第十九話 温泉でうっふん♡ 憩いの一時
ハフトン村のビビ村長自ら温泉まで案内して下さったわ。
「村人が使う温泉だで、そんな綺麗な設備は無いのですまんのう」
「いえ、その、村長……、こ、混浴ですか?」
まあ、リジー王子ったら嫌だわ。
はぁどすこいどすこい。
「はっはっは、さすがに混浴は風紀に悪いのでのう、男湯と女湯に別れていますじゃ」
「ちえ、がっかりですぜ」
なぜか付いてきているゲスマン氏が吐き捨てるように言った。
「ゲスなエルフって、好感度が下がりますよね、お嬢様」
「まったくだわね、アデラ」
ゲスマン氏は、いっけねえという感じに頭をかいた。
「ワンワンワン!」
ほら、ワン太もけしからんと言っているわね。
たぶん。
森の奥にひなびた建屋が見えてきた。
「あそこですじゃ」
「まあ、雰囲気のある建物ね」
「そう言ってくれると嬉しいですのう、建物は古いが泉質は最高ですじゃよ」
からりとドアを開けると温泉らしい良い匂いが漂ってくるわね。
たしかに男湯と女湯が別れているわ。
でも、のれんに「MAN」と「WOMAN」と書いてあるのはジャパナイズしすぎではないかしらね。
ここは乙女ゲーム世界だから仕方が無いかしら。
リジー王子と別れて、女湯側に入る。
ちゃんと脱衣ロッカーが据えられているわね。
アデラが服を脱がせてくれる。
前世では思いもしなかったけれど、侯爵令嬢としては普通なのよね。
コルセットや、背中の合わせはチャックではなくて、組紐だから仕方が無いのよ。
裸になって姿見に体を写すと、脂肪一つ付いていない引き締まった体ね。
筋肉も付いていないわ。
もっと太りたいし、筋肉も付けたいのだけれど、学生時代からまったく変化がないわね。
「ざんねんだわ」
「お嬢様は太れないし、筋肉も付かない体質なのですから、無駄な抵抗はおやめくださいましね」
「なんとか太りたいわ」
「おやめくださいまし」
「ワンワンワン」
「ほら、ワン太もそう言ってますよ」
まったく、乙女ゲームの呪いだわね。
光と闇の輪舞曲がプロレスシミュレーションだったら良かったのに。
しかたがないのでワン太を胸に抱いて浴室に向かうわ。
アデラも素っ裸になって温泉に入る気まんまんね。
「ワンワワワン」
ワン太も嬉しそうね。
木の桶を取ってかけ湯をしてお風呂に入る。
浴槽も木枠で肌触りが良いわね。
湯の色は透明でほんのり硫黄臭がするわ。
泉質はそんなには強く無いわね。
肩までつかると、ほおっと声がでてしまうわね。
ワン太もお風呂が好きなのか大人しく私に抱かれてお湯に浸かっている。
アデラもするりとお湯の中に入ってきた。
「良いお湯ね」
「そうですね、生きかえります」
天井が吹き抜けになっていて、外の森の音と光が入ってきて気持ちが良いわね。
とても良い温泉だわ。
「素敵な場所ね、クーデター騒ぎが収まったら、また来ましょうね」
「そうですね、お野菜のお料理も美味しかったし」
「でも、晩ご飯はお肉が欲しいわね」
「ワンワワワンッ」
「あら、ワン太が取ってきてくれるの」
「ワワワン」
「人の言葉が解るんでしょうかね、この子」
「何かそうみたいね」
ワン太はそれを聞くとそっぽを向いて温泉お湯をかいて泳いで行った。
「フェンリルなのでしょうからねえ」
「親とはぐれてしまったのかしらね。なんとか会わせてあげたいわね」
「そうしたいのはやまやまですが、これから向かうドワーフ大玄洞の方には親はいないでしょうね」
「ワン太はここで放した方が良いのかしら」
「ワンワン」
ワン太がそんな事は無い、と言いたげに吠えながら水面を泳いできた。
もう、可愛いわね。
なでなで。
お湯にぬれるとモフモフはしないけれども体温が高いから心地良いわね。
「とりあえず、アリアカまで一緒に行きましょうか、私たちはマウリリオ将軍を迎えに、またエルフの森共和国には来ないといけないから、ワン太の親探しはその時ね」
「それがよろしいかと思います」
私はワン太を抱えたまま、浴槽を出た。
木の椅子に腰掛けるとアデラが体を洗ってくれる。
エルフの石鹸は良い匂いだけれども、あまり泡が出ないわね。
「何かの木の実でしょうかね、泡は立ちにくいですが、良い匂いでよく落ちる気がしますね」
「ここらへんも、何日か逗留して古いエルフの生活を味わってみたいわね」
「そうですね、世界樹の街は無理をして近代化しているようで、エルフらしさが足りない気がしますね」
私の体と髪を洗った後、アデラはワン太も洗った。
シュンとしていたけど、ワン太は大人しくされるままにしていた。
お利口さんね。
脱衣所でアデラに体を拭いてもらう。
アデラのポケットからはバスタオルも出てくるわね。
リジー王子はお付きの執事がいないから不便をしてないかしら。
新しい下着に着替え、ドレスも新しくするとさっぱりしたわ。
温泉は良いわね。
私たちが温泉施設から出ると、外でリジー王子がゲスマン氏に相撲を教えていた。
「おまたせしましたわ」
「わあ、お風呂上がりのフローチェは綺麗だね」
「まあ、嫌ですわリジー王子ったら」
「ワンワン!」
「ワン太も同感だってさ。ね、ワン太」
「ワンワワワン!」
リジー王子がワン太の頭を撫でると、彼はその通りという感じで吠えた。
さあ、少しのんびりして鋭気が養われたわ。
ドワーフ大玄洞に向かいましょう。




