ショートショート「千里眼」
あの人にはすべてお見通しでした。
そんな“力”を持った、不思議な人でした。
あの人とは私の元夫のことです。名前をアキヒコさん、と言います。私が高校生だった頃の同級生で、よくジョージ君を含め仲の良い四人組で連れ立って遊んでいました。
“元”というのはもう、あの人は遠いところに行ってしまったから。
その事もいずれお話ししなければなりませんね。
不思議な人でした。しかしそれを極々当たり前のように振舞っていました。あまりに自然だったのできっとジョージ君は気づいていないでしょう。
ジョージ君が探し物をしていると、先に見つけてそっと目に付くところに置いておいてあげる。そんな日常を私はずっと見てきました。
そんな私から見たらとても凄い人でしたが、アキヒコさんは「自分にはそれしか出来ないんだ。まだまだだよ。」といつも謙虚に自分自身を戒めていました。
だから安心していたんですよ。
決して、無茶なことはしないって信じてました。
だから
あの人が「すまない、サオリ。」
と謝った時には本当に泣いてしまいました。
「後のことはジョージにまかせた。」
と消え入りそうな声で私に伝えて、
そのまま、静かに目を閉じました。
なんでもお見通しだったアキヒコさんの瞳
もしかしたら、と、思ってしまいます。
あの人は全て知っていて
最後に私と過ごす事を選んでくれたのかも知れません。
毎年、夏になると思い出します。
梅雨空の中でも、この日だけは綺麗に晴れて
あの人のように済んだ空気の中で
私はお墓を綺麗に拭いて、お花とお線香を添えます。
いつもと同じ、優しい風がまるであの人のように身体を駆け抜けて、遠くへと旅立っていきます。
そして私はいつもため息────
あの人は私がジョージ君と再婚してくれる事を願っていたようなのですが、
「そんなになんでも貴方の思い通りにはならないわよ。」
──── 馬鹿




