第三十八話 王都で選手力士を選抜する
ファラリスに乗るとあっというまに王都だわ。
本当に竜は早いわね。
バサバサと羽ばたいてファラリスは王都の中央広場に降りた。
彼は、しょっちゅう離着陸をしているから、もはや誰も驚いたりはしないわね。
めざといファンがファラリスを見つけて黄色い歓声をあげたわ。
意外に女子にもてるのよね。
ちょっとワイルドで格好いいし。
王宮の方へ向かうと、途中でアルヴィ王がやってきたわ。
「おお、リジーよ、フローチェよ、予定通り帰ってこなかったのは何かあったのか?」
「エルフの森共和国で、革命騒ぎです、父上。ミキャエル宰相が魔王軍を引き込んでクーデターを起こしました。その余波で捕まりそうになり、フローチェと逃げてまいりました」
「なんと、魔王軍を引き込むなぞ! 妖精王は何をして……。これは妖精王ウルバノ閣下、アリアカ王都にようこそ」
チャラ男はなんだか格好いいポーズを取った。
「アルヴィ王よ、久しいな、このような事態であったので、リジー王子に助けられて逃げてきたのだ。兵を貸して頂きたい。世界樹の街を奪還する」
「ふむ、よろしいでしょう。我が国とエルフの森共和国は友好条約を結んでおりますからな」
「ミキャエルのたわけが一方的にアリアカとの友好条約を破棄しおったが、条約を締結した余は認めておらぬ。変わらぬ、いやより一層の友好を誓おうではないか」
「そうですな。ではこちらに立ち話もなんですから、王宮で事情を聞きましょう」
アルヴィ王はウルバノさまの肩を抱いて王宮に誘うわね。
チャラ男もちゃんとすれば押し出しも強いし美丈夫だから、なかなかの貫禄ね。
「僕は、補足説明をするために王宮に行くけど、フローチェはどうする?」
「私は団体戦の力士をスカウトしないと。ユスチン部屋と、クリフトン部屋に行ってみるわ」
「五人だと、何人かは余るね」
「補欠選手として連れていくわ。とりあえずクリフトンにはククリさんを迎えにいってもらわないと」
リジー王子はニッコリ笑った。
「そうだね、ククリさんは王都でもっと相撲を取ってもらわないとね」
そうなのよ、あんな素晴らしい力士を暗黒相撲に取られるのは癪だわ。
リジー王子と別れて、私と、ファラリスと、アデラの三人で王都を歩く。
ああ、久しぶりの王都ね。
「俺は出してくれるんだよな」
「それは解らないわ」
「えー、出してくれよう、またアリマ関と戦いたいっ」
「せっかくの団体戦なんだし、別の相手と戦いなさいな」
「そうか、それも良いな。アラクネ体型のククリとも戦いたいな。前の王都場所で当たって勝ったけど、人型の時より強そうだしな」
お相撲の楽しさは、色々な力士との取り組みが見れる事よね。
私もウタさんと戦いたいわね。
根っこを生やすのは脅威的だけれども、動きが無くなるから技は掛け放題になってしまうのよね。
そこを克服すると、ウタさんはもっと強くなれると思うわ。
そんな事を考えていたら、ユスチン部屋に着いたわ。
「たのもー」
「誰だ~~、おっ! フローチェ親方。ファラリスも、出稽古ですか?」
若手力士じゃなくて、ユスチン親方本人が出てきたわ。
「あなた、また太ったわねっ、ゆるせないわっ」
「力士は食べるのが仕事ですからね。ごっちゃんですっ」
もうっ、私とか、リジー王子が体重が増えなくて困ってるのに、太り放題でずるいわっ。
もはや、ソップ型ではなくてアンコ型に近づいてきてるわね。
ちなみにソップ型というのは、筋肉質でそんなに太ってない体型の力士を言うわ。
アンコ型というのは、丸まると太った体型ね。
ソップ型の方が強そうに見えるけど、お相撲にとって体重が多いというのはとても強い武器なのよ。
でも、そのせいでアンコ型力士は膝をやられたり、糖尿病にかかったりで、弊害も多いのですけどね。
「エルフの森共和国で大変な事が起こったのよ、道々説明するから付いてきなさい」
「はあ、それは良いんですが、どこへ行くんで?」
「クリフトン部屋よ。とりあえずアリアカ最強力士を五人集めないといけないわ」
「最強力士と聞いては黙ってはおれませんな。行きましょう行きましょう」
ユスチン親方が加わって私たちは四人パーティになったわ。
まあ、魔王さんを倒しにいくのだから間違ってはないわね。
道々、ユスチン親方に説明すると、彼はびっくりするやら、興奮するやらでうるさいわね。
「魔王が率いる魔界相撲と団体戦で対決ですか、そりゃあ燃えますなあ。マウリリオ親方は?」
「エルフの森共和国に置いてきたわ、きっと生きてるでしょう」
「そうですなあ、あの人は軍隊仕込みでしぶといですからね」
「フローチェ、俺、リジーと、あと枠が二人しか残ってねえなあ。そこへ、ユスチンのおっさんと、クリフトン兄貴と、マウリリオ将軍か」
「わ、私も出られますよね、何しろ大関なんですから、フローチェ親方」
「解らないわよ~~、あと、クリフトン親方は出場確定ね」
「え、そりゃないですよ、あいつは小結ですよっ」
「ククリさんが魔界相撲にいるわ、クリフトン親方に迎えにいかせるのよ」
ユスチン親方は目を丸くした。
「ええっ、ククリさんは良い相撲取りなのに、魔物で、魔界相撲からのスパイだったのですかっ!」
「ええ、良い力士だから、アリアカ大相撲に欲しいわ。女子勢では筆頭の強さですし」
「まったくですなあ」
そうこうしているうちにクリフトン部屋に着いたわ。
そういえば、この部屋には蜘蛛の神様のアラクネさまもいらっしゃるのよね。
王都では信仰が薄いので小さな蜘蛛のお姿ですが。
とりあえず。
「たのもーっ」




