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バルキュリア侵攻  作者: じょじょじょ
第二章 パルテノン
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二つの事実

おひさしぶりです



 バッカスの亡骸から脳が取り出され、保存液につけられた。

 3つの電極が脳に刺され、蘇生が開始される。程なくしてモニターに脳が生きていることが表示される。


『普通アクセスダイブは生きた状態でしかできない。けれどこいつは死んでるからな。

 脳を蘇生して断片的でも情報を抜き取るんだ。さあこれをつけろ』


 ジョーカーが専用の装置を玲人に渡した。ヘルメットのようなものだった。それを玲人はつけて椅子に座る。


『バッカスの精神に潜るぞ』


 うん、と返事をする前に、目の前が暗転し、玲人の精神はバッカスへと潜っていった。



 ―――


 目を開ける。

 見渡す限り暗闇しかなかった。

 水の中に潜っているような感じだ。

 周りにはやはりジョーカーがいた。


『懐かしいな、玲人以来だ。』


 そういえば叔父さんも僕にアクセスダイブをしたらしい。

 その時の僕はこんな感じだったのかな。

 しかし、感傷に浸る間もなくアクセスダイブはすぐに始まった。


「はじめます」


 上から声が聞こえた。

 やや曇っていた。

 目の前が歪み、映像が映し出される。


 時初めに映し出された画像、それは玲人の顔だった。

 バッカスが死の間際に思ったこと。それは初めての自分を殺す強者が現れたことへの賞賛だろうか。


 逆再生かのように巻き戻り、

 パルテノン侵攻前の映像になった。

 画面がある文書に変わる。


【"マスター"からの…】


 "マスター"、初めて聞く単語だった。


『主導者はつまり"マスター"か、』


 ジョーカーが呟いた。


 さらに映像は巻き戻り、バッカスが出発した星が映し出された。一面が薄黒い土でできており、所々にさらに黒い斑点がある。そして、茶色く霧がかる大地にそびえ立つ建造物群。外観からはっきりとその建物の用途はわかった。囚人を逃げ出させない高い塀、人木は目立つ監視塔。それは刑務所だった。


『おいおい、これは何の冗談だ?ここは刑務囚惑星バベルだぞ!』


 真銀戦始まりの地バベル。

 玲人はまだ見たことがなかったが、隣にいた浩二が頷いていたことから、それが刑務所であることを確信した。


 そして新しい情報にうろたえていた瞬間にそこで映像は途切れた。


「脳髄の損傷が激しく、再生はここまでが限界です。アクセスダイブ終了します」


 くぐもった医師の声。 また目の前が真っ暗になった。





 視界が現実に戻ると同時に目に入ってきたのは浩二の浮かない顔だった。


『バベル。あのバベルが真銀戦の本拠地なのか?』


『いや、わからない。だがそこに行けば何か重要なことが知れるのは間違いない』


 疑うように尋ねた浩二のその声を、ジョーカーは否定できなかった。


 バベルで再びはびこる真銀戦。それがわかったのはいい。

 問題はそこからだった。


『私と玲人は復讐のために行動している。その前段階でここに来る必要があった。だが、玲人の鍛錬もおわった。私たちは明日中にもこの星を飛び立つだろう。なぁジョーカー。一緒にこないか?』


 浩二が改まった様子でジョーカーに向き直る。突然その提案を切り出されたジョーカーは悩むように目を細めた。


 そう、ジョーカーは元々玲人の戦力増強のための指導官であった。

 彼は殲滅部隊隊長であり、この星の防衛の要なのだ。

 つまり、必ずしも玲人とともに行動する必要性はない。

 加え星の防衛力が脆弱になった今、ジョーカーが抜けることは大幅に下がった防衛力をさらに下げることを意味する。


 それらを加味し、ジョーカーは黙った。

 即決即断の彼か迷ったのだ。

 事の重大さは玲人でも知ることができた。


『考えさせてくれ』


 ジョーカーが扉を出て行く。

 続いて、シーナも出ていった。


 出て行く二人を見ながら浩二は今の現実について考えていた。


 今回の侵攻でバッカス、ムセイオンに勝てたのはジョーカーたち殲滅部隊の力があったからだ。玲人と二人で真銀戦に打ち勝つのは不可能に近い。

 しかし復讐を止めさせようとしても玲人は強引にでも行くだろう。

 ならば私がともについてくしかないのだ。たとえそれが無謀な賭けであったとしても。


 二人が出てゆき、部屋には再び静寂が戻った。


 ―――


 その日玲人は支部近くのホテルに泊まった。

 外は復旧作業の音で溢れていてなかなか眠れなかった。

 音は眠る時まで止むことはなかった。


 日が昇り、朝になった。

 まだ音は続いていた。窓から街の景色を望む。外では人がひっきりなしに動いていた。

 玲人が起きた時、ジョーカーからの連絡はなかった。それでも催促などしてはいけない。迷惑になるからだ。机の上などに散乱していた荷物をまとめる。浩二を起こし、日程の確認をしてホテルを出た。

 風が吹き、玲人の体を包んだ。けれど、この星に来た時のような寒さは感じなかった。



 ターミナルに着いたものの、やはり早朝のせいか人はまばらだった。


 刑務囚惑星バベルへの便は今現在存在しない。行く価値がないからという事情もあるが、それよりも星間連合による立ち入り禁止令が出ているためでもあった。

 だからこそ星間連合に許可をとり、プライベート機で行くことになる。


 浩二が窓口に許可証を提示し、滑走路へと行く。

 二人乗りの小さな飛翔船がそこにはあった。

 これでバベルに行くのか、と思うと頼りないほど小さかった。乗り込むためにそれに近づく。一歩一歩を踏み出すごとに、まるで引き留めるかのようにこの星での記憶が脳裏に返り咲いた。


『待てよレイジ』


 不意に後ろから声をかけられた。

 記憶の声と重なって、その声が現実のものであることを一瞬疑った。その声はどこなく怒っているようで……だけれど呆れたような声だった。


『待ってたよ、ジョーカー!』


 期待に声を震わし、玲人は振りむいた。

 そこにはやはりいつも通りの服装をしたジョーカーが立っていた。

 それに隠れるようにシーナがいた。


『シーナさんもくるの?』


 と玲人がいうと反論するようにきっぱりとシーナが言い返す。


『隊長が行くというならついて行くのが副隊長です』


『って聞かなくてよ、まぁ邪魔にはならねぇだろうからよ。ところでお前らそれでバベルに行くつもりか?』


『そうだが、それがどうしたんだ?』


 浩二は真面目に答えたつもりであったが、ジョーカーが笑う。


『はっは!冗談きついぜコウジ!そんなんじゃ本拠地に着く前に上でドカン!さ、行くならもっとマシなやつで行こうぜ?』


 ジョーカーが指し示したのはターミナルの隅に置いてある旅客飛翔船だった。加え、殲滅部隊専用の特別機。


『いいの?あんなの使っちゃって?』


 玲人が恐る恐る尋ねる。


『構わねえよレイジ!あれは俺のだからよ。もちろんあれでバベルなんて行ったらそこのオンボロと同じ運命だ。今から行くのはバベルに一番近い距離にある宇宙ターミナル、【ISS】だよ!そこには俺の戦友がいるからな、協力してもらう。そうとわかったら早く乗れ!部下たちが来ちまうだろ!』


 ジョーカーが玲人達を無理やり押し込む。

 扉が閉まる寸前、確かに玲人は聞いた、遠方でジョーカーを呼ぶ声を。


「ジョーカー隊長――!」


 部下たちだろう。けれどそれに構うことなくジョーカーは飛翔船に乗り込む。


『探してるけど……いいの?』


『関係ねえよ、次の隊長も副隊長も指名しといた。俺たちはもう部外者だよ』


 エンジンが点火し、後方から勢いよく火を吹いた。

 徐々に機体を取り巻く音が大きくなって行く。

 甲高い音が響いた、と思うとすでに飛翔船は上空へと舞い上がっていた。


「ジョーカー隊長――!」


 部下たちの叫び声を無残にも置き去りにしながら飛翔船は音速を超え、強烈な重力とともにパルテノン重力圏を脱出した。

 眼下には爆発によって作られた氷のせいで一部が白くなったパルテノンが広がっていた。


『じゃあね、パルテノン』


 呟かれた玲人の声は誰にも届くことなく、飛翔船は亜光速へと達した。


もう三月!?

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