表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「「夢」」

作者: へーたん

 ボクは、草原に立っていた。

 どこまでも続くような、広い草原だ。

 そして、なにもない草原。

「ここ、どこだ?」

 ナゼこんな所にいるのか。

 あるいは、何をしにここへ来たのか。

「綺麗な空……。これは、夢?」

 夢のようだが、現実感がある。

 思考が固まらない。

 なにも分からない。

「うーん、どうしよう」

 まあ、分からないなら、考えるだけ無駄だろう。

 とりあえず、今出来ることをしよう。

「頬でもつねるか。……痛い」

 どうやら夢ではないらしい。

 ということは、現実なのか。

「なにか、手がかりは……?」

 見渡してみても、やはりなにもない。

 強いて挙げるなら、芝くらいか。

「記憶、なにか……」

 考えるが、なにも浮かばない。

 記憶を失った感覚。

 記憶に、穴が空いた感覚。

「あるいは、寝てみるか?」

 起きたら戻っているかもしれない。

 試す価値は、あるかもしれない。

「よし、寝よう」

 ボクは、考えることをやめた。



 ボクは、草原に立っていた。

 どこまでも続くような、広い草原だ。

 そして、なにもない草原。

「……おかしいな」

 さっきまでいた場所だ。

 ボクは寝たはずなのに。

「……痛い」

 頬をつねってみた。

 やはり夢ではない。

 だが、起きた訳でもない。

「なんなんだ?」

 分からない。

 分からないことが、分からない。

「……寝るか」

 ボクは考えることをやめた。



 ボクは草原に立っていた。

「だろうな、知ってたさ」

 寝ることで、ここに来る。

 だが、夢ではない。

 ようやく分かった。

「夢と現実の狭間だな、コレ」

 どんな世界か判明した。

 それだけで、それなりの進歩だろう。

「分かったところで、なにもならないな」

 それなりでも、それだけ。

 解決の糸口は見えない。

 他になにか、分かることは。

「空、か?」

 見上げた先は、真っ青な空。

 雲一つない、大空。

 不気味なほど、なにもない空。

「願望、もしくは逃避……?」

 おそらくここは、そんな場所だろう。

 なにかを望んだか。

 もしくは、なにかから逃げて来たか。

「どっちにしろ、ここから出なければ」

 願望なら、現実を見なければならない。

 逃避なら、現実を知らなければならない。

「もう一度だ」

 ボクは、思考を続けた上で、眠りに落ちた。



 ボクは草原に立っていた。

「……ただいま、草原」

 いや、おどけている場合じゃない。

「だんだん、もやが晴れてきたな」

 眠るたび、思考力は回復する。

 記憶の穴も、埋まってきた。

「手紙……。屋上……。」

 断片的にだが、思い出せる。

 しかし、時間軸までは分からない。

「ここに来る、直前か……?」

 記憶の穴。

 推測しか出来ない。

「でも、思い出せた」

 さらなる状況を思いだす。

「少女……。笑顔……。」

 どうやら、告白を受けたようだ。

 我ながら、憎いヤツめ。

「あとは……包、丁……?」


 なにかおかしい。

 非常に不味い気がする。

「なんだ、この記憶……?」

 ありえない。

 有り得てはならない。

 おかしい。

 おかしい。

「まさか、な」

 忘れろ。

 思い出すな。

 誰かが叫ぶ。

「……これは夢だ。夢なんだ」

 ボクは、考えることから、逃げた。



 ボクは、草原に、寝ていた。

 見えるのは、青い空。

 どこまでも続く大空。


「……え?」

 違う。

 ボクは、立っていなければならない。

 何故寝ている。

 何故だ。

「とにかく、起きなくちゃ……っ?」

 動かない。

 体が。

 いや、違う。

 動かせないんだ。

 痛みで。

「なにが、起きている?」

 分からない。

 分からない。

 分からない。

「痛い……傷……?」

 不味い。

 非常に不味い。

「思い、出さないと……」

 だめだ。

 思い出すな。

「記憶、なにか……」

 やめろ。

 なにもするな。

 忘れろ。

「……これは、本当、なの、か?」

 いやだ。

 認めない。

 認めてたまるか。

 まさか、


「ボクは、あの日、屋上で、刺され、た……?」

 ありえない!

 そんなはずはない!

 ボクは、ただの学生だろう!

「あの、少女に……?手紙で、呼ばれた……?」

 止めろ!

 止めろ!

 止めろ!

「笑顔……嫉妬……?刺され、た?落ち、た?」

 違う!

 違うんだ!

 考えるな!

 これ以上!

 これ以上、思い出せば……!


「…………死?」


 嘘だ!

 これは、夢だ!

「痛い……!助け、て……!」

 きっと、夢だ!

 夢なんだ!

「違う……!目覚めて……!真、実、を……!」

 

 ……目覚める?

 生きて、いる?

「……まだ、死んで、ない?」

 そうか。

 ボクは生きているのか。

 夢と現実の狭間。

 そういうことか。

「ならば、真相を……」

 この目で。

 確かめる。

「目覚める、方法……」

 ボクには分かる。

「眠る……!」

 いい加減、夢から覚めよう。

 いい加減、こんな所は飽きた。

「待ってろ、現実。」

 ボクは、考えないことを、やめた。



 ボクは、寝台に寝ていた。

 見えるのは、白い蛍光灯。

 どこまでも窮屈な天井。

「ここ、どこだ?」

 ナゼこんな所にいるのか。

 あるいは、何をしにここへ来たのか。

「病院、か」

 大丈夫だ。

 全て思い出した。

 なにがあったのか。

「屋上に呼び出された。そして刺された」

 痛かった。

 今も痛い。

「結局、なんで刺されたんだ?」

 それだけが謎だ。

 それだけは記憶にない。

 存在しない。

「まあいいや。生きていたんだ。今は、もう一眠り……」


 ──ガチャリ、と。


 扉が開いた。


「…………え゛」


 立っていた。

 あの少女が。

 笑顔で。

 

 汚れた、包丁を持って。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ