第十二話 エルフ一の剣士ゲスマン
エルフ兵達は村を取り囲むように散開、大弓を構えた。
「はっはーっ! 貴様らが世界樹の森でスモーという武術で大暴れしたのは知っている。だが、弓で狙撃されてはかなうまいっ!! さあ、命が惜しくば投降せよ!!」
髭の美しいエルフ隊長が憎々しげな声で怒鳴った。
……。
いえ、弓なら対応済みなんですけれども。
やっぱりお爺さんエルフが言うように馬鹿なのかしらね。
「ええい、撃て撃てぇ!!」
さすがは弓の民エルフだけはあって美しい射撃姿勢で私たちに向けて矢を放った。
兵隊が弓を引いている間に掬い投げの型を宙に向かって放ち竜巻を発生させた。
ばらばらと弓が竜巻に吸われて地面に落ちていく。
「な、なんだとうっ!!」
「張り手投石機」
「張り手投石機」
パアン!
パアン!
と、私とリジー王子の張り手の衝撃波が弓兵を張り飛ばした。
二名のエルフ兵が後方に向けてゴロゴロと転がり動かなくなった。
「ば、ばかなっ、な、なんだその妖しい技は!」
「張り手よ」
「張り手だね」
兵を乗せてきた幌馬車の上で寝ていたエルフがむっくりと体を起こした。
「かかか、やるねえ、お二人さん、隊長、ここは俺にやらしてくれや」
「ゲスマン! お前ならっ!」
「おもしれえじゃねえか、俺と一対一の勝負だ」
エルフ兵からゲスマンだ、ゲスマンが出ると声が上がった。
彼は痩せてニヒルな感じの美しいエルフで、腰に長剣を差していた。
剣を使うエルフはめずらしいわね。
「本当は村の魔法爺どもをぶった切りに来たんだが、あんたらも良い感じだ、切らせてもらうぜ。俺はゲスマン、エルフ一の剣客よお」
「おもしろいわね」
土俵を呼ぼうかと思ったのだけど、それでは面白く無いわ。
剣の間合いでの戦いにならないし。
「私がいきますわ、リジー王子」
「解った、頑張ってねフローチェ」
「おいおい、女性が先に出るのか、なんでいなんでい、漢の風上にも置けないぜ」
私はふっと笑った。
「私の方が強いのよ」
私は重心を下げ、蹲踞の形で手を開いた。
「むっ」
私の型を見てゲスマンの緊張が高まった。
なるほど、所作を見て強さを図る事ができる腕前はあるようね。
「なるほど、あんたぁ、やるねえ」
ゲスマンはニヒルに笑って剣の柄に手を置いた。
抜き打ちかと思ったが、ゲスマンは首を振って剣をすらりと抜き構えた。
「抜き打ちじゃあ、捉えられねえな」
判断力も良い。
じりじりと間合いを詰めて行く。
剣の間合いと相撲の間合いは違う。
剣の分、彼の間合いの方が腕一つ分ぐらい長い。
ゲスマンの殺気が私に押し寄せてくる。
びりびりと空気がたわむように緊張する。
あと紙一枚分で剣の間合いに入るのが解った。
相撲魂を回転させる。
一歩、大きく踏み込んで突破。
高速すり足でゲスマンに肉薄する。
「ぐっ!」
ゲスマンのもの凄い速度の振り下ろしを横に変化して避ける。
彼は肘を柔軟に使って剣の軌跡をねじ曲げる。
無駄だ、私の小指がゲスマンのローブのサッシュベルトに掛かった。
ゲスマンを腰に乗せるように投げ捨てる。
ダアアアン!!!
「ぐあああっ!!」
決まり手は腰投げで私の勝ちね。
「ゲ、ゲスマンを!! 無敵のゲスマンを投げ捨てやがった!! く、くそうっ!! 全員だ、全軍で押しつぶせっ!!」
「ばっ、何をいってやがんだっ! 一対一の決闘だぞっ!!」
「黙れゲスマン、それっ!!」
エルフ兵が全軍を持って押し寄せてきた。
「ふっ、元気があって、大変よろしいわっ!!」
先頭の槍兵のベルトを引き寄せ、櫓投げ!
バリバリバリバリ!!
「ぐわーっ!!」
兵士の一団が雷撃と共に吹き飛んだ。
「す、すげえっ」
ゲスマンが感嘆の声をもらした。
リジー王子も掬い投げで兵士を投げ飛ばした。
ドカーーン!!
程なくして、立っている兵士はいなくなった。
みんな地面に倒れてうんうん唸っている。
「はい、おしまい」
パンパンと手を叩いて埃を落とすとビビ村長が満面の笑顔で近寄ってきた。
「すばらしい、なんという魔法格闘技か!」
「なんという出の早い魔術なのか、身体言語系の術式じゃなっ」
「これは目新しい、すごい技術じゃて」
エルフのお爺さん三人衆は魔法研究家のようね。
エルフ民族で尊敬される人物は、魔法研究家か農民と言われているわ。
反面、兵隊や行政をする人間は一段低く見られているのよね。
「どうやって魔法を付与して出しているのじゃ、教えてくれい」
「さあ、なんで出てるかは解らないのですよ。技に魔法が付与されているだけなので」
「そいつは素晴らしい、精神集中無しで魔法を発動できるのか」
「エイナス、それは違うぞ、技を掛けるための集中を利用して魔力を加工しておるのじゃろうて」
「これは盲点じゃったなあ。すばらしい発明じゃ」
お爺さん達は研究家というよりは、魔法マニアな感じもするわね。
村人が総出で動けなくなったエルフ兵を縛り上げていた。
そうね、エルフの事は、エルフに裁いてもらいましょう。
ゲスマンが私に対して土下座していた。
「すまねえっ!! 俺にスモーを教えてくれっ!!」
「あらあら」
「これはすげえ武道だ、俺も覚えてえっ、入門させてくれっ!!」
「今は革命軍と魔王軍に追われている身だから駄目ね、事態が落ち着いたら、またエルフの森共和国に来るから、その時にね、ゲスマン」
「ああ、ああ、頼む、その時には是非教えてくれ、俺はあの武道を覚えたいっ」
とんだ所で入門者が出来たわね。
ゲスマンは運動神経が良いから、良い相撲取りになりそうだわ。
楽しみね。
「お嬢様~、お昼の用意ができましたよ~」
「ワンワンッ!!」
そうね、お腹がぺこぺこだわ。




