第三十二話 四番勝負、ファラリス対アリマ①
「おっさん、おっさんが行司? いつもの爺は?」
『これ、失礼なっ、今回は公平を期すため、アリアカの白行司と、魔界相撲の黒行司が合体して、この私、グレイ審判が生まれたのだ』
「お相撲関係者って魔物じみているよなあ」
『暴言はやめたまえよっ』
土俵上のファラリスがグレイ審判に絡んでいるわ。
あの子ったらもう、行動がフリーダムなんだから。
「ファラリス、アリマ関はそっ首落としが得意よ、付与がかかると、暗黒のデバフが掛かるわよ」
「そうか、あのおっさんデカいからな、気を付ける」
「思い切り前に押すか、逆に離れれば、すかせるわ。気をつけてね」
「ありがとう、フローチェ」
「がんばってくれ、ファラリス。君が頼りだ」
「まかせとけリジー」
『そろそろ良いかね?』
「ちょっとまってくれ、魔界相撲って何でもありなのか? だったらブレスは? ブレスも決まり手でいいの?」
『……、えー、あまりに高威力のブレスは禁止だそうだ。相撲にならないからね』
「それもそうか、火吹き合戦になると、確かに相撲じゃないよな」
あまり力士が火を吹きあって勝負が決まるお相撲は見たく無いわ。
「羽はあり?」
『羽も飛行も有りだ、魔界相撲だと飛行自慢による空中戦もあるそうだ。その場合、土俵の俵の上空に七色の障壁がかかり、そこから出ても負けだね』
「よし、おもしれえっ」
ファラリスは胸の前で両手を交差させると、背中からコウモリっぽい羽を出した。
アリマさんも羽持ちだから、これは面白いわね。
しかし、魔界相撲だと空中戦もあるのね。
なかなか奥が深いわ。
アリマ関が土俵に上がり四股を踏んだ。
ドーーン。
ドーーン。
良い音。
負けじとファラリスも四股を踏む。
ダーーン。
ダーーン。
ファラリスの四股は、ちょっと音が軽いわね。
体重が無いから仕方が無いのよ。
竜体でお相撲をされたら、列車から体がはみ出してしまうし。
二人は土俵の仕切り線を挟んで相対した。
「ドラゴン……、たのしみ……」
「俺も上級悪魔と相撲すんのは初めてだよ、楽しみだなあっ」
笑顔で返したファラリスに、アリマ関は静かにうなずいた。
『見あって見あって』
仕切り線を挟んで両者はにらみ合う。
さすがに大関同士だと殺気の張り詰め具合が違うわね。
大気がどろりとなるぐらい濃密に殺気がうごめいているわ。
ファラリスとアリマ関の呼吸が、合った。
大きな赤い羽根で羽ばたいて、飛ぶようにファラリスは立ち会う。
かたやアリマ関は重々しくダッシュして迎撃せんとする。
ドカーン!!
両者は激突するが、まったくの互角。
廻しの取り合いになる。
アリマ関がてっぽうを打つがファラリスは意に介さず左廻しを取った。
「いっくぜーっ!!」
ファラリスは全力で羽ばたきアリマ関を押していく。
ぐいぐい押されてアリマ関の巨体はじり、じりっと後ろに下がる。
「このまま、押し出しっ……」
黒土俵の部分にファラリスの足がかかっていた。
目に見えて彼の押す力が弱まる。
「まじかっ! こんなに効くのかっ!!」
アリマ関が片腕を上げたので、ファラリスは廻しを放して羽を併用して後方に離れた。
ファラリスの裸の背中にびっしりと汗が浮かんでいた。
「強ええっ、フローチェの次にあんたぁ、強ええぜっ!」
「……」
アリマ関はファラリスの言葉にうなずいて前進、両者は再び仕切り線の間で激突した。
見応えがあるわねっ。
ふたたび廻しを取り合い、がっぷり四つになったファラリスとアリマ関は体勢を崩し合う。
力はファラリスの方が上なんだけど、アリマ関は老獪ね、動きがぬるぬるしているわ。
「しゃらくせーっ!!」
ファラリスはがっぷり四つのまま背中の羽を羽ばたかせて空中に浮かんだ。
アリマ関の小さな羽も羽ばたいているわ。
空中相撲の始まりねっ!
アリマ関がファラリスを腰に乗せて投げた。
ファラリスは巧みに空中制御をして持ち直す。
アリマ関は上方から張り手投石機。
腕が音速を超えて、衝撃波が下にいるファラリスを襲う。
ファラリスは巧みに飛んで避けるわ。
羽がある同士の空中相撲は派手だわね。
『トンネル!』
グレイ審判が進行方向を指し示す。
前方には真っ黒なトンネルが。
慌てて二人は土俵に下りる。
ガアアアア!
音を立てて魔導列車はトンネルに入った。
オレンジの洞窟灯が土俵の上で相争う二人をストロボ撮影のように浮かび上がらせる。
ゴウウウウン!
トンネルを抜けて、あたりが真っ白な日の光に照らされる。
死闘。
と、言って良い。
アリマ関も、ファラリスも、水を被ったような汗。
二人ともなんとも言えない凶暴な笑顔で相撲の奥義を繰り出しているわ。
「楽しいなっ!! 楽しいなっ!! アリマさんっ!」
アリマ関も笑いながらうなずく。
『のこった、のこった!!』
凄いわ、実力が拮抗しているのね。
ファラリスも上手くなったわね。
赤茶けた荒野を魔導列車は相撲を乗せてどこまでも走っていくわ。




