第二十八話 激突! マミアーナ対ゴゴンテス
「ひがああしい、マミァァナア、マミァァナア、にしぃぃ、ゴゴンテェェス、ゴゴンテェェス」
アデラが土俵上で白扇を開き独特の節回しで力士を呼び出すわ。
頑張ってねマミアーナさん。
対するゴゴンテス関は、まあ、大きいわね。
業火トロールのアイキオ関ぐらいありそうね。
針金を束ねたような筋肉が威圧的ね。
「くっくっく、お前のような素人は一ひねりミノ」
「やってみろっ、デカぶつっ!!」
土俵に上がった両力士が顔を見あわせて舌戦だわね。
しかし、列車のカタタンという走行音に包まれて、真っ青に晴れ上がった空と渓谷を見ながらのお相撲はとても素敵ね。
旅情があるわ。
『見あって見あって』
両者の息がだんだんと合ってくる。
とん、と両力士の拳が土俵を叩いた。
まったく同時に二人は立ち上がり、ドカーンと音を立てて激突した。
ゴゴンテス関のぶちかましは腰が乗って凄い速度だわ。
突進相撲型ね。
でも、かなしいかな身長三メートル近くのゴゴンテス関と、一メートル五十も無いマミアーナさんとでは身長が違いすぎて、ぶちかましの効果範囲の額や胸とは激突しなかった。
マミアーナさんはゴゴンテス関の懐に潜り込むようにして彼の胸に額をぶち当てた。
ドオン!
大砲のような音がしてゴゴンテス関の突進が止まり、マミアーナさんがもろ差しを取った。
そのまま大外刈りのように足を掛けようとしたのだけれど、ゴゴンテス関の体幹が揺れていないので、筋力で跳ね返されたわ。
ゴゴンテス関の筋力はパナイわね。
「くっ!」
「思ったよりも力が強いミノ、だがっ」
ゴゴンテス関がマミアーナさんの背中越しに両手でがっしり廻しを取った。
そのまま筋肉が膨れ上がるぐらいの力を込めて上に引く。
いけない、持ち上げられる!
と、思ったのだけれども、マミアーナさんは廻しをがっちり掴んでそれに耐える。
凄いわドワーフ族、ミノタウロス族の金剛力と拮抗してるわ。
小柄だけど筋力がめちゃくちゃ強いのね。
「ゴゴンテス、やっちゃえやっちゃえー!」
「がんばれーっ!」
相手側から黄色い声援が上がる。
主にウタさんだけど。
もろ差しのまま、マミアーナさんは体をひねってゴゴンテス関の体幹を崩そうとする。
ゴゴンテス関は真っ赤な顔でマミアーナさんをつり上げようとする。
力相撲の展開になったわ。
「マミアーナさん、押して、土俵から出せば勝ちよ!」
「がんばれーっ!」
「バウバウバウ!」
はっと、気がついたようで、マミアーナさんはゴゴンテス関の巨体を押す、押す、押す。
ドワーフ相撲には土俵が無くて、相手を地面に倒したら勝ちですものね。
ゴゴンテス関は廻しの持ち手をずらして両上手から外四つの体勢になったわ。
そして彼も押す!
押し相撲!
体勢としてはもろ差しで重心の低い部分を押していくマミアーナさんが有利だ。
これは、やったか?
「ち、小さいのに凄い力ミノ、侮っていたミノ、だがっ!」
「う、ぐううっ!!」
見よ、ゴゴンテス関の背後に噴火のイメージが浮かぶ!
相撲魂。
溶岩のようにドロドロした赤い流れが円を描き回転を始めた。
「デターー! ゴゴンテス大噴火!!」
「がんばってー、ゴゴ!」
彼の愛称はゴゴっていうのね。
意外に可愛いわ。
相撲魂のバフが掛かり、力、動きの切れが進化したように高まった。
「つ、強いね、ゴゴンテス関は」
「そうですわね」
マミアーナさんが押されていく。
いけない、ゴゴンテス関が斜めに押し始めた。
そちらは黒土俵の尻尾がある方向だ。
最後の踏ん張りの時に黒土俵のデバフまで掛かってしまうわ。
「んもーーっ!! 諦めるミノー!!」
「あきらめるもんかーっ!!」
さすがに相撲魂のバフは無情だ。
マミアーナさんがぐいぐい押されていく。
「私は大陸一の相撲取りになるっ!!」
マミアーナさんが吠え声を上げて押す、押されながらも諦めないで押す。
押す……。
じわっと、押される速度が落ちている。
「ぐわー、まさか、まさかミノーっ!!」
「うわああっ!!」
マミアーナさんの背後にハンマーとツルハシのイメージが現れた。
相撲魂!
無数のハンマーとツルハシが花開くように展開して回り始めた。
ゴゴンテス関の押しをマミアーナさんが止めた。
ぎりぎり黒土俵には足が掛かっていない。
そして、押し始める。
ゴゴンテス関の後ろには溶岩の輪。
マミアーナさんの後ろには工具の華。
お互いの相撲魂は負けじ魂を表すように高速で回転していく。
「やるなあっ! マミアーナしゃん!!」
「あなたもね、ゴゴンテス!」
両者は土俵中央で一歩も譲らない押し合いだ。
「ゴゴンテス、手を抜くな、そいつは立派な相撲取りだ」
一声、魔王がゴゴンテス関に呼びかけた。
はっと彼は目を開き、外四つの手を放した。
好機とばかりにマミアーナさんは全力で押す。
「ごめんミノ。暗黒そっ首落とし!!!」
ドカン!!
マミアーナさんの首筋にゴゴンテス関の二の腕が振り下ろされた。
「ぐはっ!」
それでもマミアーナさんは押そうとしたが、ゴゴンテス関は体を開き、マミアーナさんを転がした。
『勝者ゴゴンテス』
グレイ審判が西に手を上げた。
ブラインド効果で視界を塞がれて体を開かれては対処のしようが無いわ。
地味に恐ろしい技ね、暗黒そっ首落とし。
マミアーナさんは土俵上に座り込み呆然としていた。
「付与魔法を掛けないと勝てなかったミノ、マミアーナさんは強いミノね」
「あ、ありがとうございました」
マミアーナさんは顔をくしゃくしゃにして涙を流し、でも立ち上がった。
いや、良かったわ。
その悔しさを忘れず稽古に励めば、きっと凄い力士になれるわよ、マミアーナさん。
力のこもった一番に、敵も味方も拍手で答えた。
ああ、相撲って良いわね。




