第二十九話 二番勝負、ワン太大暴れ!
「ワン太、がんばってね、早く取り組みを終わらせて元に戻るのよ」
「バウン……」
私の激励になんだか肩を落としてワン太は土俵に行くわ。
本当に元のワン太とは似ても似つかない細マッチョ獣人形態だわ。
廻しも派手だし。
「ひがぁぁし、わんたぁぁ、わんたぁぁ、にいしぃぃ、ウタァ、うたぁぁ」
土俵の上でアデ吉が両力士を呼び出した。
なかなか土俵の上のワン太も格好いいわね。
精悍な感じよ。
でも、元ワンコに相撲の勝利は期待が出来ないわ。
相手はアラウネのウタさんだし。
毒を食らって鳴きながら帰って来そうだわ。
まあ、私たちの役に立とうというその心意気だけは買わないとね。
ウタさんもよちよちとおぼつかない足取りで土俵に上がった。
四股とかは踏めなさそうね。
アンチマジックの時とかどうするのかしら。
「はぁい、可愛いワンちゃん、一瞬で夢の国に送ってあげるからねっ、うっふん♡」
「バウバウ」
あら、ワン太が、ふんっ、という感じにいなしたわね……。
彼は片足を上げて、四股を踏む。
ダアアアアン!
え、なにこの威圧感。
ワン太から強者の風格を感じるわ。
い、いやよ、強いワン太なんてうちの子じゃないわっ。
「お嬢様、これはひょっとするとひょっとしますよ」
呼出しを終えて帰ってきたアデ吉が私に話しかけた。
「フェンリルの存在感かしら、そんなに強いモンスターなの?」
「はい、フェンリルは別名森の王とも呼ばれる強力なモンスターです。一説によるとドラゴンをかみ殺すとも言われますよ」
「い、いやだわ、強いワン太なんて」
「お嬢様、ワン太が負けると二敗ですよ、後がありません」
「どっちも嫌だわ、横綱はわがままな物なのよ」
むうと、アデ吉は顔をしかめた。
「な、なんなの、なんで強そうなの、ワンちゃん?」
「グルルルッ」
「なんかヤバイ感じがするぅ。瞬殺しようっと」
ウタさん、そういう事は口には出さない方がいいわよ。
『見あって見あって』
両者は仕切り線を挟んで立ち会いに入る。
呼吸が合わないと立ち会えない。
相手の呼吸を読むのだけれど、魔界相撲だと読みにくい人もいるでしょうね。
そういう時はどうするのかしら。
呼吸が合った。
両者地面に手を付ける。
うはっ、ワン太の体が倍ぐらいに膨れ上がって見える。
同時にウタさんが体中のお花から毒花粉を噴射した。
「さあっ、痺れ……」
BOWWOW!!
咆吼がワン太の口から発射されて毒花粉を吹き飛ばした。
吠え声には麻痺の効果もあったのか、動きを止めたウタさんの胸に弾丸のようにワン太が頭突きを食らわせた。
ドカーーン!!
もの凄い衝撃音でウタさんが後ろに吹っ飛びそうになったが、足の裏に張った根でギリギリ耐えた。
「な、なんなのっ!! あなた、なんなのようっ!!」
ウタさんが狼狽えながらてっぽう鞭を飛ばすが、ワン太は意にもかいさず、避ける避ける避ける、もの凄い高速で避ける。
は?
何という動体視力、何という体裁き。
相撲の動きじゃないけど、もの凄い高度な運動神経よ。
「くっ!!」
ウタさんが再び花粉を発射、今度は質量が重いのかゆっくりとワン太に向かう。
「ひゅるぃぃぃぃいぃぃいぃっ!」
ワン太が天を見上げひしりあげる。
それは聞いている者の心をわしづかみにするような獣の声だ。
ババババババ。
音がするほど大量の緑に光る精霊がワン太の回りに集まった。
「風の相撲……、なの?」
「森の中じゃないのに、なんであんなに風の精霊が?」
風の精霊の支援によって、早い速度をさらに増したワン太は分身する勢いでウタさんの回りを走り回り、パンパンパンと張り手を打つ。
なんだか、もう、お相撲じゃないけど、とても強いわ。
「痛い、痛いっ!! きーっ!! 生意気なワンコめっ!! 千条鞭!!」
ウタさんの体中から無数のツタの鞭が現れワン太を襲う。
「ひゃあああああるううううっ!」
ワン太が別の音階でひしりあげると、地面のしたから無数の赤い光の精霊が現れ、炎を巻いてツタを焼き切った。
「こ、今度は火の精霊ですよ、火とか無いのにっ」
「これ、精霊魔法だわっ」
火の精霊は空中で色を青に切り替え、霧を発生させた。
「ど、どこっ!! ワンちゃん、卑怯よっ!!」
「バウバウバウッ!!」
霧を切り裂いて砲弾の速度でワン太がウタさんに激突する。
あ、いけないっ、体当たりでは受け止められるっ!
「あああひああぁぁるるううううっ」
青い精霊たちが今度は色を黄色に変えて土俵に潜り込んでいく。
どーーーーん!!
「うそっ……」
土俵が黄色い精霊の手によってか、切り取られていた。
ワン太のもの凄い速度のぶちかましによってウタさんは吹っ飛んだ。
あんまりの勢いで土俵列車から飛びだしそうになったが、ククリさんが手首からアメコミヒーローのように糸でできた網を出しウタさんの足首をひっかけ止めた。
「……」
「……」
「……」
『……、しょ、勝者ワン太!!』
「バウバウバウバウ!!」
ワン太は両手を挙げてガッツポーズを取った。
だめよ、土俵の上ではガッツポーズは禁止よ。
ワン太は嬉しそうに土俵から下りてきた。
「ワン太偉いわ、良くやったわね」
「貴重な一勝をありがとう、ワン太」
「見直しましたよ、ワン太」
「バウバウバウ!」
私はワン太の頭を撫でて上げた。
これで一勝。
リジー王子と私が勝てば、勝てるわねっ!
「ところでワン太、元に戻りなさい」
「戻んなさい」
「バウーーン……」
ワン太がくるりととんぼをきると、ぼわんと煙がでて、いつもの可愛いワン太にもどった。
良かったわ、このままマッチョのままかと思ったわ。
「よーしよしよし、よくやったわワン太」
「えらいえらいっ」
「わんわんっ!」
アデラと一緒に元に戻ったワン太を思う存分なでくりまわしたわ。
はぁどすこいどすこい。




