第七話 キンメリア王国の騒乱
春の大評議会の翌日、王城の奥まった一室に、陛下とワークス宰相、近衛騎士団長のレーダ伯爵、財務大臣であるウォール伯爵、内務大臣のアグリ伯爵、父上であるシルベスター伯爵、それにライズ子爵と僕の8人がいた。
「反乱を起すとすれば、貴族派の元侯爵、バカラ子爵とラマダ子爵は、確実であるな。」とワークス宰相。
「ビランタ伯爵は、中間派ではありますが、評議会での態度を見ますと、敵対するかと思われます。
当然ですが、中間派閥を率いるナルタル侯爵もですな。」と、続けたのは、ウォール財務大臣。
「一番厄介なのは、彼らが手を組み、そして、それに外国が加担することですな。」レーダ騎士団長が、顰め面で呟くように言う。
「ミコト、如何にするつもりだ? 奴らの兵力は侮れんぞっ。」
「父上。敵対するのは、貴族だけなのです。
ですから、反旗を翻した時点で、貴族を叩きます。それまでは、牽制に留めます。
モスラ辺境伯は、陛下の叔父でもあり、王族派の要。リシア帝国の抑えとして、睨みを効かせて貰わなければなりません。
ワークス領から、3,000名の増援を送りましょう。
それから、ライズ子爵には、2,000名を率いて、王都の守備をお願いします。
シルベスター領の兵500名を僕に預からせてください。父上には、残りの兵力で三領の防衛を頼みます。
反乱貴族の討伐は、僕の部隊で行います。
まともに戦ったりしませんから、ご心配なく。」
「余は、ミコトの手腕を期待しておるぞ。」
「はい、お任せください。陛下。」
それから3日後、僕は30台の車両を連ね、ラマダ子爵領に乗り込んでいた。
あの日すぐに、無線で指示を出し、シルベスター領のガルバに連絡し、翌朝には、500名の兵員、25台の兵員輸送トラック、4台の装甲車、そしてグランとシェリフ、ミーナが乗るランクルが、出発していた。
ワークス領でも、騎馬隊を除く2,500名が輸送トラックで出発していたし、ライズ領からも2.000名の兵員が輸送トラックの人となっていた。
「ラマダ子爵。さっそくだが、全ての帳簿と領収証を見せてもらおう。」
「昨年の分でよろしいか。」
「いや、全てのものだが。」
「分かりました、運ばせますので、お待ちください。」
「いや、その必要はない。保管場所に案内せよ。あとは、連れてきた部下がやる。」
グランとシェリフには、ラマダ子爵に張り付いてもらい、ミーナ他女性騎士には、子爵夫人達の監視をしてもらっている。
連れてきた調査する文官は、30名。館内で怪しい行動を見張る兵士が50名。館外の警備が400名である。
調査を始めてしはらくすると、別任務を負わせたキュロスから、密かに報告があった。
館から出た侍女を尾行し、落ち合った兵士達諸とも捕縛したとのこと。
持っていたバカラ子爵宛の手紙には、予定を早め、急ぎ反乱を実行するように書かれていた。
僕は、すぐにそれを証拠に、ラマダ子爵ほか夫人や親族を捕縛し、王城へ護送すると共に、
子爵の領兵に、ラマダ子爵家は廃爵となること。おとなしく、沙汰を待てば、新しい領主の元で雇用することを話し、視察の兵員を引き連れて、バカラ子爵領へ移動した。
バカラ子爵領には、他領地の貴族派の兵士が集まりつつあった。集まっている他領の兵士達は、郊外で野営しており、子爵邸の防備はしていない。
僕達は、日の暮れるのを待ち、子爵邸に夜襲を掛けた。容赦などしない。見せしめなのだ。
火炎瓶を投げ入れ、子爵邸を火の海にする。
駆けつけた他領の領軍には、降伏を糾して、武装を解除しない兵士達には、容赦なくボウガンと火炎瓶の攻撃を行なった。
結果、バカラ子爵と家族は、逃げ遅れた者を除き捕縛。集まっていた他領の領地軍も降伏。その後に到着しる他領軍も次々包囲して捕縛した。
一方、この10日後になって、国境へ侵入してきた『リシア帝国』軍3万余は、モスラ辺境伯とワークス侯爵連合軍12,000名による待伏せを受け、ワークス侯爵軍が行なった簡易陣地と『釣り野伏』の戦法により、壊滅的な打撃を受けて退却して行った。
損害は、死傷者だけで、2万人を越えた。
(実は、この戦場にも、僕が率いる500名が、援軍として控えていたのですが、ワークス領軍に装備させた、軽量硬化樹脂の鎧が、敵の弓矢や刃を寄せ付けず、一方的に攻撃できていたので、出る幕がなかったのです。)
この反乱に参加した貴族家は、4子爵と5男爵家で、貴族派では、2男爵家が参加を拒否していた。
中間派のナルタル侯爵は動かず、ビランタ伯爵は、嫡男や家臣に拘束され隠居させられたとのこと。
また、反乱に加担した貴族家の家族達の犠牲者は、幸いにして死者がなかった。
夜襲を受けたバカラ子爵家の家族も、居住区への攻撃を避けたため、犠牲が出なかったのである。
これらの反乱は、後に『バカラマリシ事変』と呼ばれ、キンメリア王国の中興の、切っ掛けとなった事件として、記憶されている。




