第四十話 八頭立て高速馬車で国境駅を目指す
エルフの森共和国への遠征に行く力士をフローチェ部屋の絶品ちゃんこでもてなして夜は更けていったわ。
国境駅には高速馬車で一日で行く事になったわね。
兵隊さんは徒歩行軍よ。
大変よね。
遠征軍は二万の軍勢で、それだけの将兵を動かすと、食糧や宿泊地とか、色々と大変なのよね。
ボッコリーニ将軍はマウリリオ将軍の後継の軍人さんで、そつが無いわ。
力士としても手堅い相撲を取るので番付を徐々に上がっているわね。
大兵のマッチョマンだわ。
王様の目論見だと、どうせどこかで停滞するから、兵隊は追いつくだろうとの事、きっとドワーフ大玄洞で物見遊山がしたいのね。
ドワーフ側からも兵隊を出してくれるように頼むそうだわ。
見返りは王都までの鉄道延伸の権利らしいわ。
なかなか政治的で生臭いわね。
久しぶりにちゃんこで白米を食べると気合いが入った気がするわ。
やっぱりちゃんこは白米よね。
お風呂に入って畳の部屋で一晩ぐっすり寝て、逃避行の疲れを吹き飛ばしたわ。
「ヨシ!」
「呆れてしまうほど元気ですね、お嬢様は」
「横綱だから!」
アデラの呆れ声も褒め言葉と受け取っておくわ。
さあ、今度は私たちが攻める番ね。
マウリリオ将軍を迎えにいかなくては。
私と、アデラと、ファラリスで、王宮に行くと、八頭立ての高速馬車が三台並んでいたわ。
「フローチェ! 疲れはとれたかい?」
「ええ、リジー王子、久しぶりにぐっすり休めたわ」
「乗って、お父様ももう乗っているよ」
まあ、アルヴィ王ったら、遠足に行く子供みたいね。
「おはよう、フローチェ、良い朝だのう、行楽日和だわい」
「まあ、王様ったらっ」
「なにしろ魔導列車だからな。ドワーフ大玄洞まで一日で着くというではないか。ジョナスの奴も、良い仕事をしたなあ」
「本当に、お兄さまは有能でしたのに……」
「まあ、今後の働き次第で、また浮かび上がる事もあろう。気にするなリジーよ」
「はい、お父様」
まったく、ヤロミーラの色気に迷って王家としては大迷惑ね。
ジョナスは有能だったのに。
「やあ、おはよう、フローチェ、今日も綺麗だね。国境の駅までは同じ馬車というじゃないか、僕は胸がときめいてならないよ」
「……」
チャラ男がなんか言ってるわ。
「ああ、そのさげすんだ目も、それはそれでっ」
チャラ男の上に変態だわ。
いやだわ。
アルヴィ王も眉をひそめてらっしゃるわね。
高速馬車は王都大通りを快速で走り去り、東門を出て、東山街道をひた走るわ。
東山街道は山岳地への通商街道として栄えているから、道は良い感じね。
日暮れまでには国境の街に着けるわね。
やっぱり王都まで鉄道が延伸すると便利よね。
ドワーフ大玄洞まで日帰りが可能になるのは凄いわ。
経済効果も膨大でしょう。
やっぱりこの世界でも鉄道と共に中世は終わり、近代に入っていくのでしょうね。
魔界でも鉄道が出来るから、世界はずいぶん狭くなりそうだわ。
列車にのって魔界にも巡業に行きたいものね。
高速馬車にずっと乗っているのは意外に疲れるわね。
馬車駅で馬を替えている間に少し稽古をしたけど、汗もかかないわ。
急ぎだから仕方が無いのだけれど、体がなまってしまうわ。
稽古に励んでいたら、チャラ男が熱い目で見てきてウザいわ。
「運動が出来る女性は素敵だね。躍動感がすばらしい」
「あらそう」
「ふふふ、冷たいね、だが、それがいい」
なんでしょうか、口を開くとたわけた事しか言わないのかしら、このチャラ男は。
「相撲は世界を変える力があるね。魔族たちも凄く気に入ったようだね」
「本当に、あれはびっくりしたわ。なんでかしら。魔族というのはもっとフリーダムな生物だと思っていたのだけれど」
「魔界は弱肉強食で、相争う地獄のような場所と聞いていたけれども、知的なゴブリンもいたし、少し変わってきているのかもしれないね」
「戦いが絶えないから、気高い戦士の文化が生まれるのかもしれないわね」
そう、前世の日本の侍のような。
中世欧州の騎士のような。
地獄のようなだましあいや、卑劣な殺し合いのるつぼの中からしか、気高い戦士は生まれないのかもしれないわ。
汚濁の沼のなかから、白い蓮の花が生まれるように。
知性と理性の国からはミキャエル宰相のような卑怯者しか生まれないのかもしれないわね。
もっとも、森の奥には、もっと賢明で思慮深いエルフが居るのかもしれないけど。
ハフトン村のお爺ちゃんエルフみたいにね。
でも、目の前のチャラ男は違うと思うわね。
うん。
馬車駅の村で昼食を取り、さらに東に向かって高速馬車は走る。
アリアカの主要街道には駅馬車システムがあって、宿場街では旅人がサービスを受けられるのよ。
王家の高速馬車ともなると、八頭立てを大きな宿場で交換して距離を稼ぐ事ができるわ。
主要街道なら、道も整備されてるしね。
馬車の中では、王様が今回の取り組みを詳しく聞きたがったので、微に入り細に入り説明したわ。
「魔界の相撲取り、しかも、特殊能力を持ち、相撲魂を使い、付与相撲魔法技まで使うとは、そして魔王との取り組みで引き分けるとは、なんという天晴れな。さすがはフローチェだ、横綱の風格じゃな」
「横綱として、かっちり勝利出来なかったのは恥ずかしく思いますわ。次こそ魔王を土俵に投げ捨て、完全な勝利を狙います」
「それでこそ、フローチェじゃ、いや、天晴れ!!」
そんな事を話していたら、ようやく国境駅が見えてきたわ。
思ったより早かったわね。
まだ四時頃よ。




