第四十三話 アリアカ、ドワーフ連合軍、エルフ革命軍と開戦す
さあ、アリアカの軍勢は全く到着していないけれど、ドワーフ軍の手勢五千を加えて、ドワーフ大玄洞を出発したわ。
国境で革命軍が待ち構えているかもと思ったのだけれど、見張りも立っていないわね。
革命軍はゆるゆるだわ。
朝の光の中を馬車で移動していくと、なにやら物見遊山のよう。
しかも、この馬車は、逃避行に使って大玄洞においてきた物だわ。
これは四人乗りなので、私と、リジー王子と、アデラと、妖精王だけね。
なんでチャラ男が、とも思ったけれど、ワン太の姿の時はこうして四人で移動していたので、仕方が無いのかもしれない。
というか、ワン太に戻れないのかしらね。
モフモフの手触りが恋しいわ。
「逃避行はとても不便だったけれど、とても楽しい旅だった。君たちのお陰で本当の心のふれあいという物を体験した気がするよ」
「私たちも、ワン太の正体があなたと知ってびっくりしたわ。あの可愛らしいワン太が、あなただったとは思いもしませんでしたわ」
「急な呪いだったからね。なかなか外せなかったんだ。何とか半獣人体型まで開放できて、君たちの助けになれて、そして、お相撲をやれて楽しかった」
「あなたのはお相撲じゃなかったけれど、身体能力と、精霊魔法が凄かったわね」
「僕たちエルフは精霊に愛されているからね、そうだ、ゲスマンくんにも精霊利用技を色々伝授しよう」
そういうと妖精王はニッコリと笑ったわ。
チャラい姿はイヤなのだけれど、ワン太もずっと一緒に旅をしてきたのよね。
「僕が王位に返り咲いたら、エルフの森共和国でも相撲を流行らせたいね。相撲は素晴らしい物だ。神事にして興行にしてセレモニーだ。生きとし生ける物はすべからく、相撲の色々な側面を見て、感動し好きになる、そう、あの凶暴な魔物でさえ、ちゃんと相撲をやり、我々と交流できるのだ。世界を平和にするスポーツがあるなら、それは相撲に違いないね」
まあ、ずいぶん相撲がお好きになられたものですこと。
でも、相撲による異種族の相互理解か。
解りやすいルールの力比べでもあるし、武を貴ぶ種族ならその強さで、知性に重きをおく種族ならその儀式の側面で、技術を好む種族なら、技の多彩さで。
色々な種族が、色々な楽しみ方ができるのが相撲の良い所ね。
言うなれば、相撲による平和ね。
みんなで相撲をとれば、勝っても負けても笑顔になれるわね。
横綱として、誇らしいわね。
急に馬車が止まった。
「どうしたの?」
「前方に軍隊ですっ」
窓を開けて問いかけると、アリアカ士官の御者さんが前方を指さした。
街道を、ガラの悪い美しい兵士達が封鎖しているわね。
約二千人という所かしら。
さて、どうしましょうか。
アリアカの幕内力士と、ドワーフ軍が揃っているのだから、あれくらいの兵を蹴散らすのは容易だけれども。
「僕に任せておいてくれないか」
「あら、ウルバノさま、どうなさるの?」
「こうする」
そういうとチャラ男は服を一瞬で脱ぎ捨て全裸になった。
……。
なんのスキルなのかしらね、その瞬間脱衣は。
「ああるうるうううるううううっ!!」
ウルバノさまが天を向いてひしりあげると、体に毛が生えてきて、一瞬で巨大な狼に変態したわ。
どろんととんぼを切って変身したり、ひしりあげたり、変化の方法に一貫性がないわね。
あごのしたをモフモフしたのだけれど、だめだわ、感触が堅い。
ウルバノさま零点。
いきなり現れた巨大なフェンリルを見て革命軍が激しく動揺してるわね。
なぜかしら。
私は巨大ウルバノさまと一緒に街道を軍隊に向けて歩き出した。
まあ、彼らが攻めて来たとしても、二千人ぐらいなら。私一人で蹴散らせるだろう。
『妖精王ウルバノの帰還であるっ!! 頭が高いっ!! 地に額を付け控えよっ!!』
まあ、軍隊の半分ぐらいが、ははぁと言って土下座をしたわ。
地位による位押しなのかしら。
「王よ、直答をゆるされよっ!! なぜっ、あなたが逃亡犯フローチェ皇太子妃候補とドワーフ大玄洞方面から現れるのかっ!! もしかして、偽物……」
隊長らしき美しきエルフは最後まで言えなかった。
もの凄い大きな声で、巨大フェンリルが轟と吠えたからだ。
『頭が高いっ!! 下郎めっ!! 控えおろうっ!!』
魔力を伴った咆吼だわ。
あまりの迫力に隊長エルフは後ろに倒れ尻餅をついた。
『偽物のフェンリルなぞいる訳があるまいっ!! 我はミキャエル宰相の手によって拉致監禁され、逃亡、アリアカのフローチェ皇太子妃候補に助けられ、アリアカの地まで魔導列車にて亡命した。そして、アリアカ軍を伴い、世界樹の街に帰還する所であるっ!! 今回の内乱はミキャエル宰相の謀反である。我は逆賊ミキャエル宰相を討つために進軍中だ、邪魔をするなら生きてはおられぬと思えっ!!』
「ひ、ひいいいっ!! では、革命軍は!?」
『革命軍などという賊軍は即刻解体し、革命前の階級に戻れっ!! 逆らうならば、この場で処刑する!!』
隊長さんはあわあわと動揺しながら後ずさりをしているわ。
でっかい狼は怖いわよね。
『前非を悔い、正当な妖精王の元にひざまづくならば、罪一等を減じようっ!! そうでなければ去れっ!! 去って攻撃の準備でもするが良い、フェンリルの牙が貴様達をかみ砕くだろうっ!!』
ウルバノさまは、いつもはチャラいけれども、やるときはちゃんと王様をするのね。
すこし彼を見直したわ。
エルフ革命軍の三分の一程度の兵が街道を全速力で逃げて行くわ。
残りの兵士はウルバノさまに付くようね。
なによりだわ。




