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第四十六話 ゲスマンが来た、そして森の道を開く

 キャブリエル元帥が軍を再編成して、さあ、世界樹の街へ出発だ、という時にゲスマンさんが帰ってきた。


「やあ、横綱さま、帰ってきなすったね」

「ええ、ドワーフさんが魔導列車を出してくれたので、思いの他早く戻れたわ。ゲスマンさんの稽古はどう?」

「やればやるほど相撲の奥深さが解って怖くもあり、面白くもありますな。あと魔術マニアのご老人が相撲の付与魔法技の研究を始めましたよ」

「あら、それは楽しみね」


 魔導に優れたエルフの魔術師が解析すれば、魔法付与技の謎が解けるかもしれないわね。

 なにしろ私たち力士は理屈はわからないで、出せるから使う感じだし、本巡業では付与魔法技は禁止よ。

 竜巻とか、稲妻とか、派手なんだけど、相撲の本質としては邪道ですしね。

 鍛え上げられた肉体と、練り上げられた精神で戦うのがお相撲だわ。


「あと、アリアカのお仲間が知り合いの元にいたんで連れてきやしたぜ」


 ゲスマンさんが差す方にいたのは、なんと!


「リジー王子、フローチェ親方、ご無事でお戻りで、とても嬉しく思います」


 マウリリオ将軍と部下の近衛力士たちだわっ!


「マウリリオ将軍!! 生きていたのねっ!!」

「はっ!! ご心配をおかけしましたが、親善訪問護衛部隊五百人、一人として欠ける事無く帰還いたしましたっ!!」


 そう言って、マウリリオ将軍は敬礼をするのだわ。

 私とリジー王子を逃がす為に魔王軍を一手に引き受けてくれて、とても心配だったわ。


「負傷者も無く、帰って来てくれて、私は嬉しいわ。みなさん、お帰りなさい」

「「「イエス横綱スモウキング!!」」」


 マウリリオ将軍配下の近衛力士たちもピシリと敬礼をしてくれた。


「どうしてゲスマンさんと一緒だったの?」

「ああ、俺が教えを請うたエルフは革命軍に反発してレジスタンスをやってましてね、マウリリオ将軍も庇ってくれていたんでさあ」

「そうだったの、ありがたいわ」

「しかし、妖精王さまとご一緒だとは」


 ゲスマンさんはフェンリル形態のウルバノさまを見てにっこり笑った。


『お前がゲスマンか、妖精王ウルバノである。自ら相撲を志すとは感心である。褒美に精霊利用技を授けようではないか』

「マジですかいっ!! 妖精王さまに精霊技を教えてもらえるだなんて、嬉しい限りでさあっ」


 リジー王子がマウリリオ将軍の前に立った。


「エルフの森共和国の現状はどうなってる? マウリリオ将軍」

「はっ、控えめに言って、大混乱ですね。各都市で革命軍への反発で反乱が起こっています。世界樹のある首都に魔王軍を入れた事でミキャエル宰相の評判は地に落ちています。各界の指導者達が妖精王に会わせろと矢の催促をくれていますね」


 これは革命失敗のフラグね。

 もうすぐ、逆らう者を粛正する時期が来るわ。


「ウルバノさま、早めに世界樹の街に入らないと、大粛正が始まりますよ」

『エルフの民は人口増加が遅いので、粛正は起こりにくいのだが、ミキャエルの自制心に期待するのも間違いだろう。森の道を通り急ぎ首都を目指そう』

「森の道?」

『エルフだけが使える、森の中を高速で移動する魔法だよ』


 そういえば、旅の前半でエルフの兵が馬車に追いついていたわね。

 あの時にワン太を拾ったのだったわ。


 ほんとうにもう、図体ばかり大きくなって、フェンリルウルバノさまは可愛くないわ。

 牛ぐらい大きい狼なんか駄目ね。


 シャーンと錫杖を鳴らしてジョウミンさまが前に出てきた。


「我が森を開こう」

『母上がやってくださるか』

「世界樹の地まで急がぬとならぬからな」


 ファラリスが前に出てきた。


「俺が空から行くか? 少人数なら強襲できるぜ」

「ふん、竜行並みの速度でこの軍を通してやろう」

「お、言ったなワン太のかあちゃんっ」

「……ワン太とはなんであるか?」


 ウルバノさまがばつが悪そうにそっぽを向いた。


 シャーーンと錫杖が鳴らされた。

 朗々(ろうろう)と不思議な音階で詠唱が森の中に響く。

 ざやざやと森がさざめき木々が動き、太い道がまっすぐ現れた。


「おお、素晴らしい森の道じゃっ」

「さすがはハイエルフ筆頭の大魔導ジョウミンさまだ」

「さあ、儂らも行こうではないか、世界樹の加護の地へ」


 ジョウミンさまはいぶかしげにハフトン村の老エルフたちを見た。


「お前達が来て何をするのじゃ、戦える歳でもあるまいに」

「何を言っておられるのか」

「ジョウミンさまは解っておらんなあ」

「フローチェ横綱が行く所、相撲ありですじゃよ」

「相撲を観戦に行くのですじゃ」

「解せぬ……」


 ハフトン村のお爺ちゃんエルフさんたちもお相撲に夢中ね。

 まだ若い村人エルフさんたちも一緒にぞろぞろときたわ。

 村が空っぽになっちゃうわね。


「息子よ、村人を止めよ、巻きぞえを喰う」

『いやあ、大丈夫ですよ母上。たぶん』

「敵は理性の無い魔王軍ぞ。現魔王も現れたと言うでは無いか」

『まあ、きっと大丈夫です。ええ』


 ジョウミンさまはなんだかとてもいぶかしげですわね。


 とりあえず、森の道を通って世界樹の街まで早く行きましょう。

 アリアカの増援が来ていないけど、たぶん大丈夫だわ。

 うん。

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