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夢見の勇者の冒険  作者: 三ツ目狼藉
9/11

第9話



火竜との戦いから一週間。

俺たちは街の病院の一室に居た。


「クックックッ」


俺は笑う。


「ちょっと、シリウス・・・プッ、フフフ、笑うんじゃない・・・フフ、わよ」


「そう言うマルタもクク、笑ってるぞ」


「二人とも気持ち悪いですよ?それにここは病室です。あまり騒がないでください・・・」


病室のベッドで体だけを起こしたアルが言う。

火竜との戦いで一番の深手を負い、

治療のために入院していたのだ。


だが、そのアル自身もいつになく上機嫌であった。

普段から冷静で無表情なやつだが、

今日は口角が緩んでいるのが分かる。


「うぉおおおお!!!これが笑わずにいられるかよお!!!」


そう言って雄叫びをあげたゴウセル。

それと同時に俺たちはハグやハイタッチを交わした。


なぜ俺たちがこんなにも喜んでいるのか。

その原因はただ一つ。


俺の手に握られた一通の手紙だ。


それは今までに見たことも無い様な上質な紙。

国の重要文書にだけ使われる、高級な紙だ。


そしてその手紙には、

冒険者ギルドと、国のお偉いさんが連盟で、

俺たち<蒼天の燕>をAランク冒険者として認定すると言う内容が書かれていた。



俺たちは火竜を討伐し、

見事にランクアップを果たしたのであった。


これで喜ぶなという方が無理である。


「・・・でも本当に夢みたい・・・絶対に死んだと思ったわ・・・」


マルタが言う。

アルもゴウセルも同じように頷く。


「シリウスの攻撃が効かなかったら俺たちは全員火竜の腹の中だったな!!」


そう言ってゴウセルがまた大笑いした。




あの時―――――――


俺が放った雷鳴剣は火竜の逆鱗を貫いた。


その瞬間、火竜は今までに無い様な苦痛の叫びをあげ、

全身から血を噴き出し絶命した。

最強種と呼ばれる竜の、壮絶な最後であった。


最後の一撃を放った俺はその場で意識を失い、

アルとマルタは魔力不足で一歩も動けず。

ゴウセルに至っては両腕と左足が折れていた。


様子を見に来た冒険者ギルドの支援部隊に保護されるまで、

俺たちは火竜の死体のそばでぶっ倒れていた。



火竜の襲来に備え避難を始めていた街は、

討伐の報を聞いて歓喜に包まれた。

俺たちに依頼を出したギルド長は、

涙を流しギルド職員たちと抱き合ったと言う。


竜の討伐成功なんて、

このあたりでは何年ぶりのことだ。


俺たちは街の人々、他の冒険者、ギルド職員。

とにかくたくさんの人に感謝された。


Aランクに上がるために受注した依頼だが、

感謝されて悪い気はしなかった。





俺たちはアルの退院を待って、

盛大に祝勝会をあげた。


ギルド長も他の冒険者たちも駆け付け、

俺たちのランクアップと火竜討伐を祝ってくれた。


いつもはゴウセルが飲み過ぎると鬼の形相で怒るマルタも、

その日ばかりは何も言わなかった。

と言うかそのマルタ自身もしこたま飲んでいた。

すっごく飲んでいた。



「あー楽しいな、アル・・・」


俺は一番騒がしい席を離れ、

隅でチビチビと高い蒸留酒を飲んでいるアルの隣に座った。


「・・・ええ、本当に。今までこういうの苦手でしたが・・・なかなかに良いものです」


アルが答える。


「ハハハ、お前も冒険者らしくなってきたって事じゃないのか。良い傾向だ」


俺は言った。


「フフ、では私もいずれあんな事もするようになるんでしょうか。想像も出来ませんが」


アルの視線の先ではゴウセルとマルタがテーブルの上に乗って下手くそなダンスを踊り始めていた。

周りで他の冒険者たちが囃し立てている。


「ありゃはしゃぎ過ぎだな。まぁ分からなくもないが」


俺はそう言って笑った。

そんな光景を見ながら、

アルは何かを考えるような顔をした。



「・・・最後の」


「あん?」


「最後の一撃は偶然ですか?」


アルが訊ねた。


「・・・言いたい事は分かる。だがな、正直な話、俺にも分からねぇんだ」


俺は素直に答えた。

アルはそうですか、と呟いた。


「・・・あれから調べました。竜の逆鱗。確かに竜に関する研究資料の中では、あそこを弱点と認知するものもある様です。ですが世間的には当然に認知されているものではありません」


「そうか」


「・・・シリウス、貴方はあれが竜の弱点だと知っていたのですか?」


アルが尋ねた。

俺はアルの目を正面から見据え、答えた。


「知っていた」


俺の答えにアルが驚きの表情を浮かべる。


「一体どうして・・・戦いの中で見抜いたと?それとも私と同様に竜の研究資料を読みましたか?」


アルが早口で尋ねる。


「分かってんだろ?俺は本を読むのは得意じゃない」


下手をすれば字だって満足に読めないかも知れないんだ、

とは言わなかった。


「ではなぜ!?」


アルが興奮した様子で席から立ち上がる。

机の上の酒瓶が音を立て揺れる。


俺はアルから視線を外さず、

ゆっくりと答えた。


「夢だ」


「・・・夢?」


「前に言っただろ?不思議な夢を見るって。その夢の中でな、あの逆鱗に関する知識を得たんだ。あの瞬間、まるで俺がその本を読破したかのように、頭の中に情報が入り込んできやがった」


「そ、そんな馬鹿な・・・」


アルが言う。


「その通りだ、俺もそう思う。だがあの時はそれに賭けるしかなかった。それに奇妙なもんでな、俺にはどうしてもそれがただの夢だとは思えなかったんだ」


「その結果が・・・あれだと?」


「そうだ」


確かに俺の言っていることは荒唐無稽な話だ。

夢で自分の知らぬ知識を得るなど、ありえるはずがない。

だがあの瞬間、その夢の知識が俺たちを救ったことは明白だ。

それをただの偶然で片付けるのは、

いささか状況が揃いすぎていた。


アルは俺の言葉に、

何かを思案している様子だった。


少しの沈黙のあと、

恐る恐ると言った感じで口を開く。


「シリウス、貴方は・・・」


「あん?」


「・・・もしかすると選ばれてしまったのかも知れません」



アルが言う。


「選ばれって――――――」


いったい何にだ。


俺がそう言葉を紡ごうとすると、

中央のテーブルの方で再び歓声が上がった。


見ると、ベロベロに酔っ払ったマルタが

テーブルの上で服を脱ぎ出していた。


「あのバカ・・・!」


俺は立ち上がり、

マルタの方へと急ぎ向かう。


上着に手をかけ、

豊かな下乳を披露したマルタを静止し、

周りに大ブーイングを受ける事になる。


結局それで八つ当たり的に酒を飲まされた俺は、

半刻もする頃には意識を失っていた。

アルが言った言葉の意味を尋ねる機会は訪れなかった。


こうして人生最高の夜は更けていく。

酒場の喧騒は日が変わるまで収まることはなかった。




だがその翌日、

二日酔いの俺たちに思いも寄らない出来事が起きる。


なんと火竜討伐の恩賞として、

城へと呼び出されたのだ。



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