第十三話 野外昼食会、そして奴らは来る
「さあさあ、ハフトン村のすべてのエルフの手で作った心づくしのお料理です、お召し上がりください、リジー皇太子殿下、フローチェ皇太子妃候補さま」
ビビ村長が私たちを案内したのは村の広場に設置された宴席だったわ。
長い机に村人総勢二十三人が並ぶ。
「歓迎の席は良いのに、ビビ村長」
「何をおっしゃいますかリジー王子、村に代わってお二人に革命軍を撃退していただいた事、感謝してもしきれる物ではありません、ささやかな田舎料理ですが、どうぞお食べくださいませ」
「ありがとうございます。では遠慮無くいただきます」
「いただきますわ」
「ワンワン!」
イヌにはブドウとか、ニンニク、タマネギを与えてはいけないのよね。
ワン太はどうなのかしら?
解らないから、とりあえずタマネギが入ったお料理は避けましょうね。
「私がやりますよ」
「あら、アデラも食べなさいよ」
「メイドは最後でございますよ」
そう言ってアデラはお料理からワン太が食べれそうなものをより分けてお皿に入れて、地面に置いた。
「ワンワンッ!」
ワン太は喜んで食べている。
さて、私もいただこうかしら。
お料理は基本的に野菜料理ね。
シチューがメインだけど、見た事もないお料理も並んでいるわ。
茄子の香草挟みをお皿に取っていただく。
あら、美味しい。
お茄子の味に厚みがあってとっても美味しい。
「フローチェさまのお口に合えばよろしいのですが、なにせ田舎料理でして」
「素朴だけど、お野菜の味がとっても美味しいわ」
「ありがとうございます。ささ、コケモモのワインはいかがですかな?」
「いただきますわ」
ビビ村長がついでくれたコケモモのワインは、赤くて酸っぱくて、それでいて深みのある味がした。
「チーズもワインも美味しいですね」
「ハフトン村一帯では農業が盛んでしてな。世界樹の街の需要を支えておりますよ」
ハフトン村は都市の衛星農村なのね。
とっても産物の味が良いわ。
「きっと、何万年も同じ生活をしていたのでしょうね」
「ははは、お恥ずかしい、エルフとは変化を嫌う生き物でしてな、人の国の影響がなければ、いつまでも森の奥の村で静かに暮らしている物なのですな」
森の中で自然と調和して生きる。
それが何万年も続くエルフの生活だったはずだ。
だが、大陸全体の民族の交流が始まって、それも破られた感じかしらね。
ビビ村長はしきりに田舎生活田舎生活と卑下するけれども、とても貴重な生活のような気がいたしますよ。
食事会は静かに終了した。
とても美味しいランチだったわ。
「ワン太も沢山たべたわね、えらいえらい」
「ワンワンッ!」
ワン太は元気に私に答え、胸の中に飛びこんで私の顔をペロペロなめた。
可愛いわね~~。
もっふもふやで~~。
はぁどすこいどすこい。
「おや、その子は……」
「街道に倒れていましたの、なんの種族か、ビビ村長はお分かりになりまして?」
「ふむむ、いや、まさか……?」
ビビ村長にも解らないらしい。
ワン太はいったい何なのかしら。
カンカンカンカン!!
懐かしい番付表の警戒音が鳴り響いた。
私の前方に番付表が自動オープンした。
番付表のど真ん中に開いた赤い四角の中に『注意喚起』と相撲体の文字が浮かぶ。
『強力士接近:番付大関』
大関!!
どこの所属なの?
そう思っていると番付表の左側が、真ん中の柱を含めて真っ黒に変わる。
黒字の白の番付表の『にし』と書かれていた部分に『魔界』、白地に黒のいつもの番付表の『ひがし』と書かれていた部分に『アリアカ』と浮かぶ。
なんと、番付表が魔界との合同番付に変化したわ。
光っている名前は、
大関 大悪魔族:アリマ
前頭五枚目 アラクネ族:ククリ
前頭十三枚目 アラウネ族:ウタ
とあった。
ざっと目を走らすと、アイキオ関で十両、ギブン関は幕下であった。
なかなか魔界相撲も層が厚いわね。
村の広場に影が三つ走った。
見上げるとグリフォンに乗った魔物が上空を飛んでいた。
「フローチェ!」
「ええ、来たわね、暗黒相撲取りだわ!」
私たちは真正直に街道を行ってるから捕捉するのは簡単よね。
三騎のグリフォンはハフトン村の広場に音も無く降り立ったわ。
真っ赤なグレーターデーモンが一人。
頭に花を付け下半身にも花があるアラウネが一人。
そして、蜘蛛の下半身を持つアラクネが……。
「あら、ククリさん、ククリさんじゃない、どうしたの、里帰り?」
「い、いえ、あの、ひ、人違いです、フローチェ親方」
「いやねえ、私がククリさんを見間違うわけないじゃありませんか、どうしたの? 魔王軍にずっと居るの? クリフトン卿が寂しがるわよ」
「い、やあ、クリフトン親方とはその、えーと、あの」
あら、ククリさんが赤くなってしまったわ。
いけないいけない、可哀想ね。
「まあ、いいでしょう、この騒動が終わったら王都に帰ってきなさいね、次の場所がはじまるし」
「そ、そうですね……、い、いえっ、私はククリ! 魔王軍の暗黒力士の一人!! アリアカ王国のリジー皇太子とフローチェ皇太子妃候補を捕縛しに来ました」
「そちらのお仕事なのね、うんうん、頑張ってるわね」
私とククリさんがなごんでいると、赤い悪魔さんがずいっと前に出てきた。
「相撲……」
「相撲で決着をつけるの? アリマ関」
アリマさんはこくりとうなずいた。
まあ、お相撲さんらしい口が重い方だわ。
とても好感が持てるわね。
『黒土俵召喚……』
『土俵召喚』
二つの色が太極図を描いた土俵がハフトン村の広場にせり上がってきた。
「団体戦でよろしいかしら、アリマ関」
アリマさんはこっくりとうなずいた。
「でも、フローチェ、こちらが一人足りないよ」
「アデラでも出しましょうか」
「い、嫌ですよお嬢様!!」
アリマさんはアラウネのウタさんを見た。
ウタさんは空を見上げて鼻歌を歌っていた。
「ウタ……、お前は……リザーブ……」
「え、嫌ですよっ、なんでここまで来て土俵にあがれないんですか? というかー、ぺろっと不戦勝をひろっちゃいましょうよっ」
そういうとウタさんはペロッと舌を出した。
なんというか……、魔物力士はフリーダムね。
アリマさんは嫌なのか渋い顔をした。
「お、俺がやるぜっ!!」
エルフ一の剣士ゲスマンが前に出てきた。




