第三話 ドリームファッション革命
春4月、王城で陛下の誕生日を祝う〘夜会パーティ〙が開かれる時期になりました。男爵時代には、父上が遠方を理由に、お祝いの品だけ届けて済ませていたのですが、伯爵となった両親も、侯爵の代行をするユリア様も出席しない訳にはいきません。
僕は、お留守番とのんびりを決め込んでいたのですが、男爵ながら侯爵家の代行なのだから欠席はならんと、ワークス侯爵から、お呼びが掛かりまして、出席する羽目になりました。
〘夜会パーティ〙と言えば、パーティの華は、女性の華やかなドレスです。
そこで僕は、シルベスター領の縫製工場の綿布を用いた、前世デザインのドレスとスーツを作り、この世界にファッションの、革命を起すことにしました。
スーツは、陛下とワークス侯爵、父上とライズ子爵、僕の5着。ドレスも、皇后陛下とワークス侯爵夫人、母上とライズ子爵夫人にユリア様の5着です。
必要なサイズは、無線ですぐさま入手しました。(ユリア様の某サイズが、見た目より大きく、驚いたのは秘密ですっ。)
旧ボーナ領の領都ラカナに、3領から10名の服飾職人を集めて、異世界日本の10着のドレスと、3着のスーツを見本に、型紙を取らせ、着る本人のサイズに合わせて、デザイン、布地·色柄を選択させ、縫製に当たらせました。
以後、彼と彼女らには、三領合同の服飾組合として、活動してもらう約束です。
この国のドレスは、ボタンやチャックといったものが取り入れられていないので、袖口が広がり、それを隠すために、フリルがついているのが、一般的なデザインです。
また、模様も刺繍によるもので、染色の色も少ないのです。カラフルな赤やピンクはなく、紺色とそれを薄めたくすんだ青色はありますが、明るいブルーや水色はありません。もちろん、赤紫色など無いのです。
ドレスの調整の必要から、前々日に、陛下夫妻とワイズ侯爵夫妻担当の服飾職人を従えて、王都に乗り込んだ翌日、ユリア様はご両親のドレス調整に行き、僕も服飾職人を連れて、父上と母上の元へ向かいました。
母上は会うとすぐさま、僕を力いっぱい抱きしめました。僕の背は、もう母上をわずかに越えているのですが、母上は背伸びして、僕の顔を胸の谷間に引き込みます。甘酸っぱい匂いに包まれ、従者やメイド達が大勢いる中で、真っ赤になって、オタオタしてしまいました。
「母上っ、もう子供ではないので、お止めください。」
「あら、ミコトはいつ、私の子供をやめたのかしらっ。」
「そういう話ではありませんっ。」
従者やメイド達がくすくす笑ってるよ。
「この前、お話しした母上のドレスを、お持ちしたんですっ。調整をしますから、おとなしくしてくださいっ。」
「あらまあ、息子におとなしくしてなんて言われるなんて、月日の経つのは早いものねぇ。」
そんなことを言いながら、調整をするドレスを目にして、母上の目の色が変わりました。
「まあこれはなにっ、袖にフリルがないわっ。袖もなにもかも、身体にぴったりして、こんなに細身のドレスは、初めてだわ。
色も素敵っ、こんな色があるなんて。」
興奮する母上を置き去りにして、父上の元へ向かいました。
「父上、着心地はいかがですか?」
「おおっミコト、上品で素晴らしいのたが。これでは、陛下より目立ってしまい、不敬にならないか?」
「大丈夫です。陛下には、もっと格調高い服を用意しましたから。」
そんなこんなで、陛下の生誕の祝いの日がやって来ました。
父上と母上、ライズ子爵夫妻、ユリア様と僕のメンバーが入場すると、会場から驚きの声が上がりました。父上とライズ子爵は、黒のシックな英国のフォーマルスーツ、胸ポケットに小さく銀糸で家紋が入っています。
僕は濃紺のカジュアルスーツです。
母上は、きらびやかな銀糸の鶴の模様が控えめにスカート部分に入った、水色のフォーマルドレス。袖口はボタンでフリルはありません。
ライズ子爵夫人は、明るいピンクのフォーマルドレス。薄いレース生地が重ねてあり、袖口にフリルがないため、とても優雅な装いです。
そして、若いユリア様は、鮮やかな赤のドレスで、首に飾られた銀のネックレスが、引き立っています。
司会をする宰相夫妻が入場しましたが、宰相は父上達と同じ英国のフォーマルスーツです。
背中に銀糸で、侯爵家の家紋の模様が大きく入っています。
夫人は、きらめくネイビーブルーのフォーマルドレスで、大つぶの真珠のネックレスが引き立っています。
そして、陛下が皇后陛下と入場されると、会場にどよめきが響きました。
陛下も父上達と同じデザインの英国フォーマルスーツ姿ですが、一段と格調の高い生地の装いだったからです。
スーツの色は、濃紫に金のラメがはって輝きを放っており、背中には金糸で大きく、王家の家紋が入っていたからです。
皇后陛下は、明るい赤紫に銀のラメが入ったフォーマルドレスで、胸元に白いバラを付け、厳かでありながら、華やかな輝きを放っている装いです。
「皆の者、余の生誕の祝いに遠方からも、来てくれたことに、感謝する。
今日の日を皆とともに、穏やかに迎えられたことに満足しておる。
それと、なにより、儂と苦労を共にして来てくれた室が、この上ない笑顔で、美しくいてくれることに感謝する。
今日は儂の祝いだが、どこぞの誰かは、儂ではなく室を喜ばせることで、儂の機嫌を取りおった。
こ憎らしい奴じゃ、しかし、その企みは成功しておる。はっ、はっ、はっ。」
続いて宰相であるワークス侯爵が乾杯の音頭を取る。
「どこぞの誰かを、私は全く存じませんが(笑い)、陛下の生誕の日を、この上なくお美しい皇后陛下と共に拝謁できたことは、臣下としてこの上ない喜びでございます。
それでは、陛下のご健康を祝して、乾杯っ。」
会場で歓談が始まると、何番目かに、父上に連れられて、陛下に挨拶したのですが、
「伯爵、そちの息子は、やはり油断ならぬなっ。今回のことで、すっかり皇后を味方に付けてしまったわい。」
「まあミコト男爵。素敵なドレスをありがとう。それに、ナイトドレス(······)も、たくさんのスイーツも。
おかげで、あなたは侍女達の一番人気よっ。」
「皇后陛下、喜んでいただけて、なによりです。スイーツの職人達には、定期的に新作のスイーツを、皇后陛下にご試食いただくように、申し伝えておきます。」
そんなこんなで、陛下と皇后陛下から、他の人達より、長い言葉を掛けていただき、注目されたが、うちの女性陣達には、さらなる注目が集まっていた。
画期的な色とデザインのドレスに、目の色を変えた貴族夫人達に取り囲まれ、質問攻めにあっているのです。
母上にもユリア様にも、近づくことは不可能。
それで僕はひとり、お料理を美味しくいただいていたのですが、後でユリア様からは、薄情者と罵られました。




