第八話 王城の波乱と王の憂鬱
王城では、ワークス侯爵やライズ男爵からもたらされた、ボーナ伯爵領で起きた反乱について、貴族派と王家派、それに中間派も加わり、その対処について、紛糾していた。
貴族派は、自派閥のボーナ伯爵領で干ばつの飢餓により起きた民衆の反乱であり、伯爵に罪は無いとして、直ちに兵を送り平定すべしと主張したが、
王家派は、シルベスター男爵から、ボーナ伯爵から非道にも領地を攻められたとの申し立てがあり、爵位を召し上げ、処罰を与えるべきとの主張である。
だが、反乱のきっかけを作ったのは、シルベスター男爵ということがあり、報復として認めてよいかとの賛否両論もあり、なかなか結論に至らないでいた。
ヘラクレス国王としては、まず、ボーナ伯爵が王家に隠れて、シルベスター男爵領を、武力で制圧しようとしたことを処断したいのだが、廃爵などをしたあとの後任をどうするかが悩ましいのだ。
ボーナ領の領民は、反乱を主導し、飢餓にあえぐ自分達を救ったシルベスター男爵を、熱烈に支持しているとのことだ。
後任の貴族が、貴族派にしろ王家派にしろ、その熱狂を押さえて統治することは、かなりの困難が予想される。
加わて、シルベスター男爵側の出方も不明だ。反乱の後、ボーナ伯爵領の兵士達を自領に取り込んだと聞く。王城の処罰によっては、貴族の挿げ替えだけでは、素直に従うとは思えない。
場合によっては反乱か。いや勝ち目のない反乱などするはずがない。だとすると、王国離脱でもあるか。
まずい、まずいぞ。もし、王国から離脱して、北のリシア帝国にでも帰順されたら、王国を攻めるのに有利な拠点にされてしまう。
なにせ、ボーナ領と王城の間は、広々とした平野部しかなく、迂回する経路が無尽蔵にあるのだから。
その頃、シルベスター男爵領では、平年の20倍もの大豊作で、遅れていた収穫作業がボーナ領民の加入で、いっきに捗っていた。
ボーナ領に留まっているのは、領兵の半数の1,500人ほどで、干ばつの被害にあった農地を焼きはらい、翌年の種撒きに備えている。
残りの半数のシルベスター領にいる兵士達は、警備と訓練に励んでいる。
移民とも言えるボーナ領の避難民の受入れは、当初は大量のゲル〘モンゴルなどの遊牧民のテント住居で、10人ほどが暮らせる。〙に住まわせたが、順次建設したプレハブ共同住宅に、移り住んでいるところだ。
総計14,000人強ともなった領民の食糧は、大豊作のおかげで、4万人分の作物の収穫があり、備蓄分と併せても余裕がある。
避難民達は、農作業はもちろん、酪農や商店など、元々やっていた仕事に従事させていて、カウベル村は、もはやりっぱな街に生まれ変わっている。
旧ボーナ領民や兵士達は、もはや、シルベスター男爵領民であり、父上や僕達は、王城の出方次第では、城壁に囲まれたシルベスター領で、籠城するつもりだ。
ボーナ伯爵領での反乱から、二ヵ月も経った頃、ボーナ領の守備隊から、関所に陛下からの使者が現れたとの報せが届いた。
父上に、僕のスキル、スマホの《MAP》で見たところ、敵意を持つ赤○だと話し、僕が対応することにした。
ボーナ領の入口の関所まで来ると、100人ほどの兵士を引き連れた、貴族派のキルク男爵がいた。
「キルク男爵、陛下の使者なら、書状があるはず、見せてもらいたい。」
「儂は陛下から、口頭での沙汰をことづかって参ったのだ。陛下は神妙に、降伏せよと仰せだっ。」
やはり、書状はないか。偽の使者確定だね。
「陛下の名を語り、虚言を吐くは死罪。承知しているのですよね。」
「虚言などではないっ。」
「そうですか、では陛下にお伝えください。この地は、シルベスター男爵が守ると。
貴族派の横暴など、許さないとっ。」
「王城に歯向かうつもりか、後悔するぞっ。」
「この者達は、陛下の使者を語る偽ものだっ。討ち取れっ。」
そう声を上げると、関所を守る兵士達から、一斉にボウガンの矢が放たれ、キルク男爵達は、ほうほうのていで逃げ返って行った。
さてな、貴族派が陛下に隠れてしたこととは言え、面子があるから、次は軍勢で攻めて来るのかな。まったく、腐ってるね。