第二話 帰路の襲撃と《スマホ》の機能〘改稿1〙
教会のあるボーナ伯爵領から、僕達の住むシルベスター男爵領の村までは、馬車で5日もかかる。途中には村が一つだけ、だからあとは野宿だ。
僕と両親、それに二人のメイド達の護衛は、10人の従者達で、皆、父が男爵になる前からの傭兵仲間だ。
「坊、成人の儀で、何か武技のスキルを授かりましたんで?」
話しかけてきたのは、中年の親父臭いガルバで、父の右腕とも言える存在で、幼い頃からの僕の武術の指南役でもある。
「う〜ん。よくわかんないけど、《スマホ》って、スキルを授かったよ。鑑定のスキルがないから、どういうスキルなのか、わからないやっ。」
「坊、そりゃまた、聞いたこともないレアスキルを授かったもんでやすな。名前からすると、スキルを覚えやすいってことじゃねぇですかい。」
「うん、鑑定できればいいんだけど、まあ、ぼちぼちかな。」
『スマホ』、そう言葉にしたせいか、頭の中に《スマホ》の画面が浮かんだ。そして、画面にはカーソルの〘⇐〙が見え、どうやら、思いどうりに動かせるようだ。
試しに、スマホの《MAP》を起動してみると、現在地を起点とする周囲2Kmの地図が表示された。地図には、青○と緑○の表示があり、少し動いている。青○は、僕達の位置に合致しており、どうやら人の位置のようだ。
地図を縮小して、半径20Kmにしてみると、○の表示が増え、○の色にも濃淡が現れた。現在地の近くの緑○は色が薄く、遠くの緑○は色が濃いものがある。もしかして、緑○は獣や魔物であり、色の濃淡は、その強さを表しているのかも知れない。
さらに地図を縮小して表示範囲を広げると、街道の先に赤○の表示が現れた。赤○には、58の数値が表示されている。カーソルをその位置に合せ、地図を拡大してみると、赤○の数が無数に増えて表示され、どうやら58の赤○になったようだ。
地図の欄外右下に、〘記号〙という欄があったので、カーソルでクリックすると、記号の説明が表示され、川や橋、道などの記号とともに、赤○は敵意を持つ者との説明がされていた。どうやら、街道の先には野盗の類いがいるということらしい。
僕は、父上に授かった《スキル》を試したところ、この先に敵意を持つ者達がいることを伝えた。
「父上、この先25Km程のところに、58人の何者かが、我々を襲撃しようと待ち構えています。」
「なにっ、58人もだと。う〜む、盗賊にしては、ちと数が多いな。
我々がここを通るのを知っているのは、伯爵領に入る際に関所で告げただけであり、ボーナ伯爵の兵かも知れない。我々を亡き者にして、我が領を奪うつもりかの。
よし、ゴルとアルタで偵察に行け。他の者は、戦闘の準備をしろ。」
僕は、《スマホ》のスキルで、なにか戦闘に役立つものがないか、考える。
銃などの武器は、訓練をしないと使えないし、この世界に広めるのは、過激な殺戮を増やすだけで、まずい。
そうだ、前世で過激派が闘争に使っていたのは、角材と火炎瓶。火炎瓶ならすぐ使える。
そう思いつくと、《スマホ》の《インターネット》を開き、通販サイトから、自販機で売っているサイズのジュースや紅茶のペットボトルを20本、ポリタンクに入った灯油を1缶、フェルト地の端切れ、ハサミを一個、2個組の100円ライターを購入した。
購入すると、『4,650円=4,650円が、カード決済されます』との通知があった。この世界と前世の通貨は、等価のようだ。だけど、僕の口座残高が幾らなのか、カードローンとか溜まると嫌だなとか、思いながら、目の前の地面に現れた商品を眺めた。
父上や母上、メイドや従者の皆に、ペットボトルの飲み物を配り、空容器を集めるからと、飲んでもらった。
皆、初めての飲み物に、目を見開いて驚愕していたが、食いついたのは、母上だ。
「ミコトっ、このような飲み物を出せるということは、他にも美味しい物や、甘いものや甘いものが、出せるのではありませんか?」
「母上、試してみてませんから、まだ分かりません。それにお金がかかるのです。母上のご希望に添えるかどうかは、領地に帰ってから、調べて見ますので、お待ちください。」
「わかりました、私はミコトが母親思いな息子なのを信じていますからね。裏切らないでくださいね。」
見ると、メイドの二人も、首振り人形のように、うんうん頷いている。
あちゃっ、そんなことで、息子の誠意を測るのですか? 母上、息子より甘味がお好きですか。メイド達よ、お前達は先程一瞬だが、マップの表示が赤く光ったぞっ。
とにかく、空いたペットボトルに、少量の砂と灯油を詰め、灯油で湿らせたフェルトの端切れをキャップに挟み込んで、火炎瓶の出来上がりだ。
皆に、火炎瓶と100円ライターの使い方を教えて渡すと、ガルバと母上が興奮している。
「坊、これは魔法の使えない者にとっちゃぁ、絶てぇの必需品で、ひと財産築けますぜぇ。」
「ミコトっ、母にも寄越しなさいっ。これで、賊に目にもの見せてやるのですっ。」
仕方がないので、ペットボトルのジュースを30個追加で買った。皆はそれを美味しそうに、ごくごく飲んでる。そして母上とメイドの二人も、3個ずつの火炎瓶を手にして、戦う気満々である。
そうして、賊の潜む場所に着くと、二手に別れて攻撃した。
先に迂回して賊の後ろに回った、僕とゴルバ達6名で、いきなり火炎瓶を投げつけ、奇襲した。
僕が3個目の火炎瓶を投げつけた頃には、父上の本体も駆けつけ、さらに火炎瓶の攻撃を掛ける。母上とメイド達も、負けずに投げつけている。火炎瓶で火達磨になった賊達は、逃げ出そうとするが、火傷を負い気が動転しているので、たやすく僕達に討ち取られて行く。
戦いが終わった頃には、辺り一面に煙が立ち込め、残り火が燻っている中、賊の死体が散乱していた。
「ミコト、無事か。」
「父上こっちです。こちらは皆、無事です。怪我人もいません。」
「よくやった。しかし小奴ら、ただの野盗ではないなっ。身なりは皮鎧で兵士の格好をしておらんが、使った剣術は兵士の訓練を受けたものだ。」
「ああ〜ミコトォ。無事で良かったわぁ〜。」
母上が抱き締めてくる。俺も母上を守ることができて、ホッとした。
「やはり、ボーナ伯爵の手の者か。この襲撃が失敗したからには、次は、我が領に攻め寄せて来るに違いない。急いで帰って、防備を堅めるぞっ。」
こうして、僕達は賊の襲撃を退け、無事に帰宅できたのです。
思い出したけど、母上の追及が恐ろしいから、早く甘味のスイーツを用意しなければ。
でも、そう頻繁には、用意できないと、どう説明したら良いのでしょう。