第三十七話 フローチェは王都へ竜行する
私とリジー王子は王都に戻る事にしたわ。
王様に事の次第を伝えて軍隊を出してもらわないと。
「ファラリス、王都まで、おねがいね」
「おう、まかせとけっ」
「ファラリスがいると助かるよ」
「だろーっ、今回の親善訪問にも俺を連れてけば良かったんだよ」
「あなたが辛気くさいって、同行を嫌がったんじゃないの」
「えー、そうだったか?」
まったくもう、この子供ドラコンは鳥頭で困るわ。
都合の悪いことはすぐ忘れるんだから。
「背中に四人乗れるかしら?」
「まかせとけっ」
四人だと、乗る場所が狭くなって怖いのだけれども、仕方が無いわね。
私は全裸ではなくなった妖精王の方へ行った。
洋服はリジー王子の着替えを借りているのね。
良く似合っているけど、体格が大きいからつんつるてん感が少しあるわ。
「妖精王さま、王都へ向かいましょう」
「竜に乗ってアリアカタウンへ訪問か、なかなか心躍る経験だね。妙齢の美女が二人一緒だしね」
そういうと、チャラ男は歯をキラリと光らせて微笑んだ。
ドガゴガッ!
「ぎゃーっ」
私とアデラが同時に妖精王の足を踏んだ。
まったく、私たちのワン太を返してっ。
こんなチャラ男は可愛くもなんともないわ。
「酷いじゃないか、ワン太の時はあんなに可愛がってくれたのに」
「今のあなたは妖精王ウルバノさまで、ワン太じゃないわ、というかワン太に戻りなさいよっ!」
「無理だよ~~、あれは呪いが掛かってあらゆるパラメーターが子供に戻っていたから、ワン太なんだよ~~」
「努力しなさいませっ」
アデラが目を三角にしてウルバノさまに問い詰めているわ。
「やってみようか」
ウルバノさまはとんぼを切ってボワンと煙の中に消えた。
そして替わりに現れるのは、牛ほどもある巨大な狼でありました。
『今はこんな感じ、獣人体型も取れるよ』
「かわいくない」
「かわいくありませんわ。あと喋るのも減点です」
『君たちは厳しいなあ』
毛並みもゴワゴワしてるわ。
ウルバノさま零点。
そして、ボワンと戻ると、また全裸ですわ。
なんてはしたないチャラ男。
「でも、なんだかさげすまれた目で見られるのも、イイネ!」
チャラ男はたわけた事を言いながら服を着るのです。
「とりあえず、何日ここで待てば良いんだ?」
ドワーフのヨルド大玄洞長が話しかけてきました。
「そうね、なるべく早く軍を編成して戻ってくるけど、この列車、何人乗れるの?」
「百人ほどかな、まだ試験中だから、客車を増やしてねえんだよ」
「十往復で千人ほどですか、万人の軍を動かすとなると、やっぱり徒歩と馬ですね」
アデラが腕を組んで言います。
「メイドさんの癖に行軍が解ってるじゃねえか。とりあえず、線路に併走する脇街道があるから、そこを行けば良いぜ」
「三日ほど待ってちょうだい。というか、こんな所に街があったのね」
駅舎の向こうに真新しい家が集まって、街が出来つつあった。
食堂とか、宿屋もあるようだ。
「ああ、魔導列車建設中になんか出来た。ここは、そのうち一等地になるぜ」
「めざとい商人たちが移住してきたのね、あたらしい国境の街だわ」
ドワーフ大玄洞と交易ができれば大もうけだし、魔導列車が本格稼働したら、みんな旅行にも行くだろうし、この街は大きくなりそうね。
「エディ王に王都までの線路延伸を頼んでおいてくれよな」
「王都近郊に魔導列車が走れば経済効果が凄いわ、勧めておくわね」
「父様は新しい物好きだから、乗りに来ると思いますよ」
「そりゃあいいや、じゃあ、行ってこい」
ヨルド大玄洞長は恵比寿顔で笑ったわ。
本当に国境まで線路をつなげちゃうなんて凄いわね。
ファラリスがとんぼを切って大きなドラゴンになったわ。
なんでこの世界の人外さんはとんぼを切って変身するのかしら。
羽を地面に降ろしてくれたので、登って首筋を目指す。
さすがに四人だとキツイわね、密着する形になるわ。
一番前が私で、次がリジー王子、その次がアデラで、最後にウルバノさんね。
「変な所を触ったらぶっとばしますからねっ」
「そ、それは誤解だ。僕は淑女には無体はしないんだよ、なにしろ女性というのは世界で一番美しい物だからね」
振り返るとアデラのおでこに青筋が浮かんでいるわね。
まったく、ワン太のままだったら楽だったのに。
「ファラリス大丈夫?」
『軽いもんだな、そっちこそ落ちるなよ』
「しっかり捕まっていくわ。こんどヨルド大玄洞長に鞍を作ってもらいましょう」
『鞍とかやだなあ』
でも空を飛ぶのだから安全ベルトが欲しいわ。
一度、ファラリスに乗っているときに暴風雨に巻き込まれた事があって、あの時は死ぬかと思ったわよ。
ファラリスはバッサバッサと羽ばたいた。
太ももに伝わる首の筋肉がうごめくと、彼はジャンプして空中に飛んだ。
激しく羽ばたいて高度を上げていく。
ああ、でも、いつ乗っても、空の上は良いわね。
地平線のかなたまで見晴らせるわ。
振り返ると、轟輪号が山岳のトンネルに入るところが小さく見えた。
次は、魔王さんを倒すわ。
王都に行ったら団体戦の選抜メンバーを決めないとね。




