閑話2 夢見る乙女、生まれる覚悟
王城から帰って来た父の話に、三度も驚かされてしまいました。領地が加増されるのは、報奨だからありえます。
でも、父が宰相になるなんてっ。(最初の驚きっ)
そして、私が侯爵代行として、内政をやることになるなんてっ。(二度目の驚き)
おまけに、内政の手助けには、ミコトさんが来るなんてっ。(三度目の、まさに驚愕)
先だって、シルベスター領に行った時は、お料理に魅了されて、ミコトさんとの結婚とか、ちょっぴり想像してしまった私です。
でも、『一人っ子同士では、どうにもならないわ。』と、すぐに諦めた私でした。
それがどうでしょう、陛下が『婚儀になっても構わない。』って、言ったなんて。
結婚したら、領地の合併を認めるとのお墨付きをいただいたとか。
ミコトさんのことは、幼い頃に2〜3度会っただけだけど、一緒に遊んで年下なのに優しく賢い頼りになる男の子だと思ったわ。
でも、一人娘の私は、どこかの貴族の次男か三男を婿に迎えるんだろうなとしか、思っていなかったし。
不意打ちよっ、不意打ち。なんだか、私のハートに火がついちゃったみたい。
ミコトさんのお嫁さんかぁ、、、。
父と母達が大勢の、侍女や部下達を連れて、慌ただしく、王城に向かいました。帰る前日に私と代官を集め、宰相に就任したこと私が領主を代行すること、さらに私を補佐するために、ミコト男爵が代行として来られること。
ミコト男爵も明後日には到着予定で、飢饉の復興はミコトさんと相談して進めることなど。
3日後の昼に、ミコト男爵が到着しました。
私は、胸の高鳴りを抑えながら、館の正面玄関で、お迎えしました。
それから、会議室で代官達に紹介したのですが、ミコトさんは名前だけの簡潔な自己紹介を終えると、代官の皆さんに、自己紹介に担当地域の概要と、干ばつの被害状況、そして対策状況を話すように求めました。
一人の代官が、手元に資料の用意がなく、今は説明ができないと言うと、酷く落胆なさり、そのような代官の自己紹介はいらないと、叱責の言葉を吐かれました。
さらに、大雑把な説明をした村の代官に対して、そんなのが報告とは言えないと、叱責されました。
私が、報告は後日と助け舟を出す発言をすると、ものすごく顔を顰められ、飢餓に瀕している最悪の家庭の、今晩の夕食がどうなっているのか、知っているのですかと、返されました。
そして、もし弱い赤ん坊や幼子が餓死したら、私がどう責任を取るのかと、叱責されました。
甘かったです。父から領主代行とすると言われても、どこか他人事のように思っていました。
ミコトさんが代官の皆に、代官の使命は、領主から領民の命を預かって、それを守ることだと言われて、ハッと気付きました。私は、そんなことも知らなかったと。
私も代官達も覚悟が足りなかった。代官達も気付いたのでしょう。皆、真っ青になって唇を噛みしめています。
それから、ミコトさんに叱咤され、代官達は慌ただしく帰って行きました。歓迎会どころではありませんから。
翌朝からミコトさんに連れられて、干ばつの被害が大きい地域から、視察に回りました。
「畑の状況はどうなっていますか?」
「ほんの少し、わずかな実をつけた麦があるだけで、ほとんど全滅でさぁ。秋撒きの籾さえ無いんで、どうしたらいいんかぁ。」
「親父さんのところは、平年なら自分の食い扶持のほかに、売ることはできたのかい?」
「いんや、うちは平年でも税を納めりゃ、かつかつの食い扶持しか残りゃしねぇ。ここら辺の農家は、皆、20反以下の畑しかねぇしなぁ。
領主様から、3割の60Kgを頂けたが、どんななに節約しても半年は保たねぇよ。どうすりゃいいんだか。」
「わかった、親父さんの名前は、モガル村のボースさんだね。家族は4人と。あと100キロは追加で出すように手配するからね。
それと、枯れた麦畑を焼き払って。10日以内に芋の苗を届けるから、届けてくれた人から指導を受けて、栽培して。その芋は3ヶ月で収穫できるからね。春麦の栽培の時も、場所を取って栽培して。」
「そりゃほんとですかいっ、ありがとうごぜぃます。助かります。なんとか希望が湧いてきやしたぁ。」
「そうよっ、おじさん、諦めちゃだめよっ。頑張って飢饉を乗り越えなきゃ。」
「お嬢様、ありがとうございます。この御恩は家族みんなが忘れねぇですっ。」
〘 一反は約10aで、この世界では、一反あたり10〜15Kgの収穫量が普通である。4人世帯なら年間180キロ位の消費だから、税率5割なら、25〜30反の畑が必要なのだ。〙
私は思った、婚約とか結婚とか、浮ついている場合じゃないです。
今は日々、ミコトさんに連れられて、領民の苦境に対処することで、精いっぱいです。
でも、ミコトさんは凄いっ。とても1才年下とは思えないです。代官の皆も、いつの間にか、ミコトさんを崇拝してるみたい。




