幕間:エルフ共和国宮殿樹、バルコニーにて
世界樹の街の美しいエルフたちが空を見上げます。
大型輸送グリフォンの編隊が巨大な機械を吊して上空を飛行して行きます。
宮殿樹の上にグリフォンが来た時、五つの影がバルコニーに跳び降りました。
魔王の一行です。
「まったく、なんだ、あのべらぼうな強さはようっ! ありえねえだろうが、人間のくせにっ」
「あ、やっぱり魔王さまも内心びびってたんだ」
「あんな強い相撲取りと戦った事がねえよ、いやあ、ハラハラしたな」
「フローチェ親方だけでなく、リジー王子も実力者でしたね」
「ファラリス関、強い……」
「驚愕したでミノ」
魔王さまは西、アリアカの方を振り返ります。
「ちょっと強化合宿しねえとな。俺は少しフローチェ親方を舐めてた。第二段階で勝てねえと、第三段階に行けないまま負けてしまうぜ」
「稽古しよう、稽古稽古。私も根っこに頼りすぎ。少しは動けないと技を掛けられ放題よっ」
「ウタはそうだな、少しでも動けるともっと強くなれるな。ククリは良い感じだ、二連勝はお前だけだし」
「アラクネは相撲向きなんですよ。でもリジー王子相手ではひやりとしました」
「おいらも、強い相手とやりたいミノ」
「次はどうかなあ、おめえは一段落ちるからなあ」
「精進するでミノ……」
魔王は深く考え込みました。
「とりあえず、最終戦で決まってるのは、俺、アリマ、ククリだなあ。ウタとゴゴンテスは稽古を見てからだな」
「えー、私も出たいです~~っ」
「出たいミノ」
「やっぱ、魔界相撲の特色は特技だろ、初見殺しの力士の方が勝率が高いと思うんだよ」
「んじゃー、稽古がんばるーっ」
「頑張るでミノ」
「稽古の出来しだいだなあ」
魔王の顔に自然に笑みが浮かびました。
「あー、だけど楽しかったなあ、ヒリヒリする緊張感は久しぶりだぜ」
「お相撲は良いよねえ」
「もっと、やりたかった……」
「本当に、アリアカの力士さんたちはみんな気持ちが良いですね」
「本当だミノ、あのドワーフのカワイ子ちゃんも強かったミノ」
「おう、あのドワーフが出たら、ゴゴンテスを出してやんよ」
「本当ですかミノ!」
「ただ、まあ、短期間だし、アリアカには、いろいろ強い力士がいるからな、ユスチン関とか、マウリリオ関とか」
「マミアーナちゃんが仕上がる事を祈るミノ」
ゴゴンテスは大きな手を合わせて祈りました。
皆で笑顔でわいわいと話していると、ミキャエル宰相がバルコニーにやってきました。
彼の姿をみた瞬間、全員の表情が消えました。
「やあ、楽しそうだな、捕まえたのだな、リジー王子とフローチェ皇太子妃候補を」
笑顔のミキャエル宰相に、みな酢を飲んだような表情を向けています。
「惜しくも逃がした」
「な、なんじゃとっ!! じゃあなんでそんな笑顔で笑い合っているのだっ!! どういう事なのかね、魔王さんっ!!」
「相撲の試合をして、引き分けた、んで、逃がした」
美しいミキャエル宰相は怒りの表情で真っ赤になりました。
「ななな、なんでスモウなどの児戯をしてるのだっ!! 魔物は魔物らしく、群れを作って殺せば良いではないかっ!! 頭がおかしいのか、君たちはっ!!」
魔王軍は沈黙しました。
「これからアリアカ軍が攻めて来るぜ。世界樹の街で相撲大会を開催して、奴らを食い止めるつもりだ」
「ば、馬鹿なっ!! 約束が違うっ!! 国境線に魔物の軍隊を駐留させよっ!! これは重大な契約違反だぞっ!!」
「おい、ミキャエル……。お前はもう終わりだし、世界樹の街も終わっているんだよ」
「な、何を言うか、こ、これからエルフの森共和国は魔王軍に莫大な報酬を払うつもりなんだぞっ、い、いいのか?」
「もう、報酬とかいらねえんだよ。もう、こっちの欲しい世界樹の街の防衛魔法システムは解析できたからな。いつだって攻められるし、街を火の海に出来る」
「や、約束がちがうっ!! エルフの森共和国の革命を支援してくれるとっ」
魔王はさげすんだ目でミキャエル宰相を見ました。
「なんで、高級なエルフさんが、下賎な魔物との約束を信じてんだよ。なあ、もう解れよ、お前はもう、終わりだ。妖精王が帰ってくるぜ」
「な、なにいっ!!」
「フローチェにくっついて、妖精王はアリアカに亡命した。あいつを旗印にアリアカ軍は攻めてくるぜ。せいぜい革命軍で抵抗すればいいぜ」
ミキャエル宰相は真っ青になって、荒い息をついています。
「た、頼む、革命を、革命を守ってくれっ!! エルフの森共和国の千年の夢なのだっ」
「エルフの夢なんざ、知るかよ。お前はもう破滅だ。世界樹の街場所で、仮に俺らが勝ったとしても、お前らエルフは魔界の属国だ」
「な、なぜだっ!! どうしてだっ!! 対等な友好をするという条約がっ!!」
「いつでも殺せる国への条約なんざ、守る気もねえよ」
その時、初めてミキャエル宰相は目の前の存在が邪悪な魔物であると実感したのです。
魔物相手に条約を交わして、守られると思っていた、自分が間違っていたと、はっきりと解りました。
「口での約束なんざ、意味はねえんだよ。守らせる力が無きゃなあ。そんで、おまえらは自分の命を守る超高度な防衛魔法網の秘密をばらしたんだ」
「ば、ばかな、知能の低い魔物に、我々の高度な魔法技術が理解できる訳がないっ! は、反撃するぞっ、恐ろしい魔法でっ」
「お前も、革命軍も、そんな超魔法はつかえねえだろ。おめえらは何にも出来ねえくせに、口ばっかだ。怖くねえよ」
ミキャエル宰相は頭を抱えてうずくまり、悲鳴を上げます。
「ざまぁ」
ウタがぽつりと言った言葉がバルコニーに響きました。




