第四十二話 夜半にドワーフ大玄洞へ到着し一泊
まったりと夜行列車の旅を楽しんだわ。
実験線だから、食堂設備は乗せてないのが残念ね。
とりあえず国境街で作られたハムサンドとかの軽食とワインを楽しんだわ。
「列車は楽しいな。おっちゃん、本格開通はいつ頃になりそうだい?」
ファラリスが満面の笑みでヨルド大玄洞長に話しかけた。
「そうだな、秋には開通するぞ、坊主」
「いいなあ、今度は昼間に乗りたい」
ファラリスの言うとおり、夜行列車は独特の雰囲気があるのだけれども、外が暗くてつまらないわね。
トンネルに入ったり、山岳の鉄橋を渡ったりして、魔導列車、震発丸は動輪を轟かせて駆けていくわね。
そんなこんなで、四時間でドワーフ大玄洞駅に到着したわ。
恐るべき速度と言えるわね。
「今日は大玄洞の迎賓洞に泊まれ、進軍は明日だ。まずは酒を飲もうじゃ無いか」
「お、いいですな」
「お付き合いしますよ」
おじさん達は宴会が好きでいやね。
「食事を出して下さい、私たちは食べたらお風呂に入って寝ます」
「ええっ、飲もうぜ、フローチェ横綱っ」
ヨルド大玄洞長が悲鳴をあげた。
「進軍中に取り組みが無いとはかぎりません。私たちは寝ますけど、政治向きのおじさま達は飲んで騒いでくださいましね」
一緒に飲んだり食べたりするのも、きちんとした外交で、政治活動なのよね。
人は実利とか、理屈とかだけで動く物ではないから。
でも、力士はそんなものに付き合ったりしないわ。
きちんとした睡眠をとらないと体がちゃんと動かないですからね。
予定されてないはずだったのに、晩餐は盛大だったわ。
どっしりと重たい肉料理が多かったですけどね。
おじさん達とミズチさまはお酒を飲んで騒いでいたわね。
私たちは早く上がって寝室に引っ込んだので、その後の事はしらないのだけれど。
「とりあえず、明日はハフトン村まで進軍いたしましょう」
アデラがお風呂上がりの私の髪をすきながら、軍事的な事を言い始めたわ。
「あら、どうして?」
「多分、この速度で我々が取って帰って来るとは思っていないでしょう。ハフトン村なら防衛もできますし」
「たしかに、でも、エルフのお爺ちゃんたちにご迷惑ではないかしら」
「エルフの老人達も同じ国の国民として責任がありますから、気にしなくて、良いと思いますよ」
そうかしらね。
たしかに、長命種なのに短命種のような政治体制を作ったという事で、責任はあるかもしれないけれど。
「それに、たぶん、大丈夫です。ハイエルフが出てきますよ」
「あのチャラ男、じゃなくて、ウルバノさまはハイエルフよね、無限の寿命を持つという、半神の存在よね。とてもそんな風には見えないけれど」
「エルフにも色々とあるんですよ」
エルフの国には数々の謎があるのに、なんでこのメイドは色々と知っているのかしら。
相変わらず謎のメイドよね。
それにチャラ男は、ハイエルフなのに、どうしてフェンリルチェンジが出来るのかしら?
そして、長命種なのに、どうしてあんなにチャラいのかしら。
謎だわ。
大玄洞の宮殿窟の迎賓窟でゆっくり寝たわ。
アデラに起こされたのだけれど、大玄洞のよくない所は窓が無いので、時間の経過が解りにくい事ね。
身繕いをして、ダイニングに行くと、朝食の準備が出来ていたわ。
王様と妖精王が来てないわね。
「ヨルド大玄洞長、うちの王様と、チャラ妖精王はどういたしましたの」
「酔い潰れおったぞ、アルヴィ王は人間なのに酒豪よな」
うわ、ドワーフさんに酒豪と言われるぐらい飲んだら、今日は駄目かもしれないわ。
と、思ったら、目の下にくまが出来た王様がよろよろとやってきた。
「父上、大丈夫ですか」
「た、楽しかったので、飲み過ぎたわい。なに、少しすれば治ろうて」
「もう、若くは無いので、無理はなさらないでくださいな」
「わ、解ったフローチェよ」
チャラ妖精王もやってきた。
こっちはそんなにゲッソリはしてないわね。
単なる寝坊のようだわ。
「おはよう、良い朝だね、お嬢さんがたは今日も綺麗だね」
相変わらずチャラいわね。
ドワーフの朝ご飯は凄いわね。
普通のハムエッグにパンとスープなんだけれど、ハムが分厚いわ。
でも、良い味ね。
「美味しいね、フローチェ、分厚いけど」
「そうですわね。良いハムだわ」
「これ、坊、こぼすでないわ」
「うるせえなあ、良いだろ」
「これからは礼儀もおぼえんとな」
ふふ、ミズチさまはファラリスのお母さんみたいね。
同じ竜族の仲間意識なのかしら。
ユスチン親方も、クリフトン親方も、宴会を早々に切り上げてきたみたいで、体調が悪くは無いわね。
力士たるもの、日々体調を整えておかないといけないわ。
「とりあえず、ドワーフの兵士も五千だそう。魔王軍が来てもある程度は押し返せよう」
「感謝いたしますぞ、大玄洞長」
「なんのなんの、森の菜っ葉食いたちは長年の宿敵、とはいえ、魔王軍の傘下になってはあまりに哀れじゃ」
「まったく、ミキャエル宰相も愚かな事をしましたな」
「さようさよう、貿易の関係もあるでな、さすがに座視している訳ににはいかぬよ」
「大玄洞長、エルフの森共和国の長として、感謝いたします。魔族を追い出したあとは、もう少し国交を増やしましょう」
「そうじゃな」
ヨルド大玄洞長は笑ってそう言ったわ。
でも、知ってる。
エルフとドワーフは仲が悪いから、口だけでしょうね。
長い間の種族の確執は、そう簡単に無くなる物ではないわよ。
人間族が緩衝材になれればいいのだけれどね。




