第二十二話 マミアーナさんにドワーフ大玄洞を案内してもらう
「もうしわけありませんでしたっ、フローチェ親方!」
マミアーナさんが土下座をして謝っているわ。
「その技の切れ、神域に達している達人の親方に大口を叩きました。お許し下さい」
「あら、いいのよ。取り組みをしてみないと相手の実力は解らないですからね」
マミアーナさんは額を地面にこすりつけて泣いた。
「私は井戸の底のカエルでありましたっ! ああ自分が恥ずかしいっ」
私はマミアーナさんを抱きしめて立たせた。
「そんな事は無いわ、あなたは凄い相撲取りよ」
「ありがとうございますっ」
彼女の涙が肩にあたって熱いわ。
「この騒動が済んだら、アリアカにいらっしゃい、あなたに大相撲を教えるわ」
「本当ですかっ!! ありがとうございますっ」
「だから泣いちゃだめよ」
「はいっ!」
私はマミアーナさんの頭をよしよしと撫でた。
ドワーフのお嬢さんはだいたい小学生ぐらいの背丈なのよね。
で、体はがっちりしているわ。
良いお相撲さんになれそうね。
「フローチェさま、妹をわからせて頂いてありがとうございます」
「あら、そんな」
ヴァルナルさんが頭を下げてきた。
まあ、それでは生意気なドワーフ娘を私が相撲でわからせたみたいではありませんか。
いやだわ、おほほ。
「マミアーナさんは逸材だね」
「そうね、今回の旅は外交の成果は無かったけど、お相撲取りの原石を何人か見つけたわ。アリアカの大相撲で一緒に汗を流す日が楽しみね」
エルフからはゲスマンさん、ドワーフからはマミアーナさんね。
魔王軍からは、ククリさんがきっと帰ってくるでしょう。
相撲で繋がる世界平和というのも美しいわね。
ヴァルナルさんとマミアーナさんの兄妹にドワーフ大玄洞を案内してもらうことにしたわ。
削岩坑道に何万人ものドワーフが住むのでいろいろと地上と違う工夫があって面白いわね。
大玄洞の中は気温があまり変動しないので、夏は涼しくて冬は暖かいみたいね。
沢山のドワーフさんが思い思いの金属製品を作っている大きな工場とか、ドワーフの学校窟とか、大玄洞の上下水道のシステムとかを案内してもらったわ。
もともとここにはミスリルの大鉱床があって、掘り進んでいくうちに村窟から街窟へ、大陸有数の大玄洞へと大きくなっていったみたいね。
すごく見応えがあったのだけれど、唯一の欠点は道がグネグネしたトンネルで、あがったり下がったりの立体的に繋がっているので、どこに居るか解らなくなる所ね。
ドワーフ大玄洞の中央商店街でウインドウショッピングをしてみたり、喫茶店で洞窟茶を飲んでみたりしたわ。
中央商店街はとても人出が多くて、ドワーフだけではなくて、人間や、エルフもいるわね。
ここで商品を買って、自分たちの街で小売りする商人さんが多いみたいね。
洞窟茶は苔を煎じた飲み物で意外に香ばしくて美味しいわ。
堅くて甘いクッキーと共に頂くのね。
喫茶窟の窓際で、街を行き交う人を見ながらのお茶はとてもほっとするわ。
知らない街を観光するのは良いわね。
愛するリジー王子と一緒にだと格別よ。
心がほっこりするわね。
アリマ関はあと一場所あると言っていたけど、どうするのかしら。
魔導列車に乗ったら、もう手出しは出来ないと思うのだけど。
「大丈夫だよ、フローチェ、何があっても僕が付いている」
私の思案顔で心配させてしまったようね。
いけないわ。
「ありがとうございます、王子、嬉しゅうございますわ」
「前から決めていたんだ、親善訪問の旅が終わったらプロポーズをしようって。アリアカ国境をまたいだら、僕から君へプロポーズするつもりだよ」
「まあっ、あ、ありがとうございますわっ」
はああっ、どすこいどすこい。
頬が熱いわ。
もう、リジー王子ったらいきなりなんだから。
どすこいどすこい。
二年の間、待つのは長かったわ。
でも、これで良かったのかもしれないわね。
クーデター騒ぎで逃避行したお陰で、リジー王子との距離が近づいた気がするわ。
婚約をする。
それは幸せのステップをまた一歩上がった事で。
胸の中が幸せで一杯になったわ。
「♪ハァーエー、花を集めて甚句にとけばヨー♪ ハァー、正月寿ぐ福寿草♪」
いけないいけない、私ったら嬉しくて、また甚句が出てしまったわ。
「懐かしいね、初めて会った時に、僕に歌ってくれた歌だね」
「ああ、そうでしたわね」
「あの日から、二人で遠くまで来たね、フローチェ。これからも一緒にずっと人生の旅をしよう」
ああ、感極まって泣いてしまいそう。
最愛のリジー王子と幸せになれるなんて。
夢のようだわ。
リジー王子はふんわりと笑って私を見た。
目の奥に赤くなった私が映っているわ。
私の目にも彼の姿が映っているわね、きっと。
隣の席のヴァルナルさんとマミアーナさんが砂糖を吐きそうな顔をしているけど、かまわない。
私たちは、とってもあつあつの相撲取りなのだから。
はぁどすこいどすこい。




