物語の予兆
私の名前はシラーユ·エルティカ。いきなりだけど、私の家庭事情は複雑だ。母と父の一夜の過ちで生まれてしまった双子。姉は父が引き取り、妹は母が引き取った。私は母に引き取られた妹だ。
母も父も貴族で、母の方は既婚者で伯爵夫人。父の方は子爵で未婚者。でも、最近子持ちの人と結婚したとか何とか。
姉がどんな扱いをされているのかはいまいち分からないけど、小さい頃から私は母の夫、つまり義父から冷たい扱いをうけ、義兄弟からは暴力をふるわれてきた。母は私にやさしくしてくれていても他の義兄弟とはやっぱり違った。
私のことは世間にも公表していないし、ほぼ扱いは使用人同然。一時努力したら自分の事を見てくれると思っていた頃があったから、貴族令嬢としてのことなら全てできるけど、今思えば無駄な事をしてしまったなぁと思う。
でも私は14歳のとき、魔女だと分かったため、強制的に魔搭へ通うことになった。
魔女だと分かったとき、母も義父も声を張り上げ『出ていけ』と言った。そのときはびびったけど、私はいつかあの家から出たかったし、出るのが早まっただけと思い魔法搭に住むことに決めた。
魔女と言うのは、世間から嫌われている存在だけど、魔女が作る品物はどれも一級品だから求める人は少なくない。そしてなぜか魔法搭からは一方的にライバル視されている。魔法搭は王家直属で、国のために頑張っているんだけど、魔搭はどこにも属さず自由にしている。だから名前も魔法搭の人達は魔法使い、魔搭は魔女とされている。
でも魔搭だっていろいろな依頼に答えているし、自由になんかしていない。……まぁ、一部を覗いて。
最近先輩に教えてもらったんだけど、魔女は魔法使いと違って闇魔法が使え、生まれたときから自我を持っているんだそう。だから私は双子の姉がいると分かったんだと知り、謎が解決された。闇魔法にも種類があるんだけど、私は一番危険な毒魔法が使える。
今私は16歳で、最近魔女(仮)から普通の魔女になったばかりだ。正式に魔女になると、上から搭のどこかに配属される。薄々わかってはいたけど、私は毒魔法だから毒研究課に配属された。一番入りたくないランキングずば抜けて1位。でも先輩は変わっているけどいい人だし、楽しくやっている。
「あーーー、3徹はきついわ」
ノエルさんはそう言って眠ってしまった。さっきまで私達毒研究課は依頼主から作ってほしいと頼まれた毒林檎を作っていた。
「まぁ、やっと出来たんですし、これから休めばいいじゃないですか」
「て言うか何なのよ毒林檎って!林檎は美味しい食べ物でしょうが!」
「……それ、何回目ですか?」
「軽く50は越えているわ」
徹夜して頭がおかしくなっているのか同じことを何回も繰り返すローザさん。本当に大丈夫なんだろうか……。
「まぁ、依頼主が何考えているのかが分からないわよね。半分は普通に食べれて、半分は毒が入った林檎が欲しいだなんて。毒って言っても食べたらすぐに体が麻痺して動けなくなるってだけだし……」
「でも依頼主さん綺麗な方だったわね。何て言うか……迫力美人?みたいな」
「貴族かな?」
「こら、依頼主のことを探るのはよしなさい」
私達が話していると、いつ起きたのかノエルさんがそう注意をした。私達は依頼主のことを探るような行動はしてはいけないのだ。
「「「はーい」」」
「……全く、適当な返事ね」
「私は今から寝るわ。……あ、その前にシラーユ」
「はい?」
いきなり指名されて気のない返事をしてしまった。まさかクビ?
「依頼主さんに毒林檎を届けてきてくれないかしら?」
「……え」
「やったねシラーユ!初仕事だよ!」
「いってら~」
「頑張れ!」
もう私が行くことは決定らしい。……初仕事。なんだかいい響きだ。ヘマしないといいけど。と言うか今午後9時だけどいいのかな。依頼主起きてる?
「住所はここだから。すぐに終わるし、帰ったら皆でパーティーでもしましょ」
「パーティー?」
「だって、今日国中の女の子が集まるお城のパーティーなのに、魔女は参加出来ないんだもの」
そんなの知らなかった。魔女は参加出来ないってなんかむかつくけど、人が沢山いるのは怖くて無理。魔女でよかったと今すごく思った。…あ、でも、パーティーに出ればもしかしたら姉に会えるかもしれないのか。少し残念。
「まぁ、行く気なんて更々ないけど」
「てな訳でシラーユ!いってらっしゃい!」
ノエルさんは私にローブを渡すと、不健康な笑顔で私を見送った。私は毒林檎を入れたかごを持ち、馬車で依頼主の元へ向かった。
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