第四十一話 ドワーフ大玄洞へ向けて夜行魔導列車は行く
国境駅の街に着くと、ヨルド大玄洞長が出迎えてきた。
「おお、フローチェ、予定より一日早いな」
「アリアカは物事の決定が早いのよ」
私がヨルド大玄洞長に挨拶をすると、後ろからアルヴィ王が出てきた。
「これはこれはヨルド大玄洞長、アリアカにようこそ。歓迎いたしますぞ」
「通関処理もしないで申し訳ないですな、アルヴィ王。ご子息のジョナスさんの協力で出来た魔導列車がついに開通ですぞ」
「実験線の用地は治外法権、いや、いっその事、この街全体を租界として、大玄洞との友好の街としましょうか」
「おお、それは良い考えですな。貿易も捗りそうですわい」
租界というのは、ある国の中にあるのだけれど、通関税などが掛からない通商の街の事よ。
港街が多いのだけれど、栄えれば栄えるほど悪い奴らもやってきて治安は悪くなるわね。
でも、この街は内陸にあるから、管理が楽かもしれないわ。
「今日はここで一泊して、明日ドワーフ大玄洞へ向かおうかの」
「なんのなんの、今から出発しましょうぞ、アルヴィ王。夜半には大玄洞に到着しますぞ」
「なんと! そんな速度が出ますか!」
「魔導列車の線路がある場所は、世界が狭くなりますぞ。アリアカはお隣さんになりますわいっ」
私たちはヨルド大玄洞長の説明を聞きながら駅の構内に入った。
震発号が蒸気をもくもく上げながら沢山のドワーフに整備されている。
「おおいっ、そろそろ仕上げろっ、大玄洞へ夜行するぞっ」
「「「へーい、親方っ」」」
ドワーフの大群が有機的に魔導列車を整備していくさまはとても勇壮でいいわね。
彼らがなにか作っていたり作業している姿はとても素敵だわ。
技術力はこの世界一の種族ですからね。
「これが魔導列車か、すばらしく格好いいな」
「乗り心地も良かったですよ、父上」
「そうかそうか」
ミズチさまが街の方から歩いてきたわ。
「坊、わしも一緒にいくぞよ」
「婆、まだ居たのか、湖に帰れよっ」
「また、坊の強い所を見れるのじゃろ、ええではないか、のう、アルヴィ王よ」
「は、はあ、ええと、どなたですかな」
「山岳の湖に住む、古竜のミズチさまですな。アルヴィ王」
「これはこれは、ドラゴンの方でしたか、いやあ、竜族と知り合えるなど、何世紀ぶりでしょうな」
「アリアカの何代か前の王とは面識があったが、さすがにもう死んでおろうな」
「竜の伝説というと、古竜とのラブロマンスで有名なサンジカ王でしょうか、ミズチさま」
「そうじゃそうじゃ、懐かしいのう、サンジカはもう、暑苦しいぐらいに言いよってきおってのう。人はすぐ死んでしまって寂しいのう」
サンジカ王って、五百年ぐらい前の王様よね。
竜のタイムスパンは長いわね。
いつかファラリスも、死んだ私たちを懐かしむ日がくるのかしらね。
いつの間にか列車の向きが下りになっているけど、ターンテーブル装置とかもあるのかしら。
「フローチェ親方! お帰りですねっ」
「マミアーナさん、お帰りじゃないわ、進軍よ」
「魔王軍のいる世界樹の街まで行くんですね、ついて行っても良いですか」
「かまわないわ、途中でエルフの力士にも紹介するわね」
「エルフの力士! そんなのもいるんですか、種族的にお相撲好きそうじゃないんですけどっ」
「ゲスマンっていう剣士上がりの相撲取りよ。世界樹の街のへの中継点で会えるわ」
「楽しみですっ! よかったら進軍中、お暇な時に稽古をつけてくださいませんか」
「まあ、熱心ね。もちろんだわ、一緒に朝稽古をしましょう」
逃避行中は稽古もろくに出来なかったけど、今回の進軍はみんながいるから稽古が楽しそうだわ。
さっそく、ユスチン親方とクリフトン親方がマミアーナさんをからかっているわね。
ポーと汽笛がなって、魔導列車の準備が出来たようだ。
私たちは一等客車に乗り込んだわ。
一等は調度が良くておちつくし、椅子も革張りで座り心地が良いのよね。
車窓からアリアカ東部の農地に日が沈む雄大な風景がみえるわ。
一幅の絵画みたいね。
ああ、どこかでこの光景を見たと思ったのだけれど、前世のミレーの絵画の落ち穂拾いに似てるんだわ。
ゴットン、と音を立てて、魔導列車は動きはじめた。
アルヴィ王も、ユスチンも、クリフトンも子供みたいに窓にへばりついて外を見ているわ。
列車の車窓から見える風景は、なんだかとても素敵にみえるのよね。
夕暮れの田園地帯を魔導列車は速度を上げながら走る。
「追われている時はこんなにゆっくり乗れませんでしたから、新鮮ですわね、王子」
「そうだね、乗ったと思ったら魔王軍の車両が連結して、相撲が始まったからね。今日はのんびり乗って行こうよ」
リジー王子は私の顔を見て柔らかく笑ってそう言いましたのよ。
ああ、旅は良いわね。
お互いの距離が小さくなった気がしますわ。
はぁどすこいどすこい。
「やあ、すっげえなあ、早い早い」
「なんだよ、ファラリスが飛ぶ方が早いだろ」
「そういう問題じゃねえんだよ、クリフトン」
もうっ、クリフトンは趣という物にかけるわね。




