ショートショート「トンネルの怪」
あれは、ある暑い夏の夜のことだった。
私は寝付けず、鎌倉にある街道を流してドライブに出かけていた。
お気に入りの音楽を聴きながら山道を走り、ちょうど小坪トンネルに差し掛かったあたり、トンネルを通り過ぎようとした時に車の天井に「ドン!」と何かが落ちたような音が響いたのだ。
前方には遠く車のテールランプが小さく見えている。そこから何かが飛んできたような気配はない。
まるでトンネルの天井から何かが落ちてきたような。
そしてその大きさはちょうど、大人一人分。
私の背中に冷たい汗が流れた。確かここはそう言った伝説のあるトンネルだったはずだ。
鎌倉の幽霊トンネル。
その噂なら誰でも知っている。
恐ろしさにガタガタと震えが走り始めた私。
まさか、天井に張り付いたものは・・・
と、思っていると急に「バン!」と今度は窓ガラスに人の手が張り付いた。
大人の手形がそこにはベッタリと────
──── 私は全てを理解した。
…
バンバンと窓を叩く手にパワーウインドウを開けると黒いスーツを着た男がスルリと助手席に入り込んできた。
「前の車を追ってくれ。」
「ハッ、任せな。」
若い頃に走り屋として鳴らしたこの私を選ぶとはアンタなかなか見る目があるぜ。
一度映画のようなカーチェイスをやってみたかったんだ。そのまま天井に張り付いててもサマになったんじゃねぇかな?




