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幕間:エルフ共和国宮殿樹、謁見室とバルコニーにて

 天に届かんばかりの世界一の大樹、世界樹。

 その根元に壮麗な宮殿樹があります。

 妖精王が住まう世界樹大宮殿樹です。

 世界樹ほどでは無いですが、この街以外では見られない巨大な宮殿樹で、風格のある巨木をくりぬいた建物です。


「まだ妖精王は見つからないのかっ!」

「はあ、地下牢獄をくまなく探しましたが、どうやってあの厳重な牢を破ったのか、そしてどこに逃げたのか、まったくの不明です」


 今の大宮殿樹の主は、宰相ミキャエルです。

 本来の主人である妖精王はどこかに逃げていったみたいですね。


「くそうっ! 妖精王を逃がしたら我々の革命は頓挫するぞ、わかっているのかっ!」

「ははっ! 全軍を上げて捜索しておりますっ」


 ミキャエル宰相に怒られているのは、エルフ革命軍を指揮するダイナゴン将軍です。


 元々エルフという種族は、魔法使いと農民が尊敬される民族で、行政をしたり、軍隊に入ったりするのは二流三流のエルフと言われています。

 森の奥で隠者のような生活をするのが一番偉いという、なんとも後ろ向きな民族なんですね。


 ミキャエル宰相率いるエルフの森共和国政治部と軍部が組んでクーデターを起こしたのも、エルフという美しい民族に潜む差別意識があったのかもしれません。


「私が指導する栄光あるエルフ革命も、妖精王とアリアカの皇太子夫婦を捕らえねば始まらないのだっ!」

「はっ!」


 宮殿のバルコニーにばさばさとグリフォンが降りてきました。

 グリフォンというのは鷲の頭にライオンの体、大きな羽を持つ魔獣です。

 魔王軍はグリフォンを飼い慣らして空中を行く移動手段としています。


「あーもー、温泉行けば良かったじゃないっ、大関のケチッ!!」


 アラウネのウタ関がよろよろとバルコニーに下りました。

 植物魔物の彼女は、少し歩くのが苦手なのです。


「敵と……、なれ合っては……、いかん……」


 アリマ関はグリフォンから下りながら重々しく言います。


「もー、堅いわねーっ!! ああ、でもフローチェ横綱もリジー王子さまも素敵だったわー、私もククリみたいにアリアカに行きたいーっ!」

「そうね、良い所よ、アリアカの王都は」

「ずるいずるいっ、私も潜入したかったーっ!!」

「ウタは人化できないから、すぐばれるわよ」

「いいなあいいなあっ、ククリはいいなあ、アリアカに良い人できたんでしょ?」

「そ、そんな人はいません。し、仕事で行ってるんだし」

「またまたあ、嘘ばっかり~~、あー、でもアリアカで本場のお相撲を見たい~~。あっちのお相撲は付与魔法禁止なんでしょ」

「そうね、本来のプレーンなお相撲を競い合っているわね」


 ミキャエル宰相がカンカンに怒ってバルコニーの窓戸を開けました。


「なんだっ!! アリアカの皇太子夫婦の身柄はどうしたのだっ!! アリマッ!!」

「逃がした……」

「何だとっ! こんなに邪悪な魔物が3匹も揃って、また逃がしたと言うのかっ!! どういうつもりなのだっ!!」

「なにこいつ……」


 ウタ関が眉をひそめてミキャエル宰相を睨みます。


「なんだっ、その目はっ!! 私は全ての人族の長であるエルフの指導者だぞっ!! 千年の寿命を持ち、知性も全種族一だっ!! お前達魔物なぞとは存在の格が違うっ!!」


 ギリギリとウタ関の中で殺気が膨れ上がりますが、ミキャエル宰相は武道の心得がぜんぜんありませんので感知も出来ていません。

 ウタ関の肩をククリがやさしくポンと叩きました。


「ミキャエル宰相、我々は街道村ハフトンにてリジー皇太子とフローチェ皇太子妃候補と接敵、交戦に入りましたが、こちらの損害が大きく、惜しくも逃しました」

「一勝二敗だったわネ」

「そ、そんな凄い英雄だったのか、あいつらはっ!」

「人類……、最強の……、一人だ……」

「横綱位ってそうよネ」


 ミキャエル宰相は美しい銀髪をかきむしります。


「くそうっ!! どうしたら良いのだっ!! これでは奴らにドワーフ大玄洞に逃げられてしまうぞっ!! どう責任をとるつもりなのだ、貴様ら魔王軍はっ!!」


 その時、ひときわ大きなグリフォンがバルコニーに下りてきました。


「ははは、お困りのようだね、新妖精王」

「な、わ、私は革命の指導者で、そ、そのような立場では……、ま、魔王?」

「ああ、親愛なるミキャエル宰相が困ってるって聞いてね、いてもたってもいられなくなって来て見たんだ、これからは万事、おいらに任しておいてくんなっ」


 禍々しい美しさの魔王が巨大なグリフォンから下りてきました。


「これは、魔王さま……」


 魔王軍の三人の魔物はバルコニーに膝を付きます。


「おいらの愛しいフローチェ嬢はドワーフ大玄洞の方に行ったのかい、アリマ」

「はっ……、明日にも……、大玄洞へ……」

「そうかいそうかい、ククリ、技術部にアレを使うから輸送するように連絡してくんナ」

「あれ……、ですか? 完成したのですか?」

「おうともさ、これで追いかけられるってもんさ」


 そして、美しい魔王はミキャエル宰相に向き直りました。


「だからさ、安心してくんな、フローチェ嬢はおいらが責任をもってとっつかまえる。ミキャエル宰相は妖精王の方を頼むぜ」

「そ、そうですか、魔王さま、あなた直々にそう言われるのでしたら」


 魔王はミキャエル宰相の肩を親しげにぽんぽんと叩きました。


「まだ、革命軍は国の掌握を終わらせたとはいえねえしさ、あなたはそっちを急いでくんな。他の事はおいらたちに任せてくんなよ、なっ」

「わ、わかりました、おねがいしますぞ」


 ミキャエル宰相はバルコニーを出て、ダイナゴン将軍と共に奥に去っていきます。


「魔王さま口うまーい」

「けけけっ、おいらは魔王だぜっ、馬鹿を騙すのは得意ってもんさ」


 魔王は笑って、ウタの頭をなでました。


「さて、フローチェ横綱がアリアカに入るまで、あと一場所って所か」

「はい……」

「あと一人力士を入れろ、五対五の団体戦をしかけるぜ」

「え……、いや……、向こうの力士は……、二人……」

「いーんだよっ、まったくアリマは義理堅いよなあ、向こうが選手を出せなきゃ不戦勝をぺろっと貰っちまえばいいんだよっ」

「いや……、ですが……」

「メンバーを揃えられないのも、あいつらの不備さ。気にすんない」


 そう言って魔王はニヤリと笑いました。


「ひさびさの相撲だぜ、燃えるなあっ。見せてやるぜフローチェ、暗黒相撲横綱、魔王の実力って奴をようっ」


 魔王の笑い声がバルコニーに響きわたりました。

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[一言] ヤロミーラ編とは別魔王かな?
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