第四十四話 ハイエルフが来る、チャラ男のお母さん
「お帰りなさいませ、妖精王。素早いご帰還を喜ばしく思います」
なんだか、クールな感じの長身イケメンがウルバノさまの前にひざまずいてお祝いを述べているわ。
制服を見ると、革命軍の一般兵ね。
『キャブリエル……、なんで君は一般兵をやっているのかね?』
「ミキャエル宰相に将軍を降格されまして、しかたがないかなあと」
『……、ぜったい嘘だね』
「おやおや、仕方が無いではありませんか、いつも主上はすぐ居なくなりますし、今回もそうかなあと思い一般兵をやっておりました。下の方から見上げるといろいろな問題点が見えてくるものですね」
なんだか、食えない感じの有能イケメン将軍のようね。
妖精王が行方不明なので、宰相に逆らわず一般兵に潜伏していたみたい。
『とりあえず、帰還早々に君と出会えて良かった。兵をまとめてくれ。君を将軍へ復帰させる』
「……」
『何かね?』
「せっかくなので元帥に昇格させてください。革命軍のお陰で旧来の将軍達がいなくなって、前方が素晴らしくクリアですから」
なんだか、ひょうひょうとおねだりをする人ね。
『わかった、運も実力の内だろう、キャブリエル将軍を元帥に昇格させよう』
「ありがたき幸せ」
キャブリエル元帥はウルバノさまに一礼したあと、兵士の方を向いた。
「さあ、聞いたな貴様らっ! いまや邪魔で憎い憎い上官も同輩も全部居ないっ!! 手柄次第で出世し放題だ! 寿命の長いエルフ族にとっては超々ボーナスステージだ! とんまな革命軍に感謝しながら進軍し、馬鹿共を撃破するぞっ!!」
「「「「おおっ!!」」」
なるほど、それで妖精王におねだりして、一般兵の目の前で出世して見せたのね。
キャブリエル元帥は軍の士気を上げるのが上手いわね。
下っ端兵士の目の輝きが違ってきたわ。
みな一緒になって街道を行軍していくわ。
といっても徒歩なのでのんびりした感じよね。
そして、ウルバノさまはフェンリル形態を解かない。
「ウルバノさまは、なんで大狼のまんまなんですか?」
『フェンリルは聖獣なので、この姿の方が一般エルフに受けが良いんだよ。それに、君とアデラの目も、こちらの方が優しいし』
「まあ、育ち過ぎてしまったワン太と思えば、思えなくもありませんしね」
『世界樹の街までは、このままでいようと思う』
ウルバノさまは尻尾をぱたぱたと振った。
そうやって歩いて行くと、ふわりと辺りが霧に包まれたわ。
隣にいるアデラやリジー王子も霞んでしまうぐらいの濃い霧。
鈴の音がシャン、シャンとなって、霧の中から錫杖を持った背の高い美しい女性が現れたわ。
「告げる、妖精王ウルバノ、世界樹の樹が焼かれる寸前まで行った事に、長老会がお怒りだ」
『これは母上、お久しぶりです、二千年ぶりでしょうか』
ウルバノさまのお母様!
ハイエルフだわ。
「告げる、長老会は一刻も早い事態の収拾を願っている。お前が何も出来ぬのなら介入を検討している」
『お待ち下さい、母上、長老会の出番ではありませんぞ、今は軍勢を率いて逆賊ミキャエルを討ち果たしに行くところです。しばらくすれば森も静かになりますぞ』
ハイエルフの母は錫杖を持ち上げた。
シャーンと鈴の良い音がする。
「告げる、我が子ウルバノよ、エルフの死を長老会は喜ばない。生かし追放せよ」
フェンリル形態のウルバノさまは顔をしかめた。
『しかたがありませんな。死刑にするのが一番簡単なのですが』
「主の不徳が招いた事態である、自分で償うが良い。出来ぬとあれば、長老会がその魔導でもって魔王軍を討ち果たす事であろう」
『かしこまりました、なんとかするので、長老の方々は森の奥で引きこもってください』
「信用出来ぬ、見届け役として、我も同行する」
『えー、マジですか母上』
「我は嘘など言わぬ」
そう言うとハイエルフ母はウルバノさまの隣に並んだ。
錫杖をシャンと振ると霧は一瞬で晴れた。
「エルフの森共和国って、上部組織にハイエルフ長老会があるのね」
「そうですね、お嬢様。対外的には共和国となのって妖精王が統治してる形を見せていますが、実際はその上にハイエルフの組織があったみたいですね」
こそこそとアデラと二人で噂話をしていたら、ハイエルフの母がこちらをじっと見つめていた。
「ふうむ……。これは異な事……。これ、そこの召使い」
「は、はいっ、ななな、なんでしょうか?」
ハイエルフの母はアデラを無遠慮に観察した。
「……。まあ、何か事情があるのであろう。問い詰めはせん。お前の主人と、アリアカの王子を紹介してくりゃれ」
「は、はいっ。このお方が私のご主人のフローチェ・ホッベマーさまです。そして、こちらのお方がアリアカ王国皇太子リジーさまでございます」
「そうか、たわけのウルバノが世話になったな、ハイエルフのジョウミンと申す、よろしくな」
「よろしくおねがいいたします」
「よろしくおねがいします、お目にかかれて嬉しく思いますよ、ジョウミンさま」
「うむ……」
後ろからミズチさまがどどどとやってきた。
「おー、久しいのう、ジョウミンではないかー」
「……古竜のミズチではないか、こんな所で何をしている?」
「スモウ見物じゃ。面白いぞ」
「スモウとは?」
「異世界から来たエキサイティングな神事じゃよ」
「白熱的神事? 神事とは厳かなセレモニーのはずだが……」
「まあ、百聞は一見にしかずじゃ、ハイエルフどもが森の奥で引きこもってる間に世界は動いているのじゃぞっ!」
そう言ってミズチさまは、かかと笑った。
というか、あなただって一昨日までお相撲の事しらなかったでしょうに。




