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地方公務員の異世界奮闘記  作者: 風猫(ふうにゃん)
第一章 異世界転生 紛争の渦中へ
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閑話1 運命に揺れるボーナ伯爵の妃達

 お待たせしました。改稿が終わりましたので、投稿を再開します。

 ボーナ伯爵の正妻パトリシアは、貴族派のロドリゲス侯爵家の次女で、嫡子の21才になる長男を生んでいた。

 彼女は従順な性格で、政略結婚で嫁ぎ嫡子を生むと、伯爵の関心は側室に向けられ、やがて遠ざけられて、館の奥に引き篭もる生活を送っていた。

 3人いる側室のうち、ナイダ男爵家から嫁いだローズは、次男のミゲルを生んだが、後の二人は平民の出自で、それぞれに女の娘を一人生んだばかりである。次男のミゲルはまだ12才、女の娘は3才と1才である。


 この夏、領内が干ばつの被害が広がった際、隣のシルベスター男爵領では、稀に見る豊作だとメイド達から聞いた。

 そして、夫であるボーナ伯爵は、領民を守るためにシルベスター男爵領を接収するのだと、兵を出した。わずか数十人の兵士しかいないシルベスター男爵領など、簡単に降伏するだろうとのことだった。

 ところが堅固な城壁に阻まれ、攻め入ることができずに退却したのだという。


 政治向きのことには、一切関わりを持たないパトリシアであったが、なんの非もない隣領を接収するなど、そんなことが許されるのだろうかと危惧していた。

 そして秋も深まり、飢饉にあえぐ領民の声が高まってきた頃、悲報がもたらされた。

 嫡子の長男が戦死したと。シルベスター領に攻め寄せる山中で、夜襲に会い殺されたのだと。


 私は、ただ悲嘆にくれることしかできなかった。横暴で利己的な夫に、愛しい息子を託したことを後悔するしかなかった。

 そして悲劇は続いた。それからまもなく、この館に暴徒と化した群衆が押し寄せたのだ。群衆の中には、我が領の兵士達もいた。

 夫である伯爵は、護衛達にも見捨てられ、酷たらしい最後を迎えたらしい。



 私と側室達、子供やメイドの皆は、逃げることもできずに、屋敷の奥で震えていたが、押し寄せた暴徒達を一喝して、鎮めてくれた者がおり、一命を取り留めることができた。


「皆聞けっ、ここにいる奥方や子供達は、伯爵の企みを知らないっ。皆の家族と同じく、伯爵の言うがままに耐えて来た者達だっ。

 この者達の身柄は、シルベスター男爵が預かる。害を為そうとする者は、この男爵の嫡男が成敗するっ。」


 その一言で、暴徒達は鎮まり、おとなしく館を出て行った。

 そのあと私達は、シルベスター男爵の従者達に付き添われ、シルベスター男爵の元へ連れて行かれたが、それは捕虜の扱いではなく、私達を暴徒から守るためのものであり、丁重な客人として遇された。



 シルベスター男爵夫人のマリアさんは、私より二つ年下ではあるが、温厚でとても落ち着いた方でした。息子を亡くした私を気遣い、なにかと世話を焼いてくれます。

「パトリシアさまぁ、貴族の正室とは、宿命を背負って生きる、悲しい女なのです。

 家を継ぐ者を生み育て、家が絶えることのないよう護らければなりません。貴族の夫など、外のことだけで、役立たずなのですから。

 うふふっ、だから、息子には毎日お説教をするのです。私好みの男に仕立てるのですっ。夫に飽きたら、息子に甘えるのですっ。」

《 母上っ、それは母上だけの我儘ですって。 》


「まあっ、毎日お説教ですか。どんなことを言うのですか?」

「例えばミコトは、いつも疲れたふうに、ぼんやりしていますから、『そんなことでは、周りに心配を掛けますよ』って。『もっと笑顔を絶やさず、元気なふりをしなさい』ってね。態度や表情を弄るのです。

 それだけでは、マンネリ化しますから、少し無茶を言いつけますのよっ。

 真夏に『冷たい冷菓が食べたいわっ』とか、なぜか落ち込んでいる『侍女のご機嫌をなおせっ』とかね。そうやって、試練を与えて鍛えるのですっ。」

《母上っ、それは鍛えるのとは、違いますっ。単なる母上の息子弄りですって。》


「そうなのですね。私は息子達に、あまり話もせず、お説教などもしませんでした。さぞかし愛情の薄い母親だと、思われたことでしょうね。

 今思えば、夫に対して勇気を出して、逆らう姿を見せるべきでした。」

「過ぎたことを悔やんでも、仕方ありませんわ。それより、側室の子でも自分の子と思って、次男の男の子を、しっかり育てなくてはいけません。

 たとえ、父親が罪を犯しても、何も知らない幼い子供には、罪は無いのですから。 

 どうなるかは分かりませんが、伯爵家の血を残す者として、ふさわしい人間に育てることです。それに、側室の皆様や奉公人の方達の生活を考えてあげるのも、正室の義務ですわ。」

「ええ、王城からどのような沙汰があるのか分かりませんが、平民となっても、生きて行けるよう頑張りますわ。」


 そう言って、微笑みを浮かべるパトリシアを見つめて、この人の力になってあげなければと想うマリアであった。


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