第三話 団体戦ルールと特殊土俵と作戦会議
魔物が土俵を呼ぶなんて!
そんな、神聖なる相撲が……。
だが、そんな思いもすぐ消えた。
相撲が神聖であり神事であるのは確かだが、それとは別に荒魂を誇示するのも相撲なのだ。
日本神道の神は聖なる神ばかりではない、スサノオを筆頭に荒ぶる神は沢山居る。
よこしまでも、邪悪でも、強い益荒男である、という時点で彼らは正しく相撲取りなのだ。
面白い。
面白いではないか。
私は自分の頬がゆるんでいるのを感じた。
「その勝負、乗りましょう」
私がそういうと、業火トロールと毒カエル男は、ぎゅっと笑った。
二人とも凶悪な人相なのに、笑うとちょっと可愛くなるわね。
「なんの抗議もしねえで、黒土俵を受け入れる度量。さすがはアリアカの横綱だけはあるぜ」
「まったくですなっ。ゲロゲロ。フローチェ関、今回のルールは団体戦だ、こっちは、アイキオの兄貴と、おいらギブンが出る。お前達は」
私はリジー王子の顔を見た。
彼は微笑んでうなずいた。
「良いでしょう、私、フローチェ・ホッベマーと、アリアカ国皇太子のリジー王子が参戦いたします。よろしくて?」
「いやもおうもねえ。大手柄のチャンスだぜ」
「どちらかが全勝すれば決着は付きますが、一勝一敗の時はどうなりまして?」
「そんときはそれぞれが自由に力士を出し合って決定戦だ」
なるほど。
国体などである、相撲の団体戦だわ。
私としては一人で二人を相手しても良いのだけれど、ルールではしかたがないわね。
「ちょっと待って下さいっ! 相撲に勝ったらここを通してくれるという保証は!」
アデラが鋭い口調で突っ込みを入れてきた。
「そいつは、なあ、メイドさん、俺たちを信じてもらうしか、なあ」
「そうでゲロ。俺らは悪い事なんざ平気のへいざの魔物だが、こと相撲の事では約束をやぶらないゲロ」
「ほんとうに~~~?」
「暗黒相撲関係でよ、約束を違えると力士失格になってバフがもらえなくなるんだよ」
「いまや魔界も空前の相撲ブームだゲロ。相撲をしてない魔物は女にもてねえし、尊敬もされないゲロよ」
暗黒相撲でも相撲バフは掛かるのか。
これは心して戦わないとならないだろう。
私は黒土俵に近づいた。
ふむ、色が黒いだけで、ちゃんとした荒木田土っぽいわね。
土に触ると、私の相撲力が吸われる感じがした。
「けっけっけ、聖なる相撲力を吸い上げ、暗黒相撲力を与えるんだ。どうだい、黒土俵は」
「不公平ですよっ!! フェアじゃありませんっ!!」
「かといってもなあ、メイドさん、ちゃんとしたアリアカの土俵だと、今度は聖相撲力にバフが掛かり、暗黒相撲力が吸われるんだ、どっちかにしねえとさ」
私は手をかざした。
『土俵召喚』
いつもの土俵が現れる感じがした。
そして、聖土俵は黒土俵と混ざり合い、土俵は綺麗に二つに分かれ、太極図のような姿に変わる。
「おおおっ! なんてこった、聖邪を合わせて使うとこんな風になるのかっ!」
「んー、良いでゲロねっ! 相手の陣地に引き込んだり、体をかわして自陣に押し込んだり、ゲーム性ができるでゲロ!」
「さすがはフローチェ関だ! やるなあ」
「これならフェアだわ」
「いいねいいねえ、さあ、相撲をやろうぜっ、アリアカの横綱とやれるなんざ、夢のようだぜっ」
「アイキオの兄貴は本当に相撲が好きでゲロなあ」
アイキオは黒土俵側に上がり、どんどんと四股を踏んだ。
ふむ、彼もなかなかの仕上がりね。
魔界相撲との初一番、楽しみだわ。
おっと、相撲の準備をしていたら、エルフ兵が集まってきた。
「アイキオ隊長!! アリアカの皇太子と皇太子妃候補を捕まえましたなっ!! では、こちらに引き渡していただきたいっ!」
「ふざけんな」
「な、なんですとっ!!」
「これから、俺はこの二人と相撲を取る、俺が勝てばこの二人は拘束できる。俺が負けたら街門の通過を許可するんだ」
「なんですとっ! そんな馬鹿なお遊びをやっている場合ですかっ!! エルフ革命ははじまっているのですぞっ!!」
「うるせえっ!! 黙って見てろ、手をだしたら消し炭にしてやるからなっ!!」
アイキオが手を振ると火炎が轟と吹き出し、エルフ部隊隊長の足下を焼いた。
火炎放射もできるのか!
これは、なかなかの難敵!
「さあ、誰が先鋒か決めろっ! こっちは、俺、アイキオが先鋒、大将はギブンだ!」
「そうね……」
団体戦、アイキオを私が倒して、リジー王子がギブンを倒せば全勝だわ。
カエル男は体格が小さいから、リジー王子の敵ではないでしょう。
「お嬢様、作戦会議をしましょう」
「え、でも、アデラ……」
「作戦会議をしましょうっ!」
「はい」
なんだか、アデ吉の癖に凄い圧だわ。
私とリジー王子は、馬車の影でアデラの話を聞くことにした。
「まずは、先鋒はリジー王子です」
「僕がか……、勝てるかな?」
「あのアイキオにリジー王子では不利よ。勝ちを拾うなら、ギブンと戦うべきじゃないかしら?」
アデラは人差し指を出し、ちちちと言いながら横にふった。
「リジー王子は、勝てるなら勝ってください、ですが、やけどをしそうになったり、怪我をしそうなら土俵を割ってください」
「アデラ、君は僕に負けろというのかい?」
「はい、これは団体戦です、チームが最後に勝てば勝利なんですよ」
確かに言う事は解るが。
「リジー王子がカエル男と戦ってはいけないのは、奴には毒があるからです。今、我々には毒消しの魔法が出来る者が居ませんし、毒消しのポーションもありません」
「「あっ」」
失念していた、そうか、相撲の後に毒で倒れたら本末転倒なんだわ。
「お嬢様には長距離技の張り手カタパルトとトルネード掬い投げがあります。リジー王子もどちらも使えますが、一発の威力だとお嬢さまに軍配があがります」
「なるほど、凄いわアデラ」
「リジー王子が一敗しても、勝者決定戦でお嬢様が業火トロールを下せば問題はありません」
「すごいね、アデラ。なんでそんなに軍事知識に詳しいんだい?」
「そ、それは秘密です」
アデラは慌てながら唇に人差し指を当てた。
「とりあえず、相撲には勝たねばなりません。それも無傷で。故障したり、毒をくらったりした瞬間、我々の逃避行は終わります。怪我はしないでください」
「わかったわ、アデラ、ありがとう」
「よし、それで行こうよ、フローチェ」
「はい、リジー王子」
ああ、キリリと凜々しいリジー王子も素敵。
はぁどすこいどすこい。