漫才「ラーメン屋」
漫才7作目です。どうぞよろしくお願いいたします。
この作品は、youtubeにも投稿しております。
昼飯時、二軒並んだラーメン屋の前。
「いらっしゃい、いらっしゃい。ラーメンいかがですかあ」
「左亭と右軒かあ。どっちにしようかなあ」
「美味しいラーメンでしたら、こちらにどうぞー」
「たしかに、左亭の方がお客で賑わっているね。でも、右軒の方が空いているようだから待たなくてすむな」
「お客さん、右軒はやめときなさいって。左亭にしたほうがいい」
「そんなことを言うと、営業妨害で訴えられますよ」
「右軒は私の店なんだから大丈夫」
「え? じゃああなた、よその店の呼び込みをしているんですか?」
「ええ。そうですよ」
「なんでまた」
「隣は人気店でしてね」
「そのようですね」
「左亭が一杯になると、余ったお客さんは自動的にうちに流れてくるという寸法です」
「なるほど」
「はやく左亭を満員にすることが、うちの開店準備になるんですよ」
「ふーん」
「いらっしゃいいらっしゃい、おいしいよ、評判だよ」
「それって空しくないんですか?」
「もう吹っ切れましたよ」
「吹っ切れた?」
「うちは、一見さんしか来ないの。おんなじお客さんが二回来たためしがないんです」
「失礼かもしれませんが、お宅で出すラーメンは美味しくないんですか?」
「美味しいなんて言ったら、うそつき呼ばわりされかねません」
「努力すりゃいいじゃないですか」
「私だっておいしいラーメンを作りたかったですよ」
「ラーメン屋をやる人はみんなそうですものね」
「私なりにいろいろ試してみたんですが、なかなかうまくいかなくて」
「そうでしたか」
「頭を下げて、隣の店からつくり方を教わりもしたんですが、再現できませんでした」
「ご苦労されたんですね」
「どうやっても隣にはかなわない」
「悔しかったでしょう」
「左亭は、皿はきれいに洗ってあるし、店も掃除が行き届いているしで、お勧めする価値のある店なんです」
「それくらいは真似出来るでしょ」
「で、勝負するのは諦めて、生き残り作戦に出ることにしたわけです」
「なるほどね」
「勝手にうちの店に流れてきた客なら、まずいものを出しても、店を選んだ客の自己責任ですから」
「その方法で今後も商売を続けていけますかねえ」
「ここら辺には、この二軒以外にラーメン屋はありませんから大丈夫」
「案外順調なんですね」
「ええ。おかげさまで高い値段設定でも、お客さんは入ってくれるんですよ」
「そろそろ、お隣さんが客で満員になりましたね」
「こっちも商売を始めるとしましょうかねえ」
「いよいよですか」
「お客さん、お待たせしました。右軒へようこそ」
「俺はいかないよ」
読んでいただき、どうもありがとうございました。