第三十九話 げっそりしたクリフトンに活を入れる
「はーい、おや、フローチェ親方、それにユスチン親方、ファラリス関、どうしました?」
引き戸を開けて出てきたのは、エドガーさんだったわ。
クリフトン部屋のナンバー2、黒髪華奢で耽美派力士よ。
お耽美枠なので弱いかというと、そんな事は無く、スピードと技で戦う小兵タイプね。
あと相撲知識が凄いわ、お相撲博士と呼んでも良いぐらい。
「クリフトン親方は?」
「寝込んでますね」
「どうしたの?」
「ククリさんが居なくなって初めて自分の気持ちに気がついたらしくて落ち込んで寝てます」
まあ、なんという女々しさなのかしら。
クリフトンったら。
私はクリフトン部屋に乗り込んだ。
親方の部屋は知っているわ。
フスマをバンと開けるとクリフトン親方が布団の中で丸まっていた。
ちなみに、相撲部屋は和風に作っているのよ。
畳とかフスマとかは相撲取りのバルハラから輸入してるの。
ちょっと割高だけれども、ザ・相撲部屋という感じにしあがるわね。
それを見た貴族の人達も和風な雰囲気を気に入ってくれて、今や気の利いた高位貴族の舘には和室を作るのが大流行よ。
「クリフトン! いつまで寝ているのっ、起きなさいっ!!」
「……ああ、フローチェ親方、なんですか……」
寝ながら顔だけこちらに向けたクリフトン目の下にはくっきりとクマが出ているわ。
「好きな子が行方不明ぐらいで、なんてざまなのかしらっ」
「……もう帰ってこない気がするんだよ。二度とククリとは会えないんだ」
「そんなに想ってるなら迎えに行きなさいっ!」
「でも、どこに行ったかもわからないし……」
「知ってるわ」
「なんだって!!」
クリフトンは布団を蹴り上げて立ち上がった。
「直接会って、自分で帰ってきてほしいと伝えなさい」
「ああ、今、どこに居るんだ!」
「エルフの森共和国の首都、世界樹の街よ。私たちは今、かの街にいる魔界相撲の使い手を倒すために強い相撲取りを探しているわ、あなたも来なさい、クリフトン!」
「魔界相撲!! それで、師匠もいるんだなっ」
「そうよ、アリアカ相撲界を代表する五人の力士が、魔王さんが率いる魔界相撲の五人の力士を倒すために団体戦よ!!」
「それは、燃えるな!! え、ひょっとしてククリは?」
「彼女は魔界相撲の中堅よ、かならず最終決戦にでてくるわ」
「ククリが、魔族……」
小さな蜘蛛が天井から下がってきた。
「教えんでわるかったのう、クリフトンや。ククリは我が眷属、アラクネ族なんじゃ」
この蜘蛛はアラクネ族の守護神のアラクネ様よ。
なんだか、お相撲が好きでアリアカに来てクリフトン部屋に住み着いているわ。
「そう、だったのか……」
「ククリさんはリジー王子と対戦したわよ」
「ど、どうだった結果は?」
「彼女は王子を破ったわ」
「なんだってーっ!!」
「人間体でもククリさん強かったけど、魔物形態だと、蜘蛛の足が六本、体重が二倍になるわ。どういう事か解るわね」
「ククリの技に、魔物の体、それは、強いなっ!」
クリフトンの目に闘志が戻って来た。
そう、相撲取りは強敵に目が無いのだ。
「相撲取りらしく、自分の想いは土俵で伝えなさい。技と心意気でね」
「おうっ、誘ってくれてありがとう。俺も行くぜっ!!」
「ヨシ!」
ユスチン氏とクリフトンが参加すれば、もう良いわね。
マウリリオ将軍は進軍中に探しましょう。
世界樹の街場所が楽しみだわ。
「エドガー、アラクネさま、俺は世界樹の街に行ってくる、ククリを迎えにいくよ」
「まあ、そうなると思ってました。行ってらっしゃい」
「よく言ったぞよ、クリフトン、ククリを連れて帰るのじゃ。恋も相撲も押せ押せなのじゃっ!」
今気がついたけど、アラクネさまと、水竜のミズチさまはキャラが被ってるわね。
クリフトンは荷物をまとめて親方部屋から出てきた。
さあ、王宮に行って王様に兵隊を出してもらいましょう。
これで四人パーティになったわね。
みんなでずんずん歩いて王宮に向かうわ。
「これはフローチェ親方、どうぞどうぞ」
王宮の門を守る近衛力士が私たちを通してくれたわ。
私は皇太子妃の候補なので顔パスだわ。
横綱だしね。
「王様と妖精王はどちらにいらっしゃいます?」
「迎賓室でリジー皇太子閣下を交えて談話中であります」
「ありがとう」
近衛力士にお礼を言って私たちは王宮の中に入ったわ。
王宮の大階段を上がって、東側に曲がると迎賓室よ。
私たちの顔を見て執事がドアを開けてくれたわ。
中で楽しそうに談笑していた三人がこちらを見た。
「おお来たか、フローチェ。事情はわかった。すぐに魔導列車にのってドワーフ大玄洞にゆくぞ!」
「王様、軍隊の派遣はどうなさいますの?」
「おお、二万を派兵するぞ。将軍はボッコリーニに任せよう」
「魔導列車と徒歩だと、進軍速度がちがいますけど」
「まあ、首脳陣が先行して行けば、どこかで追いつくであろう。わしは魔導列車にのってドワーフ大玄洞に行きたいのじゃ」
アルヴィ王は、名君なのに新し物が好きで腰が軽いわね。
今すぐ行きたそうにしているけれど、今日はもう夕方だから、明日だわね。




