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猟団掲示板から始まる物語  作者: クリクロ
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猟団家族会議編ー15ー

話の流れが一旦切れた際、俺はアイスコーヒーに入っている氷を1個だけ口に入れガリガリ噛みながら、ふと冷静になった。



それにしても皆んながこんなにもワイワイと、それも本気で話し合ってる光景を目の当たりにすると、あらためて家族(親族)の仲の良さに驚かされる。同時にゲームに対する熱量をひしひしと感じた。


こんなに本音で言い合えた事など、いつ以来だろう?

こんなに腹の底から笑った事など、いつ以来だろう?


そもそも家族全員で一つの案件について、ここまで徹底的に議論した事などあっただろうか?そんなことを考えていた刹那、頭の中に閃光が走った。



そんな、、、まさか、、、??




ここ数年、俺は仕事の忙しさを言い訳にしてコミュニケーションを怠り、リアル友人達の行為を無下むげにしてきた。友がどんどん離れて行くのは当然の流れだが、どう頑張ってもお誘いに対し断りを入れるしかなかった。それでもやっと時間が取れた際、俺の方から飲みに誘うと


「お前の店選びにはセンスがない」

「いつも忙しいんだから、金持ってんだろ??んじゃ、お前のおごりな」

「ゴチになります!!アハハ〜」


などと全員から雑に扱われた。俺なりに一生懸命考え配慮した結果に文句を言われるその繰り返し。


「なら店選んでくれよ」と反論すると

「お前が誘ったんだろ」と相手にされない。


また一度全額負担を押し切られた事で、

毎回財布扱いされている疑心暗鬼にもおちいった。




いつのまにか友人達との時間よりも『独り』という殻の中に固執する方が楽になっていった。『願っても叶わない』『手を伸ばしても届かない』『努力しても報われない』。そういう『噛み合わない』友との距離感を誰にも相談する事が出来ず、もがき苦しんでいた。


仕事に振り回された挙句、結局、仕事の忙しさに逃げ道を模索していた。




そんな俺に対し、今、家族みんなが光を射してくれた気がした。思えばこの会議、最初にわざと疎外感を印象づけ、そこから俺をグループの中に自然に溶け込ますよう、誘導されていた気がする。胸の奥にしまい込んでいた張り詰めた気持ちがスーと消えていくようなこの感覚。こんなにも笑いと優しさのある家族に囲まれている事で、共有する喜びを、コミュニケーションの大事さを気づかせてくれた。



俺は、俺は、独りじゃないのか??独りで頑張らなくてもいいのか??



よくよく考えれば、VCボイスチャットや4K導入話だけなら、わざわざ俺を帰省させなくても、電話やメールやゲーム内TCテキストチャットで伝えれば、それで済んだはず。しかし父さんは俺に『この光景』を見せたかったのだ。家族みんなが俺のことを心配し、ちゃんと支えてくれている、この『真実』を見せたかったのだ。


父さんは、とっくに俺の悩みなどお見通しだった。だからこそ今回、俺を呼び戻した。今年の正月は風邪を引いてしまい帰省出来なかったのだから、前回俺がお盆に帰省した時期、つまり1年近く前から準備をしていた。それから家族みんなで協力してゲームの知識を覚え、この『猟団家族』を作り、エマを介して俺を猟団に入れた。



……そう考えれば辻褄が合う。



何故、正体を隠してエマが俺に近づいて来たのか?もし俺が今はもう苦しみから解放されていれば、エマは正体を明かす事はせずフェードアウトも視野に入れていたのだろう。


何故、オンラインゲームなのか?俺がゲームをやっていたこともあるが、本人の姿が見えない状態だからこそ、ゲームのキャラクター越しであるからこそ、気兼ねなくコミュニケーションが出来る。そしてTCテキストチャットが馴れた段階で次のステップ、つまりVCボイスチャットに移行する。何よりも家族全員共通の話題が出来たという事が今回最大の肝になる。


何故、会議場所がファミレスなのか?最初に母さんはこう言った。「家だと母親モードだからね」。つまり『家族』としての距離感ではなく『仲間』との距離感に重きをおいた。実家という空間はどうしても気が緩む。さらに会議内容は『ゲーム』だからこそ真面目に討論しなければ、俺が『家族の本気度』に気づけない可能性がある。全ての違和感、全ての謎は、全て俺に繋がってくる。



全ては『俺の為』に!!



子供の頃、家族全員での山登り。俺がわざと山道を外れ『独り』で山頂を目指すが、急斜面の途中で立ち竦み(すく)一人で泣いていた所を、何も言わず叱りもせず助けてくれたあの時と同じように(猟団新規勧誘編参照)


……父さんは、今回もまた無言で手を差し伸べてくれた。



俺は、本当に遅ればせながら『猟団家族』の真の意味に辿り着けた。

俺は、今回の『家族会議』の真の目的に、やっと辿り着けた。






さりげなく父さんの方を見たら、俺の視線に気づいたのか少し笑って静かにうなずいてくれた。「気づくの遅いわ!!」と逆にツッコミを入れられた気分だった。当然、俺の目が潤んでいた事も気づいていただろう。でも、そこは気づかないフリをしてくれた。その父さんの優しさに応えるべく、俺は『今この瞬間だけは』我慢をした。



『お兄(鬼)の目にも涙』とは、この事を言うのだろうか?


みんなに気づかれないように俺はそっと席を立ち、トイレに行き個室の鍵を閉め一人泣いた。声にならない声が感情を高ぶらせ、『今度は』溢れる涙を抑えることが出来なかった。

もう少し続きます。次回『猟団家族俳句編」です。

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