ショートショート「青山墓地の女幽霊」
俺の名前はジョージ、しがない探偵なんて稼業をしている。
依頼された仕事をかたずけて帰路に着いたとき、もう時刻は午前1時を過ぎていた。
愛車のメイフェアも疲れているようだ。俺も疲れていた。
──── 後味の悪い仕事だったぜ・・・
早く帰ってバーボンでもひっかけるとするか。俺はアクセルを吹かした。
青山霊園の前に差し掛かったとき、道端に佇む一人の女性の姿が目に留まった。
俺もつくづく女に甘い。
その女性の前で車を止めた俺の口元に、自嘲の笑みが浮かんでいた。
女は名前も名乗らず、ただ、行き先だけを俺に告げた。
色の白い女だ。透き通るように白い肌が妙に白い服に溶け込んでいた。
あまりの顔の青白さに、体調が悪いのか?と尋ねると、女は小さく頭を振った。
無言のまま、車は内堀通りを進んでゆく。
何故、こんな夜更けにあんな場所で・・・疑問はあったが俺は何も聞かなかった。
ただ、タバコの煙だけが、ゆったりとした時間の流れを告げていた。
女の目的地は下谷の一軒の家だった。ここが私の家です。そう言って女は家の中に消えた。
どうやら通夜をしているらしい。
ふと女の座っていたサイドシートに視線を落とすと、シートがぐっしょり濡れていた。
まさか・・・今の女は・・・
俺はまた、タバコに火をつけた。
メイフェアのドラムを叩くようなエンジン音が、俺に何かを語っていた。
そうだな…世の中にはひどい事をする奴がいやがる。
こんな日に誰にやられたのかは知らないが、心の傷は時間が解決してくれるさ。
さあ、飲みに行こうぜ、相棒。