振られた男、食われた男、殺風景な部屋にて
男はチャイムも鳴らさずに、ある人物が住んでいるアパートのドアを開けた。男の名はヨシキ。黒いシャツに黒いズボン、天パ混じりの髪の毛から雨水を垂らしながら殺風景の部屋に入っていった。部屋にあるのはソファーとテーブル。ソファーの上には男が寝っ転がっていた。
「ヨシキ、待っていたよ。」
ソファーで寝っ転がっている男が力なくヨシキを迎えた。彼はシン。痩せこけた頬が特徴的。
「ああ...
お前、なんで泣いてんの?」
ヨシキがソファーの上からシンの顔を見下ろした。
「振られたんだ。
相手は妻子持ちのノンケだし、暴力も振るう。デートだって一度もしたことがない。最低な奴だった。
でも好なんだよ、今も。」
「くだらん話だな。」
ヨシキはテーブルの上に散乱していたゴミの中からセロハンテープをとり、シンの腕に貼り付けた。よく見るとシンの腕は血まみれになっいる。
「切りすぎてイカの輪切りみたいになってる。この間もう切らないって言わなかったか?」
「いや、ヨシキが来ると思ってりんごをむこうと思ったんだよ。
そしたらこうなった。」
テーブルの上のゴミの中に、真っ二つになった立派なりんごと、血まみれの包丁があった。
「なんだか説明になっていないな。」
「なあ、ヨシキ。
太陽を浴びたら蒸発しないかな?」
全く噛み合わない会話。
「...」
「俺の中の「心」っちゅうくだらない機能だけ蒸発して、空っぽになりたい。心が大きすぎて、重すぎて、たまらない。」
「オレにはよく理解できないな。」
ヨシキが興味無さそうにつぶやく。
「そりゃそうだよ。僕が食べちゃったんだもの。おかげで胃はパンパンさ。」
シンがわざとらしく腹をさする。
「そんなもの食べれるわけがない。」
「そんなことはないよ。これは神様が課した、ヨシキを壊した罪だよ。
もうだめなんだ...
俺もヨシキも。」
「まるで蟻地獄だな。オレたちは殺されるのかな。」
「もう何を言っているのか自分でも分からないよ。
ただ俺達は終わる。」
0の男、無限の男、心溢れる部屋にて
無の男、こぼれた男、血まみれの部屋にて
神に殺される...