どうやら四方八方に魔物たちは吹き飛ばされたようで、こちらの西口にも沢山の魔物さんたちが降ってきて、地面にぶつかって鼻血とか出しているわ。

 地獄絵図だわねえ。


「世界樹の街の守護魔法は千年ほど放置していたから、長老会の暇大魔導どもが編み出した超絶的な大魔法で大改造をほどこすとしよう。忙しいので魔王軍は帰れ。皆殺しにするぞ」

「ぐぬぬっ!」


 相撲の団体戦をするまでも無く世界樹の街が奪還されてしまったわ。

 ハイエルフは半端ないわね。


「婆め、思い知らせてやるぜ、おい、おまえら、戦闘準備だ。婆と妖精王をぶっ殺すぞ!」

「愚かな蛮族どもめ、その目にしっかとハイエルフの大魔導を焼き付けるが良いわ」


 妖精王軍と魔王軍が一触即発の雰囲気になって来たわ。

 これは血の雨が降りそうね。

 というか、降らしたら駄目ね。


「な、なんの騒ぎかーっ!! 貴様ら魔王軍はいつもいつも問題をおこしおってっ!! ふざけるなーっ!!」


 ミキャエル宰相までやってきたわ。


「あ、あ、あああああっ!! あああああああっ!!」


 目がとびでるように美しい顔を歪ませてミキャエル宰相は叫び声を上げた。


「そうだ、ジョウミンだ、長老会から来た」

「あああっ!! こ、これは誤解ですっ!!」

『我もいるぞっ』

「あああっ! あああっ!! よ、妖精王さまっ!!! ああああ、あああっ!!」


 お相撲の団体戦がしたいのに、どんどん悪党が前のめりで自滅していくわ。

 どうしよう。

 困ったわね。


「こうなったら、相撲で勝負よ!!」


「何がどうするとそうなるのだ?」

「うっ」


 ジョウミンさまの冷静な突っ込みになんと返答していいか困るわ。


 私は無意識に片足を上げていた。

 半神たるハイエルフや、森の守護神たるフェンリルの前でするような格好ではないけれど、かまわない。


 なぜなら。


 私は一匹の相撲取りだからだ。


 ダーーーン!!


 私の渾身の四股が大地をゆらした。


 バリンバリンバリンバリンバリン!!


 ガラスが砕けるような音がした。


「あ、あーっ!! 世界樹の街の五層にわたる防御結界が砕け散ったぞ!! な、ななな、なんだっ、その退魔法力はっ!!」

「相撲です」

「は?」

「相撲です」

「なぜ格闘技にそのような力が」

「相撲は神事だからです」

「そ、そうなのか」


 そうなのですっ。


「地上に降りた神の化身たる横綱の私がこの喧嘩をあずかりますっ。私の目の前で無益な戦争なぞ許しませんっ! 魔王さんっ!! 世界樹の街を賭けて、相撲で勝負だっ!!」

「くくく、無理がある、無理があんなあ、フローチェ親方! だが、そういうのは大好きだっ、俺も魔界相撲の横綱、相撲での挑戦を受けるぜっ!! いいなっ、野郎どもっ!!」

「「「「「「うおおおおっ!!」」」」」


 よし、なんとかなったっ!

 戦争なんてまっぴらごめんなのよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 変に悪党が残ってると相撲に水を差す可能性があるからサクッと退場で 戦争なんて下らねぇ!相撲しようぜ相撲!
[一言] 一応魔王軍は宰相が招いた客分なんだから エルフの立場からするとフローチェ達と同様 まずは内紛に始末付けないと
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