ショートショート「サトリ」
私の名前はミキ、銀座で弁護士事務所を構えているわ。これでも一応顔は広い方よ。なんと言ってもまだ一度も負けたことがない、というキャッチフレーズが効いているわね。大物の代議士も弁護士仲間からも頼られるようになってきたわ。
自分で言うのもなんだけど、これだけ仕事が出来ていい女ってそうそういないと思うのよね。
でもこの私が未だに独身って、世の中何か間違っているんじゃないかしら?
言い寄ってくる男共も多いのだけど、どれもこれもパッとしないというか、つまらない奴ばかりなのよね。
(これじゃ結婚なんて・・・。)
「これじゃ結婚なんて夢のまた夢よね、と、思ったろう?」
後ろから聞こえてきたその声にパッと振り向く。そこに居たのは最近突っかかってくる検察官のKだった。ひょろりと背が高くて猿みたいな顔立ち、目と目が離れていて、声も甲高い。またオールバックに固めた頭髪が全然似合ってない。
(なんなの?コイツ。)
「なんなの?コイツ。と、思ったろう?」
Kは私の考えてる事をピタリと言い当てる。まさかコイツ、“サトリ”じゃないでしょうね?
「これは厄介なことになった、と、思ったろう?」
奴の言う通り、本当に厄介な事になった。
Kとは来週行われる法廷で争う事になっていた。よりによってその相手が“サトリ”だなんて。こちらの手の内を全て読まれながら戦うようなものじゃない。そんな不利な戦い、今まで経験した事も無いわ。
「貴女の不敗神話もここまでですよ。クックック、来週を楽しみにしていますよ。ミキさん。」
Kはいやらしい笑い方をすると、手をひらひらと振りながら立ち去っていった。
私は何も言い返せず、親指の爪を噛みながらその背中を見送る事しか出来なかった。
翌週────
私はKを法廷でこれ以上ないくらいに叩きのめした。心が読めるからって何?全てさらけ出して正攻法で叩き潰してやるわよ。
全てが終わって帰り際にまた通路でKとすれ違った。
「可愛げのない勝ち方だったかしら?と、思ったろう?」
Kは悔し紛れに呟く。
「これじゃまた婚期が遠のくわよね、と、思ったろう?」
ふっ、当たりよ。
いいわよ、ついでに私が何考えてるのか当ててみなさい。
「次は・・・あっ。」
青ざめるK。
セクハラの代償は大きいわよ。次は社会的に叩き潰してやるから首を洗って待っていなさい。




