第二十一話 ドワーフ相撲の力士マミアーナ
「今日は大玄洞に泊まれ、明日には魔導列車を稼働させてアリアカ国境まで送っていってやるよ」
「魔導列車は完成してるんですかっ!?」
「おうとも、お前さんの兄貴が失脚してアリアカの方の動きは止まったがよ、技術者は限界まで予算を食い潰して頑張るもんだ。そのお陰で実験線が完成してるぜ。アリアカ国境までだけどな」
「それは凄い!」
「そろそろアリアカまで走らせて、アルヴィ王をびっくりさせたあと、王都までの敷設予算をふっかけるつもりだったが、皇太子の帰還を手伝った方が聞こえはいいだろうぜ」
「は、はあ」
意外にちゃっかりしてるわね、ヨルド大玄洞長は。
でも、アリアカ東部に魔導列車が走ると良いわね。
ドワーフ大玄洞を中心にエルフの森共和国とか、観光に商売に、需要は高いわ。
経済効果も凄そうね。
しかし、光と闇の輪舞曲の舞台は中世ファンタジーかと思ってたけど、意外に近代ね。
ドワーフメイドさんに今夜の宿に案内してもらう。
宮殿窟の貴賓室みたいね。
広くて素晴らしいお部屋だわ。
地下なので窓はないのだけれど。
彫刻や調度がすごい水準だわ。
「さすがはドワーフ大玄洞の貴賓室ですねえ。こんな高価な物が沢山置いてある部屋は一生お掃除したくないです」
「アデ吉は粗忽ですからね」
「ワンワンッ!」
アデ吉が膨れるのと同時にワン太が吠えた。
この子も大人しくて助かるわ。
国宝の陳列室みたいな貴賓室で大暴れされたらどうしようかと思っていたわ。
ワン太が良い子なので背中を撫でる。
モフモフモフモフ。
温泉に入ってとても綺麗になって手触りもビロードみたいになったわね。
「アデラは連日の御者で疲れたでしょう、食事までお部屋で休んでいなさい」
「はい、そうさせていただきます。お嬢様は?」
「そうね、せっかくだから大玄洞の中を少し見て歩くわ」
「僕も一緒に行こう」
「あら、素敵ですわ、リジー王子」
「道中、ドタバタしていたからね、フローチェ」
「ワンワン!」
「はい、ワン太はこちらですよ、お嬢様と王子さまは滅多にお二人になれないのでお邪魔してはなりません」
「クーン」
ナイスだわ、アデ吉。
彼女はワン太を胸に抱いて部屋を出て行った。
ちなみに、この貴賓室にはメイドさんの控え室が隣にある。
リジー王子とデートなんて久しぶりね。
外交の旅行なんてスケジュールがぴっちり詰まっていて、のんびり一緒に出かける事も無いのよ。
二人で腕を組んで宮殿窟の玄関を出たわ。
「リジー皇太子殿下、どちらにいかれますか」
「少し時間が空いたので大玄洞をフローチェと見て回ろうと思ってね」
「左様ですか、では、こちらの物を警護につけますので、よろしくお願いします」
「よろしくおねがいします」
宮殿窟の門番さんが、警備のドワーフさんを付けてくれたわ。
ビジュアルが一緒だから、お髭の色でしか解らないけど、付けられたのは金髪さんね。
「あなたはお名前は?」
「はっ、ヴァルナルと申します、フローチェさまっ」
金髪のヴァルナルさんね。
彼は武道の経験があるのか、重心が低いわね。
「ヴァルナルさんは何か武道をやってらっしゃるわね」
「はっ、その、ドワーフ相撲を少々……」
「「ドワーフ相撲!!」」
あら、リジー王子とハモってしまったわ。
ドワーフ大玄洞にもお相撲が来ているのかしら。
「いえ、アリアカの大相撲とは違って、みすぼらしい田舎格闘技ですよ」
「でも、興味がありますわ。道場とかありますの?」
「あります、今、ちょうど稽古の時間ですね、見てみますか?」
「「是非!」」
あら、また王子とハモってしまったわ。
私たちは目を合わせて笑った。
複雑に絡み合う洞窟道を抜けたホールでドワーフ相撲の稽古場があった。
小さいががっしりした男女のドワーフが組み合って投げ合っている。
ちょっと短めの上着を着て下半身は短パンかパンツだわ。
土俵は無いから、柔道とかの組打ち格闘技なのね。
ドワーフさんたちは小さいけど筋肉隆々だし重心も低いしで見ていて力強いわね。
掛け技、投げ技、やはり人間状の組打ち格闘技は技が似るわね。
「兄ちゃんっ、誰だそいつらは、ここは神聖な稽古場だぞっ」
「馬鹿、マミアーナ、失礼だぞ、こちらはアリアカ王国の皇太子さまと、皇太子妃候補さまだ、頭が高いっ!」
マミアーナと呼ばれたドワーフ族の少女は気後れ無く私をじろじろと見つめた。
「ああ、あんたがアリアカの偽相撲の横綱とか言ってるやつか」
「こ、こらっ、マミアーナ!」
「うるさいよ兄ちゃん、私は嘘つきが嫌いなんだっ、世界中の組打ち格闘技、そして全ての相撲はドワーフ相撲が元祖なんだっ!! 証拠はそこの壁画だ!」
マミアーナさんが指さす壁には今にも消えかけそうなドワーフ相撲の絵が描いてあった。
「あんたのようなガリガリがチャンピオンを取れる相撲が本物のわけが無いよっ!」
「あらあら、そうなのかしら、そういうとき、本当の相撲取りならどうすべきかしらね」
「わ、わたしとやろうっていうの、おもしろいじゃない、相撲で勝負よ!!」
「ええ、望む所だわ」
「だれか衣装を貸してやりなさいよ」
マミアーナさんが女性力士たちにそういうけど、さすがにドワーフの寸法の相撲衣装では色々とはしたないわ。
私はお洒落チェンジコーナーに入って廻しをセットして出てきた。
「な、なんで消えた? で、なんだそのベルトは?」
「これは廻しよ、アリアカ式大相撲の正当なスタイルなのよ」
「そ、そっちの正当な衣装? そんなびらびらしたドレスでか?」
「そうよ、相撲は魂でやるものだからね」
「口だけはいっぱしだな、こいっ!」
恐縮するヴァルナルさんを審判にして、わたしとマミアーナさんは組み合った。
立ち会いなどは無く、最初から組み合った姿勢からはじめるようだ。
「頭、肩、背中が地面に付いたら負けだ」
「わかったわ」
「で、では、はじめっ!」
ヴァルナルさんの合図で、大相撲対ドワーフ相撲の対決が始まった。
で、私は首投げでマミアーナさんを転がした。
一瞬で勝負が付き、ドワーフ相撲の力士達が歓声を上げた。
「な、な、なんで?」
「今のは首投げよ」
「く、くそう、もう一番!」
「何番でもどうぞ」
私はマミアーナさんをころころ転がした。
とても力が強くて、技も良い物を持ってるけれど、経験が足りないわね。
相手への重心の崩しが甘いし、技の出も見え見えだわ。
あら、リジー王子と大玄洞デートのはずなのに、どうして私はお相撲を取っているのかしら。
私はマミアーナさんを転がしながら苦笑した。
いつもそうね。
仕方が無いわ、私は一塊の相撲取りなのだから。




