第五話 反撃のゲリラ戦(改稿1)
カルロ達は、中々手に入らない衣服や日用品を領内にもたらしてくれた。領内にはまだまだ産業と言えるものが足りない。
移住者達が来たら、いろんな産業を起こそう。
カルロには、もう一つ、依頼をしていた。陛下に、父上からの書状を届けてもらうことだ。
ボーナ伯爵から襲撃を受けたこと。兵士が攻め寄せたこと。陛下の判断を仰ぎたいとの内容だ。
「父上、ボーナ伯爵は、このまま諦めないのでしょうか。」
「諦めないだろうな。初めは食糧不足を補うため、我々を亡き者にして、我が領を自領にしようと企らんだが、失敗して後には引けず、さらに兵士を出して、力づくで併合しようとした。
もう王城には、顔向けできまい。ならば、併合できるまで、攻めて来るしかあるまい。」
「陛下に、訴えたのに、どうにもならないのですか?」
「ボーナ伯爵は貴族派。王城の貴族派が味方して、簡単には処罰も下りまい。なにせ、王城は貴族達の魔窟故な。
しばらくは、持久戦じゃ。王城が動くまでじゃな。」
それからしばらくして、ボーナ伯爵領から、無数の赤○がシルベスター領に近づいて来た。
どうやら、今回は渓谷を通らず、山越えを選んだようだ。
僕は5人の従者とともに、山中に先回りしてゲリラ戦を仕掛けることにした。
「若、ゲリラ戦って、いったい何なのですぅ? 俺にゃあ、さっぱり解かんないですけどっ。」
若手従者のトールが、戸惑いを隠さず聞いてくる。こいつは、何でもズケズケ聞いてくる脳筋男だ。
「味方が少人数の時に、バカ正直に正面から戦わないで、隠れてコソコソ妨害をする戦い方さ。食糧を焼いたり、水に毒を入れたり、罠を仕掛けたりするんだよ。」
「ずいぶん卑怯な戦いですけど、返って恨みを買って、敵の戦意を高めたりしないんですか?」
そう言ったのは、同じく若手の従者キュロス。彼は、正義感の強い慎重派だ。
「キュロス、戦いに卑怯も何もないでしょ。正々堂々なんて言って、殺されてしまっては、本末転倒です。」
僕達は、敵の進路の方向に、落し穴や木々を利用した槍や弓矢の罠を作り、敵を待ち受けた。
落し穴は深さ1メートル程だが、底には尖った丸太や竹やりが上を向いており、倒れ込んだ者は、大怪我を逃れられない。
また、自然の生えている蔓草にも、触れると木々を利用した弓から、無数の毒矢が飛来し、ちょっとした傷でも、甚大な被害を与える。
極めつけは、竹藪に仕掛けられた縄の罠。縄の輪のある場所を踏むと、弓のようにしなっていた成竹の反動で、4〜5メートルも空中に飛ばされ、藪の中に叩きつけられる。その恐怖は半端ではない。
トールなんかは、罠の成功に気を良くして、すっかり罠作りに嵌ってしまった。彼は、落し穴の偽装にかけては、天才かも知れない。
わずか1〜2Kmの進軍で、100名近くの被害を出したボーナ領軍は、2,000名もの全体から見れば、大した被害ではないが、先頭を行く兵士達に恐怖を植えつけ、罠を警戒した敵は、侵攻速度を大巾に遅延させたのである。
そして、これが本番。ボーナ領軍が山中で、夜営をしている深夜に、赤外線カメラと発火装置付きのガソリン火炎瓶を取り付けた《ドローン》で、赤○の色濃い二人を急襲した。
ガソリン火炎瓶は、一瞬で二人がいるテント周辺を火の海にし、たぶん大火傷を負わせた。
それから朝まで、てんやわんやの騒ぎだったが、朝になるとボーナ伯爵軍は、撤退して行った。おそらく指揮官が戦えない状況に陥ったからだろ。作戦成功である。
それからまたしばらくすると、ボーナ伯爵領に、ボーナ伯爵が王城から処罰を受け、改易されるとの噂が広がった。広めたのは、僕の依頼でカルロ達が、王都の商人達に広めたのが伝わったのだ。
このため、領民達の伯爵への不信が広がり、食糧の徴収などに従わず、反抗する者達が増え、力づくで徴収しようとすると、余計に不信感が広まって行った。
また、ボーナ伯爵は、自分達の食糧は贅沢に買い求めているのに、領民の食糧不足には、なんら対応していない。
隣のワークス侯爵領やライズ男爵領では、領主が領民に税を免除し、さらに食糧を配給しているのに、ボーナ伯爵は、自分の面子のために、王城への救援要請をせず、領民の飢餓を放置している。
そんな噂があっと言う間に広まり、今にも暴動が起きそうな状況になっていった。