第十八話 エルフの森団体戦決着
強敵との相撲は楽しい。
相手の培ってきた膨大な稽古量、相撲に掛けた思いと努力、その全てが混在となって一気に私に伝わってくる。
相撲という神事が、生のアリマ関の存在を十二分に表現し、そして凄まじい力と素晴らしい技が実在の力として、私に叩きつけられる。
素晴らしい、素晴らしい。
私の実在も、きっとアリマ関に伝わっている事だろう。
それは言葉よりも愛の行為よりも深くて重い繋がりだ。
ああ、何という充実感なのだろうか。
右廻しを絞られて体を崩し下手投げ。
腰を落とし重心を下げて内無双を狙う。
沢山の技の応酬、だが私たちはそのほとんどをすかし、こらえて無効化する。
敵のなんという粘り腰か、なんという体幹の太さか。
歯車と炎のお互いの相撲魂が回転数を上げていく。
燃えさかる炎と共に、火花を散らす歯車と共に、技は神の域に到達し、その鋭さを増していくのだ。
来る。
新しい付与効果技が近づいてくるのを感じる。
アリマ関に姿勢を低くして寄る。
「暗黒そっ首……」
彼がそっ首落としをしようと伸び上がるのを感じた。
次は?
相撲感覚の命じるままに私はアリマ関の両膝を取った。
「落とし!」
ドン! 首筋に腕が落ちてきて視界が真っ暗になる。
だが。
かまわない。
そのまま彼の両膝を抱えるようにして上に持ち上げる。
「超回転居反り!!」
土俵からの爆発的な推進力が私たち二人を宙に飛ばした。
「ぐおうっ!」
アリマ関がうめいた。
そのまま一体になって落ちるかと思いきや、ふわりと浮く。
漆黒の視界の中、白いもやのアリマ関の背中でパタパタと動く物が。
羽。
小さな羽が思った以上の浮遊力で落下を防いでいる。
土俵のまわりに空中境界が立ち上がるのを感じる。
アリマ関は必死に羽を動かし、超回転力に耐える。
「超回転!!」
さらに回転力が追加され、私たちはぐるぐると回りながら土俵の下に落下していく。
ドウーーーン!!
『……、勝者、フローチェ!!』
ふう、危ないところだった。
追加回転しなければ、こちらが下になっていた所だ。
私はアリマ関の上から降りて手を出した。
「すばらしい……」
「あなたもすばらしいわ、すごい稽古量ね」
「もっともっと……、横綱に……、追いつきたい……」
「一緒に相撲道に邁進しましょうね」
「おうとも……」
わあっと、みんなからの拍手が起こった。
敵も味方も関係無く、力を出し合った相撲仲間として一体になって拍手していた。
人も、エルフも、魔族も、ワン太も手を叩いている。
「また、お相撲できるかしら?」
アリマ関は少し考え込んだ。
「国境を……、越えるまで……、あと……、一場所……」
「楽しみね」
「また……、鍛えて……、来る……」
「ええ、ククリさんも、ウタさんも良い相撲取りだったわ」
私の褒め言葉を聞いて、ククリさんとウタさんが微笑んだ。
グレイ審判が土俵上で東側に手を上げた。
『アリアカ軍対魔王軍の団体戦は、二対一でアリアカ軍の勝ち!』
グレイ審判は一礼すると、地面に沈む太極図土俵と共に薄くなって消えていった。
「フローチェ、やったねっ!」
「あ、ありがとうございます、リジー王子」
リジー王子が抱きついて来て、心臓がバクバクいってしまうわ。
はぁどすこいどすこい。
「ワンワンワンワン!」
ワン太も私の足にじゃれついて歩きにくいわ。
エルフ爺さんたちとゲスマンさんがやってきたわ。
「ようやった、ようやった、スモウはすばらしいのう」
「年甲斐も無く血がさわいだわい」
「超回転居反りは大地からの推進力を付加する魔法かの、土属性じゃろうか」
まったく、お爺ちゃんたちは魔法マニアね。
私に言われても解らないわ。
属性無しの運動付与魔法の気がするのだけど。
「フローチェ親方、素晴らしい相撲でしたっ!! 俺もあんな相撲が取れるようにがんばりますっ!!」
「ゲスマンさんも精進しましょうね。あなたなら、すぐ強くなれるわよ」
「はいっ! がんばりますっ!!」
ふう、お相撲を取ると汗をかいてしまうわね。
「ハフトン村にはシャワーの設備とかはありませんか?」
「そういうハイカラな物はありませんな、ちょっと森に入ると温泉が湧いておりますが」
温泉!!
「いいですねっ、お嬢様!! 温泉で一息つけましょうよ」
「そうだね、フローチェ、温泉で汗をながそう」
「そうですね、リジー王子」
「ワンワン!!」
「ワン太も一緒に入る? じゃあ、お借りしますわね、村長」
私はアリマさん達の方へ向き直った。
「村の近くに温泉があるらしいわ、アリマさん達も一緒に入らない?」
アリマさんと、ククリさんとハナさんは顔を見あわせた。
そして苦笑して手を横に振りグリフォンに跨がった。
あら、残念ね。
三人はグリフォンを駆って宙に飛び上がり、世界樹の街の方角へと去っていった。
また、一緒にお相撲をしましょうね。
三人とも。




