第11話 釣り野伏せと、拝謁
僕は、戦場に選んだライズ男爵領の丘陵地帯へ、100人の兵を連れて向かいました。兵員を運ぶ足は、自衛隊で使われている22人乗りの73式大型トラック5台と、ミーナが運転するパジェロミニです。
今回、防御陣地の構築と、その前方に配置する落し穴の作業に、グランとシェリフを連れて来ました。パワーショベルの操作に熟練した彼らの腕が必要だったのです。
落し穴は、陣地の前方500メートルに設け、深さ3メートル、壁を垂直に掘り、大した被害は与えられませんが、進軍のじゃまをして、立ちすくむところを、ボウガンの的にする目的のものです。
そして、陣地は斜面に作った4列の段差、高さは2メートルあり、簡単には進めません。その間にまた、ボウガンの的とするのです。
わずか3日で作業を終えると、一旦僕達は、シルベスター領へ帰還しました。
この作業期間中、朝は、カツや野菜のサンドイッチ。昼は、ハンバーガーやコロッケパンやホットドッグ。夜は、フランスパンと日替りシチューを出しました。飲み物は、牛乳やアイスティーです。
戦時食の実験として、出したのですが、すこぶる好評でした。
大食いの者達には、好きなだけ、追加で与えたら、『俺は、ミコト様のために、命を捧げますっ。』と言うから、もっと美味しい物を食べたいなら、生きて帰りなさいと言ってやった。
戸惑いつつも!『生きて帰るようにします。』って言ったから、やっぱ食べたいんだ、美味しい物っ、て思った。
〘 坊っ、それは違いますぜぇ。そこは、『命を粗末にするなっ。』ってぇ、坊の崇高な人柄を示す言葉を予想してたのに、とんでもねぇ答えを出した、坊がいけねぇんですよ。 by陰の声 〙
貴族派連合軍12,000名が、ついに、のこのこやって来ました。予想よりも2,000名増えたのは、宰相のバカラ侯爵が密かに兵を出したからと聞きました。
予定どおり、簡易防御陣地で迎え撃つ。
我が領500名の精鋭部隊は、敵が落し穴に近づく前に、3連射。落し穴を越えるまでに、躊躇する隙に20連射を浴びせ、段差一段後退するごとに、15連射ほどを与えて、敵に1,000名以上の被害を与えました。
そして、簡易防御陣地を捨てると、一目散に退却し、退却したと見せかけては、一斉攻撃を仕掛け、敵の被害を拡大しつつ、怒りを煽りながら、本隊本陣まで退却したのです。
予想どおり、我が本陣の2キロ手前まで来ると、再度、体制を整えた貴族派連合軍は、まもなく我が本陣へ総攻撃を開始したのです。
でも、我が本陣の後方から、投石機で打ち出された、大型火炎瓶の攻撃によって、ことごとく火達磨となりました。
そしてまもなく、三方からの挟撃が始まると、さしもの11,000の大軍も、見るまに瓦解して散り散りに逃亡を始めました。
この敗戦に逃げ出した敵の貴族達は、ワークス侯爵の別動隊による待ち伏せに会い、無惨にも討ち取られました。
戦場から逃げ出せた兵は、わずか数百人に過ぎませんでした。
【僕が使った戦法は、戦国時代の島津家が得意とした〘釣り野伏せ、釣り野伏せりともいう。〙
最初に会敵した部隊が囮になって、伏兵のいる場所まで誘い込み、包囲殲滅するという戦法です。
僕は、これに被害を最小限にすべく、簡易防御陣地を設け僕なりにアレンジしてみました。】
壊滅した貴族派連合軍を指揮していたのは、貴族派の伯爵家の当主三人でしたが、全員この戦いで命を落としました。
我が軍及び援軍の被害は、奇跡的に死亡者はなくてすみ、重軽傷者がわずか83名でした。
この戦いの結果は、すぐさま噂となって国中を駆け巡り、勝利した3人の貴族の名を取って、『ワーライシルの戦い』と呼ばれました。
もちろん陛下には、ワークス侯爵から詳細が報告されたのです。
戦いは、戦後の後始末の方が大変でした。11,000人もの死体を埋葬しなければならなかったのです。
敵兵とは言え、死体を粗末にはできません。死んだ兵士達だって、貴族達の命令に従って、戦っただけなのですから。
落し穴の穴を拡げて、死体を埋葬しました。その上には、石碑を一体建て、兵士達の霊を弔いました。
パワーショベルや兵員輸送車を、ワークス侯爵やライズ男爵及びその兵士の目にさらしてしまいましたが、シルベスター領の秘密兵器として他へは漏らさないよう口止めをお願いしました。
戦いからしばらくして、陛下から王城への招へいを受けました。戦いの主人公である3人の領主と、僕も含まれていました。
全体の作戦を立て、精鋭を率いて主力として戦ったのは僕だから、目立つのは嫌だったけれど仕方なく父上と共に王城へと出向きました。
謁見の大広間で、立ち並ぶ貴族達に囲まれて、初めて陛下に謁見しました。
「ワークス侯爵、ライズ男爵、シルベスター男爵、嫡子ミコトよ。
よく参った。そして良く、儂を欺いた貴族達の、暴虐を防いでくれた。礼を申す。」
会場から、陛下の謝罪とも言える発言に、どよめきが聞こえる。代表して、ワークス侯爵閣下が答えました。
「過分なるお言葉、身に余る光栄でございます。
なれど、今回はシルベスター男爵に対して、ボーナ伯爵が起こした非道にもかかわらず、さらに陛下をないがしろにする貴族どもが、我々の領地に攻め寄せたため防衛のために討伐したに過ぎません。」
「さようか、しかし、功績は功績である。
ワークス侯爵には、セガール伯爵領を与える。ライズ男爵には、マスカス伯爵領を与え、子爵に叙する。
シルベスター男爵には、ボーナ伯爵領を与え、伯爵に叙する。
シルベスター男爵が嫡子ミコトは、男爵に叙する。
次に処罰だが、宰相のバカラ侯爵そちを宰相から罷免し、子爵に降爵とする。
ラマダ侯爵、そちも子爵に降爵とする。二人の領地は、半減することとし追って沙汰をする。
さて、後任の宰相じゃが、ワークス侯爵に頼みたい。受けてくれるか。」
「さて、陛下のご依頼ですが、困りましたな。私めには、跡取りが一人娘しかおりません。未だ、内政ができるほどの力量がございませんので、私めが、もう何年か、ついていなければ、、。」
「よい、余が名案を授けよう。どこぞの新伯爵には、たいそう内政に秀でた息子がおるそうな。
その者に、数年の間、手助けをしてもらってはどうじゃ?」
父上が慌てて、恐る恐る陛下に尋ねる。「へ、陛下っ、それは、うちの息子のことでしょうか?
うちも、一人っ子の嫡子なれば、無理があるかと、、。」
「なあにっ(ほくそ笑み)、、もしその二人が、婚儀ともなれば、余が領地の合併を許可して遣わそう。
なにも心配いらぬぞっ。はははっ。」
それってもしかして、僕の婚約? そんなぁ、結婚なんて、なにも考えていないよぅ。
あぁ、頭の中が真っ白になるって、こういうことか。




