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私と私の改造計画  作者: 千夜子
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計画始動:その2


「おかえりなさいませ、リズベット様。」


王都内にあるバーグナー公爵邸は、歴代の当主達の気質が反映されている。決して狭くはないが広過ぎず、緑豊かで季節の花々が咲き誇るよく手入れの行き届いた庭。重厚な造りで、これまでの歴史を物語っているのに古臭くなく、威厳を保っている屋敷。それは不必要な華美を嫌い、手の内の物を大切に思うバーグナー家の家人達の色がよく出ていた。そこには、主人と職務に忠実な使用人達の努力も伺える。


私は、リズの事は勿論だがバーグナー家の在り方そのものがとても好きだった。



馬車を降りると、突然の帰宅時間にもかかわらず、優秀な執事は予測していたかのように、穏やかに迎え入れてくれた。


「本日は、少し早めのお帰宅だったのですね。授業の後、エドガー殿下とお話をされると伺っておりましたので。」

「ただいま、クリス。その件に関して、お父様にお伝えしなければならない事があるのだけれど…お父様はまだお帰りではない?」

「旦那様のご帰宅まで少々かかるかと。」


それもそうだろう。この国の宰相の任を預かっているバーグナー家現当主は、優秀すぎる手腕でこの国に無くてはならない存在だ。どちらにしても、落ち着いてリズと話がしたかったので丁度いい。


「では、お父様がお帰りになったら呼んでちょうだい。」

「かしこまりました。失礼ですが、私がお見受けする限りではお嬢様は少々お疲れのご様子。お部屋に温かいお飲物をご用意致しますので、少し休まれては?」

「ありがとう。お願いね。」


いつも通りに振舞っていても、敏腕執事の目は誤魔化せないようだ。



『リズ、少し落ち着いた…?』

私室のソファで少しくつろいだ状態で声をかけた。


『ええ、ありがとう。遅かれ早かれ覚悟はしていたもの、私のままでいればこうなるということも。殿下と出会って、私の話を笑って聞いてくださったあの時から私は好意を寄せていたのだけれど、殿下にとっては違ったのね。あなたが私にゲーム?の物語を聞かせてくれていたのに、信じたくなかったの…その…そんな、見た目だけで…人を、判断する方だなんて…でもそれも勝手な幻想ね。ごめんなさい、巻き込んでしまったわ。』

『謝らないでいいのよ!リズが毎日、たくさん勉強してたくさん努力して、あの自称美しいもの好き王子の為に頑張ってたの、私が一番知ってるんだから!私のリズの良さを見抜けなかったんだから、見る目は養われてないみたいだけど?』

『まあ!ふふふ…』


握りこぶしを作っての力説に、リズの笑い声が聞こえる。よかった…リズが笑ってくれてる。


『でも、今回の件は王族との婚約破棄。私は、公爵家の娘。…もう、まともな縁談は見込めないわね。お父様のお怒りを買えば、放逐されることも十分にあり得る話だわ。』


あの父親が、怒りに任せて行動するとは考えにくいが。しかし、放逐となると…


『え!?最高じゃない!最低限の資金だけ頂ければ、市井でトータルビューティーサロンを開こう!私が、リズを養ってみせるわ!』

『トータル…?あなたの言ってた前世の技術でってことね?』

『そう。任せて!王都でも領地でも、何なら他国でも。一番のスタイリストになって、リズに侘しい思いはさせないわ!勿論、第一号のお客様はリズよ?』

これからに胸躍らせて断言すると

『何故かしら。あなたといると、どんなことでも些細なことに感じてしまうわね。』

と、笑われてしまった。明るい声に、自分よくやったと褒めたくなる。そう、やはり誰であれ笑顔が一番素敵だ。より多くの人に笑っていてほしい、大切な人には尚更だ。


…まあ、自称価値のわかる男王子とヒロインだけは、論外だが。


コンコン。


「お嬢様。旦那様がご帰宅され、お嬢様に書斎へお越しいただくように言付かっております。」

「ありがとう、ターニャ。すぐに向かうわ。」


さて、どう話したものか。


『お父様には、私からお話しするわ。』

『大丈夫?』

『私の問題だもの。けじめはつけなければね。』


私と変わったリズは、しゃんと背筋を伸ばし前を見据えて歩き出した。やはり、いい女予備軍のこの子をフった奴の気が知れない。


「お嬢様…」


ノックの後、入室の許可が聞こえいざ出陣!と意気込む私達に、ターニャのか弱い声が横から聞こえた。振り返るとそこには、瞳いっぱいに涙を溜め肩を震わせる侍女の姿があった。


「ターニャ?」

「私は…ずっとお嬢様のお側におりました…これからもずっと…どこでだって!ずっとお側におりますから…」


もう、耳に入っていたのだろう。そして、リズを思い心を痛めてくれていたことに、嬉しさがこみ上げる。この子はこんなにも、愛されている。


「ありがとう。…では、いってくるわね。」


リズの声からも、嬉しさがにじみ出ていた。


書斎のドアの先には、優雅に一人掛けソファに座るリズベット・バーグナーの父、ジルベスター・バーグナー現公爵家当主がいた。


「失礼致します。おかえりなさいませ、お父様。私、お話がありこちらへ参りました。」


腕を組み、閉じていた瞳をゆっくりと開く時間がとても長く感じる。交わった視線に、背筋が凍り嫌な汗をかき落ち着かないが、おもむろに開いた口から出た第一声は、半ば予想していたものだった。



「殿下との婚約破棄の件、説明してもらおう。」




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