第10話 清貧貴族連盟の発足
キンメリア王国宰相補佐の任にある僕は、王国の改革のために、各地の貴族領の査察に飛び回っていました。
前世の地方公務員時代に、税務部局で調査事務を行なった経験を、遺憾なく発揮して。
今まで監査など受けたことがなく、どんぶり勘定であり、帳簿も大雑把なものばかりで、慌てて、贅沢を隠すために偽装しても、すぐにばればれです。
領主の館にある宝石や貴金属、調度品、洋服などの購入金額を、購入先の商人の売り上げ記録と、照合すれば偽装していることが、判明する。
公共事業や孤児院への支出額は、受領した記録と照合し、虚偽の金額との差額を集計していく。
これらの金額が、王国への決算報告書の総額の2割を越えた時点で、アウトです。
虚偽の決算報告を行うということは、言うまでもなく、税収を着服しているということです。そしてそれは、自分達の贅沢に使われています。
その金額は、過去5年間で、キンメリア王国の年間予算の半分にも及び、前世日本の金額に換算して、8,000億円にも上りました。
査察の結果は、その場で言い渡し、アウトとなった貴族家は廃爵し、家族もろとも国外追放処分となります。
決算報告書との差額が、5%以下は許容範囲、2割以下は1段階の降爵。男爵は領地没収となり、騎士爵として、宮廷文官か、他の貴族の部下を選択することになります。
王国内の査察は、4ヶ月ほどで終えました。
もちろん、廃爵を言い渡した時点で、反乱した貴族もありましたが、一族の男子全員をその場で討ち取ると、以後は反乱も治まりました。
王国での反逆罪は、一族男子死罪。女性は国外追放だからです。
そして、監査の結果は、廃爵が3割、降爵も3割、現状維持が4割という結果になりました。
この報告に、陛下は驚愕しておられましたが、『ミコトが、領地改革を安易に、国内へ明かさないと言った意味が理解できた。』と、言われたそうです。
査察と並行して、決算書が正しく報告されている貴族領にあっては、領地も狭く貧困な男爵領がほとんどでした。
査察が完了と同時に、麦や作物の正常値植えと、麦の種子の塩水選別。ジャガイモ、トウキビの種子の配布を手配しました。
また、領地の農地と灌漑用水路の整備を公共事業として行うよう指示し、資金は王国から無利子で貸付ました。
これらの指示は、査察が5月までに完了したので、ほぼ春の植え付けに、間に合わせることができました。
これら王国が支援を決めた貧困に苦しむ零細な領地を集め、定期的に僕が指導するグループとしました。
その名も『清貧貴族連盟』。僕が名付けたんじゃないよ、彼らが自主的に付けた名前なんです。貧しくても、清く正しく領地を守ってきたことを、誇る名前なんだって。
6〜7月にかけて、連盟の各領地からワーライシル三領へ、視察団を出させるようにも指示しました。
農地改良や作物の植え付け、特産品の開発、漁業や海産物の開発、そして、商業の実態を見せるためです。
《 ワークス侯爵領の農地にて 》
「なんと言うことだっ。道も水路も石で、できているではないかっ。」
「石灰石を原料とした《ローマンコンクリート》というもので、作っております。
もし領地に石灰石が取れる山があれば、それだけで、一大産業になりますぞ。」
「広くて真っ直ぐに仕切られた農地ですなぁ。おまけに、作物もきれいに並んで植えられておる。」
「このように植えると、日当りも良く、雑草の駆除や収穫も楽です。」
《 ライズ領の漁村にて 》
「ずいぶん大きな網で漁をしているのですね。これは、干物を作っているのですか、大勢の女性が働いていますね。」
「この干物は、あと1〜2日で出来上がりですが、味を見てくれますか。旨いですよ。」
「う〜む、干しただけで、これだけの味になるのですか。こちらの砂糖醤油で煮たものは、素晴らしい味ですね。」
《 シルベスター領ボーナの商業地区にて 》
「なんとまあ、お店がきれいに並んでいるわっ。まあ、お店の中も明るいのねぇ。
洋服ばかりか、雑貨も豊富な品揃えで、きれいに並んでいるわ。」
「店内には、魔石の照明がありますし、壁には大きな鏡があるんですよ。」
「屋台もあるけど、食べ物のお店もいっぱいあるのね。看板の絵が可愛いわっ。」
「お店の中は、冬でも温かいですし、屋台と変わらない値段で食べられますよ。」
各地の視察団は、王都から水上バスで訪れているから、目覚ましい東部地域の賑わいを見て、凄く驚いているよ。
自分達の領地が目指すものを、実感してくれたと思う。
視察のあと間もなくして、西部と北部、南部も水路の建設に踏みきったから、視察の効果は十分にあったようです。
第ニ章終了です。次章開始まで、しばらくお待ちください。




